#72 龍魔王vs真の王
「さあさあ、レッドドラゴン!」
「ええ……ゴエティックデモンズロード!」
再びぶつかり合う、二つの黒客魔。
先ほどまでゴエティックデモンズロードやゴエティックデモンを攻撃していた空宙装甲列車と即席の次元潜航艇は、いまやその反撃によりこの戦場から締め出され。
再び青夢とペイル、二人の戦いとなり。
黒客魔と魔人艦たちが纏うエネルギー体と三段法騎戦艦が纏うエネルギー体が、またも取っ組み合っている。
「hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト 怨念業火柘榴弾!」
「hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/、セレクト 大蛇殺し! hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/GrimoreMark、セレクト 毒牙弾!」
「エグゼキュート!!」
そうして、互いに砲門を開き。
至近距離で、攻撃を炸裂させている。
◆◇
「くっ、青夢が……一人であんな敵を相手に!」
「……方幻術君、またあそこに行けない?」
「ああ……そうしたいのも山々なのだが!」
一方、この戦いを遠くから見つめる真白と黒日だが。
無論見ているだけには行かず、剣人に再び戦場に戻れないかどうか確認するが。
「hccps://emeth.goeticdemon.sfbt/MorganLeFay/、セレクト! 楽園への道! エグゼキュート!」
「セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
「セレクト! 九尾――殺生石 エグゼキュート!」
「セレクト! 髑髏剣 エグゼキュート!」
「セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
「hccps://emeth.goeticdemon.sfbt/eingana/! Select, 虹の彼方 Execute! hccps://emeth.goeticdemon.sfbt/GrimoreMark/、Select 虹の前兆 Execute!!!」
「Select 取り替え子論争! Execute!」
「くっ!」
「ぐっ! そうね……これを、どうにかしないと!」
しかし、そんな彼女たちの逸る気持ちに水を差す攻撃の数々に。
「hccps://diana.wac/、セレクト 月の弓矢! hccps://diana.wac/GrimoreMark、セレクト 月の誘導火矢 エグゼキュート!」
「hccps://aradia.wac/、セレクト 叛逆の魔術!」
空宙装甲列車からも、多数の砲撃が放たれゴエティックデモンたちの攻撃を迎撃する。
しかし。
「くっ! すまん魔導香、井使魔! これは迎撃が精いっぱいで、とても再接近できるほどでは……」
「そうみたいね……」
「くう……青夢!」
状況は、概ね剣人の言葉通りであり。
真白と黒日は、歯ぎしりして車窓から青夢とペイルの戦場を見つめる。
◆◇
「さあ、これでは埒が明かないわね! さっさと私を倒したいあんたにとっては、残念ね!」
再び、青夢とペイルの戦場では。
尚も二つの黒客魔による砲撃が、取っ組み合うそれらの本体間においてぶつかりあっていた。
「いいえ、誰がそんなこと言ったかしら? あんたは倒さないわ、これからも世界の敵でい続けてもらうだけよ!」
「な……なんですって!?」
しかしペイルは青夢にとって、思いもよらぬ言葉を返したのだった。
「まったく鈍い奴ね……そりゃそうでしょ。あんたが死んだら次はまた誰か世界の敵を演じなきゃならないの、分かる?」
「く……そうね、たしかにそれは駄目ね……」
ペイルの言葉に、青夢はやや納得したような様子を見せる。
「まあ、ある意味あんたと同じくらい世界の敵を演じられる奴だったら誰でもいいんだけど、ね!」
「くっ!」
――青夢、気を付けて!
