ロックウッド領の暴君
執務室で日々伝えられる嫌な報告に、レナードは机に拳を叩き付ける。その音に、周囲の部下達も怯えつつも目を逸らす。
「なぜこんな体たらくなんだ! 領民は何をしている!」
レナードが部下達を怒鳴りつける。部下達もただ謝るだけで解決策を提示することはなかった。既にシビルがロックウッド領を出てから一ヶ月が経過している。
怒っている理由は一つだ。税金の減りである。なにも一ヶ月だけでそこまで減った訳では無い。部下から手渡された今年の税金予想額を見ての話だ。毎年右肩上がりであったのに、今年から急に悪化した。
「なぜこんなに少ないんだ!」
レナードは苛立ちながら、大きく歯を噛みしめる。それを見てひとりの文官が恐る恐る手を上げる。
「恐れながら申し上げます。やはり、農耕事業が止まったことがおおきいのでは?」
「儂の決断が悪いというのか、小僧?」
レナードが睨みつけると、文官はすぐさま目を逸らして謝り始めた。だが、レナードはしばらく書類を大事な事実に気付く。
「ん? 税率が間違っておるぞ? 三割になってるじゃないか」
(確か税率は五割だったはずだ。誤って三割で計算したため、ここまで減ってしまったのだろう)
そうレナードは解釈した。
だが、それを聞いたセバスが声を上げる。
「レナード様、うちは三年前から税率の引き下げを行っており、現在三割しか取っていないのです」
税額が減っていなかったため、税率まで把握していなかった。だが、レナードはまるで子供が悪事を思いついたかのような卑しい笑みを浮かべる。
「だいたいあの馬鹿が税金を三割に減らすから悪いんだ。これからは六割にする」
「そ、それは……。元の五割より高いです。どうかお考え直し下さい! せめて四割。確かに一時的には財政は良くないかもしれません。ですが、未来を考えると税率をさげることで領民が富めば、結果的に税額は上がるはずです!」
これはシビルが考えていたことだ。セバスはロックウッド領の未来を見据えて必死で働いていたシビルをだれよりも見ていた。そのため、その努力の成果がレナードの一存で消えることが耐えられなかった。
「五月蠅い。三割とか甘ったれたことをしていたからこんな税が減るのだ。少なくなったなら税率を上げるまでよ。 領民もこれで危機感を持ち、もっと頑張って儂のために働くだろう。ハハハハハ」
レナードの言葉を聞き、セバスの顔は絶望に染まる。このままでは三年前の借金まみれのロックウッド家に戻る。そう感じていた。
(それにしても、税率を三割に減らすなど、あの臆病者は何を考えておったのだ。こんな税率で良く回っていたものよ。あいつのことだから何か細工でもしていたのかもしれんな)
(妻も税納付額を聞いてから最近、少し機嫌も悪かった。だが、これで税金問題も解決だ。これで憂いも無く剣の鍛錬に励めるわ)
レナードは自分の指示に満足して、腰を上げるとそのまま執務室を去っていった。
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