クラリオンバブル
そして四日後、商人ギルドを訪れる。買取価格が張り出されている掲示板を見て、他の商人も騒めいていた。
「おいおい、遂に十倍だってよ」
「クラリオンバブルだな。いつまで続くんだろうか?」
「今からでも参戦すべきか? このまま二十倍になるかもしれねえぞ」
この大暴騰を見て、参加すべきか悩んでいる商人も多いようだ。何の商品もそうだが、誰もが買おうか悩み始める頃には一流の商人は既に売っているものだ。多分。
俺達の姿を見つけた、先日話した男が声をかけてくる。
「今日こそ良いお返事を頂けるんで?」
前回の鉄面皮と違って、ニヒルな笑みを浮かべている。どちらが素なのだろうか。
「それはそちら次第ですね」
「なるほど。こちらへ」
男に案内され、俺達は再び別室に向かう。それを見ていた商人達がこそこそ話し始める。
「あれは、この間のキノコ博士じゃねえか」
「クラリオンバードの羽も買い占めていたのか。なんという洞察力……!」
「王都の博士ってのは伊達じゃないな」
こうやって嘘が広まっていくのだろうか。
俺達は再び別室で対峙する。前と違うのは、少し男の表情が柔らかいことだろうか。
「現在の買い取り額は十・二倍です。で、どうされますか?」
それを聞いて、俺達は互いを見た後頷く。
「「全て買取でお願いします」」
「かしこまりました。助かりました。これ以上売って貰えないと、クビになるところでしたよ」
そう言って、男は笑う。
「クビということは、貴族からだいぶ突き上げを食らっていたようですね」
「ご明察です。既にご存じでしょうが、貴族でクラリオンバードの羽を使った帽子や衣装が流行ってましてね。生産が全く追いついていなかったのですよ。元々そこまで数のある素材ではないですからねえ。本来このくらいの金額で、特別に交渉はしないんですが、事情が事情なので声をかけたわけです」
ようやく手に入って安心したのか、内情を話してくれた。確かに俺達は隣町の羽まで買いまわったため多くの羽が俺達の手元にあったのだろう。
「ご迷惑をおかけしました」
悪いことはなにもしていないのだが、一応謝っておこう。
「まだ若いのに、良い情報網をお持ちですね。有望な商会が出たことはギルドとしては嬉しい限りです。売り時も素晴らしい。おそらく明日以降は下がると私は予想しています。ここら辺が売り時ですよ」
その言葉を聞いて、むしろこちらが感心した。その予想はメーティスの見立てと同じだからだ。
「ふふふ、これから王国一の商会になるんだから、覚えておいて損はないわ!」
ネオンが堂々と言い放つ。
「楽しみにしています。合計金額は、端数を切り上げて23,000,000Gですね。白金貨でお支払いもできますが、どうなさいますか?」
分かっていたが、その大金に驚いてしまう。23,000,000G。この間まで100,000Gしかなかったのに、既に数百倍だ。
「金貨で大丈夫です」
呆けている俺の代わりにネオンが返事をした。横を見ると、顔はにやけている。まだ完全なポーカーフェイスは俺達には難しいらしい。
「かしこまりました。既にご用意してあります」
男がそう言うと、扉から女性が大きな革袋を持ってきた。自らの手で持ってみると、ずしりとした重みが革越しからも伝わってくる。これが、金貨二百三十枚の重さなのだろう。
俺の頬も自然と緩んでしまう。これはスキルを使ったとはいえ、俺達が稼いだ金なのだ。だが、俺達も商人だ。室内で大喜びはするようなことはせず、礼を言って、ギルドを出た。
だが、ネオンはもう我慢の限界だったらしい。ギルドから出ると、すぐさま俺に思い切り抱き着いてきた。
「やったわ! 遂に23,000,000Gよ! これだけあれば、本当に小さな店も建てれるかも!ありがとう、シビルのお陰だわ!」
ネオンは目が僅かにうるんでいる。幸せそうに笑っている。通行人もその様子を微笑まし気に見つめている。
「ネオンが頑張って、色々な場所から買ってくれたおかげだよ。遂にここまで来たな!」
「うん! これからもどんどん稼ぐわよ! よーし、もう少しだけいい宿に泊まりましょう! あの宿、ちょっとベッドが固いのよね」
「早速使って大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫! 私に任せなさい!」
ネオンはご機嫌で鼻歌を歌いながら新しい宿に向かう。新しい宿はその佇まいだけで今までより良い宿であることが分かった。
「すみません、一泊お願いできますか?」
中に入るとネオンが、受付をしている女将に声をかける。女将はこちらをちらりと見る。
「はいよ。一部屋でいいかい?」
「別――」
「一部屋でお願いします」
話している途中で、ネオンに遮られる。
「あいよ。一部屋一日9,000Gだよ」
「はーい」
俺を置いてどんどん話だけがすすんで行ってしまった。鍵を受け取って、先に進むネオンに声をかける。
「どういうことだ?」
「二部屋じゃ高いでしょう? お金節約しないと、ってさっき話していたばかりじゃない」
「だが、男女が二人が一部屋っていうのも……」
「何言ってんのよ。信用してるわよ」
と無邪気な顔で言われた。こう言われると否定もし辛い。
「分かったよ。まあここの方がいい宿だからな」
これまでの行動で、ネオンの信頼はどうやら勝ち取れたらしい。それが嬉しかった。俺達はその夜、飲み屋で祝杯をあげた。その日食べたステーキは頬が落ちそうなほど美味しく、俺の忘れられない大切な記憶になったのは間違いない。
◇◇◇
その日、近くの湖で釣りをしていた老人が行方不明になる。身寄りがなかったため、その事実に気づかれたのは事件があってから二週間以上先の話になる。湖の近くではただ血だまりだけが残っていたものの、原因は不明であった。
お読みいただき、ありがとうございました!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、
『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると嬉しいです!
評価ボタンはモチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!





