乗るしかない、このビッグウエーブに
「最近、地味な稼ぎだな」
売り上げを計算しながら呟く。ネオンビル雑貨店を開いて、既に一ヶ月以上経過している。順調ではあるが、日常になってきたのだ。今日のピークは過ぎたので、少し余裕がある。
「十分売り上げてるじゃない。黒字でしょう?」
ネオンが呆れたような顔で言う。
「そうなんだけどね。もっと十倍になるような商品を仕入れたりしたいんだ。これから暴騰する商品を買い占めて、大商人に仲間入りするみたいな」
まあ、俺も本気で言っている訳ではない。世間話だ。
「戦争前の食料や、武器。エリクサーみたいな物? それは特別な情報網とかが無いと、中々上手くはいかないんだけど。うちにはメーティス様が居るんだし、聞いてみたらどう?」
それもそうか。そう思い、早速尋ねてみる。
『一週間以内に、デルクールにある商品で十倍以上値上がりする商品がある?』
『ノー』
まあ、当然か。
『一年以内に、デルクールにある商品で十倍以上値上がりする商品がある?』
『イエス』
まじかよ! か、買わなきゃ……! いや、もっと具体的な日時を調べないと動きようもない。
『一ヶ月以内に、デルクールにある商品で十倍以上値上がりする商品がある?』
『イエス』
Oh……。一ヶ月以内だって? これはビッグウェーブ来てるんじゃない? 乗るしかない、このビッグウエーブに!
「ネ、ネオン……ちょっと耳かせ」
と手招きする。
「何よ、急に……」
そう言いつつも、来てくれる優しい子だ。
「一ヶ月以内に、十倍以上値上がりする物が、デルクールにあるらしい」
「えええええええええええええええええ!」
俺の言葉を聞き、ネオンが叫ぶ。それを聞いて、左右の屋台の店主もこちらを向く。
「馬鹿、声が大きい!」
「ご、ごめん……。本当なの?」
ネオンも小声で話し始める。
「ああ。マジだ。まだ何かは特定してないが。早く動いた方がいいんじゃないか?」
「それは絶対そう。一ヶ月以内に上がるのなら、おそらく既に耳聡い商人は動き始めているに違いないわ。シビル、今日はもう店の手伝いはいいから、その商品の特定に全力を注いで!」
ネオンの目が輝いている。そりゃそうか。これはきっと俺達の中でも一番大きな取引になるはずだ。
「ああ、分かった」
裏に戻ると、さっそく特定に動く。
『それは食べ物ですか?』
『ノー』
『それは武器ですか?』
『ノー』
良く上がる物としてネオンが上げてくれた物では無いらしい。まあこれが上がるってことは戦争が近い、ってことだからいいんだけど。
『それは魔道具ですか?』
『ノー』
『それは魔物の素材ですか?』
『イエス』
魔物の素材か……。なにでここから更に絞るかね……。
『その魔物はD級以上ですか?』
『イエス』
『その魔物はB級以上ですか?』
『ノー』
『その魔物はC級以上ですか?』
『ノー』
ということはD級魔物の素材ということか。ここまでは絞れたが……正直魔物の素材なんてさっぱり分からん。ここまで絞ったら魔物名で尋ねるしかない。一度、ネオンに相談するか。
店番しているネオンに声をかける。
「D級魔物の素材ってとこまでは絞り込めたんだが、魔物について詳しくない。何かめぼしつかないか? デルクールにある素材らしい」
「デルクールに出回っているD級魔物なんてそんなに多くないから、特定できそうね。レッドクロコダイル、メロウタイガーとか?」
『レッドクロコダイルの素材?』
『ノー』
『メロウタイガーの素材?』
『ノー』
「違うみたいだ」
「後は、フォレストモンキーとか」
『フォレストモンキーの素材?』
『ノー』
「違うって」
俺の言葉を聞いた、ネオンが考え込む。
「えっと、他に何あったっけ? そんなにないはずなんだけどねえ。強そうな素材じゃないとしたら……クラリオンバードね 」
『クラリオンバードの素材?』
『イエス』
「クラリオンバードだ!」
それを聞いたネオンがにやりと笑う。
「納得だわ。クラリオンバードは、綺麗な虹色の羽をしているのよ。よく貴族様の装飾品として使われている。一体からそんな取れないし、数も少ないのよね。おそらく上がるのは羽ね」
『暴騰するのはクラリオンバードの羽?』
『イエス』
ネオンの読みは見事に当たっていた。
「ネオンの読み通りだ」
「やっぱり。ここは勝負をかけるわ! 今ある現金は2,200,000Gほど。これを最低限以外全てクラリオンバードにつぎ込む」
上がると分かっている商品を買い込まない理由はない。そう思うと、上がる商品を頑張れば事前に知ることのできる『神解』は本当にぶっ壊れスキルと言えるだろう。
「了解!」
「まずはデルクールで買い込んだ後、隣町まで買いに行きましょう。クラリオンバードは生息地が限られている。持ち込まれるのはデルクールと隣町が殆ど。早速動くわよ!」
ネオンは店じまいをすると、早速羽を探しに向かう。加工前の羽を売っている素材を扱う店を訪れた。
「こんにちはー」
「いらっしゃい。また若い客だな」
店主がこちらを見て言う。
「仕入れにきたわ。クラリオンバードの羽が欲しいの」
「貴族向けの商品でも作るのか? 一本、5,000Gだ」
それを聞いたネオンが少し顔を顰める。
「店にある分全部買い取るから少し下がらない?」
「元々うちにそんな数は無いから殆ど下がんねえぞ」
結局店にあった分五十本、羽を購入し店を出る。
「少しだけだけど、既に値段が上がっているわね。けど、ほんの少しだけ。買占めに動いてる、ってレベルじゃない。デルクールにある分は今日中に全て買い、その足でヘニングへ向かう!」
「了解!」
その後二店舗めぐり、追加で五十本購入した。合計百本だ。既に500,000G以上使っている。俺達はそのまま隣町であるダンジョン都市ヘニングに向かった。
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