「ええ……ありがとうアンヌ!」
ペイルは話しつつ、ゴエティックデモンズロードらが纏うエネルギー体に三段法騎戦艦へと拳を振り下ろさせ。
青夢は間一髪、何とかアンヌの助けもあり三段法騎戦艦に防ぎきらせることに成功する。
「ふん、討ち漏らしたとはね……まあいいわ!」
「お生憎様ね! だけど私を倒そうという気概を感じたわ……やっぱり世界の敵は誰でもいいと感じたのかしら!」
「あら、殴られたら殴り返す主義なのね面白いわ!」
しかし青夢も、目には目歯には歯とばかり。
三段法騎戦艦エネルギー体に、ゴエティックデモンズロードとゴエティックデモンを覆うエネルギー体の鉄拳制裁を見舞う。
「ええ、まあその通りよ! そもそも……ユダマイニングの時だってそうだったでしょう? ザラストサパーマイニングが真のユダマイニングだと分かったら、それまでユダとされた人たちを叩いていた人たちが手のひら返したじゃない!」
「む! ええ……そうね!」
ペイルはゴエティックデモンズロードエネルギー体を駆り、またも三段法騎戦艦に掴みかかり。
それを受けて青夢も、三段法騎戦艦エネルギー体で攻撃を受け止める。
「そうよ、だから皆本当は誰でもいいの! 結局は誰だって、イスカリオテのユダを求めている! だからあんたの代わりだっていくらでもいるかもしれないけれど!」
「くっ! なるほど、誰でもいい、ね……」
ペイルの感情が昂ると共に、ゴエティックデモンズロードエネルギー体の攻撃の手も砲撃も更に強まり。
青夢は三段法騎戦艦を、後退させ始める。
「でも……安心したわ! あんたも、私と同じく全てを救おうとしてたのね!」
「はあ? ははは、相変わらずおめでたい奴ね! 私は別に全てを救おうなんて思ってないわよ!」
「な、何ですって!?」
だが青夢はそう言ったものの、予期せぬペイルの返事に驚く。
「世界を統一するというのは前にも言った通りあくまで真の王を目覚めさせるため! その後で世界を思うがままに弄べれば、もはや世界がどうなろうと知ったことかしら!」
「……ペイル・ブルーメ!」
ペイルは尚もゴエティックデモンズロードエネルギー体で三段法騎戦艦エネルギー体に殴りかかりつつ、そう言い放ち。
青夢もそれを受け止めつつ、声を荒げる。
「がっかりだわ、見損なった……今までで、一番ね! あんたにも世界を救う意志があるのなら、私が大人しく倒されるのも意味があると思えたけれど! そんなことなら」
「ほほほ、どうするというの! ならば世界の敵としての役割を放棄し、私や真の王を倒す? 笑わせないでよ、そんなことできやしない!」
「くっ……」
が、それでもペイルはそう言い放つ。
「よしんばできるとして、今や世界の敵によって保たれている均衡を崩すことになるのよ? そうすれば、世界は戦争になる可能性がある! それ分かってるわよね?」
「ぐっ! ええ、そうね……」
青夢は言葉に詰まる。
「……だから、新たな王レッドドラゴン陛下! あなたには、まだまだ私たち世界の敵でいていただきます! まああんたがいなくなっても、また次の世界の敵を探すまでだけどね!」
「む! くっ……」
勢いづいたゴエティックデモンズロードエネルギー体に、三段法騎戦艦は更に後退していく。
◆◇
「hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 匣の穴 エグゼキュート! ぐっ!」
「……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾、爆雷霆! エグゼキュート!!!」
「hccps://emeth.goeticdemon.sfbt/juno/、セレクト ! 嫉妬監視 エグゼキュート! さあ見えました敵機が、尹乃様! 華妖、亜魔導!」
「ええ、ありがとう……hccps://emeth.goeticdemon.sfbt/hekate/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍 エグゼキュート!」
「セレクト 電霊統率 エグゼキュート!」
「セレクト 黒き十字架 エグゼキュート!」
「くっ、ミリア!」
「このくらいで怖気付いてるなんて、まだまだよミリア!」
その頃、法使夏・ミリアによる擬似次元潜航艇勢は。
盟次により、再び宇宙に亜空間の穴が開かれるが、またもそこめがけてゴエティックデモンらの弾幕を喰らう。
「大丈夫か、皆! ……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 月――月地球化!」
「ええ、何とかね! ……hccps://rusalka.wac/……セレクト 儚き泡!」
「hccps://rusalka.wac/GrimoreMark/、セレクト 泡沫暴風雨 エグゼキュート!」
「あたしらも! hccps://martha.wac/ セレクト! 子飼いの帯 エグゼキュート!」
「ああ、騎士団長! hccps://circe.wac/!」
「はい、姐様! hccps://medeia.wac/!」
「edrn/fs/gogmagog.fs?arts=TwinStreamーーセレクト !! ツインストリーム エグゼキュート!!」
「ああ、僕も!hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! 聖母の悲哀 ! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷柱剣! エグゼキュート!」
しかし、負けじと。
剣人は遠隔にて、法使夏と力を合わせ。
元女男と矢魔道とで、亜空間より攻撃を放つ。
「また来たわ……hccps://emeth.goeticdemon.sfbt/pemphredo/、セレクト グライアイズアイ!」
夢零は、迫る攻撃を防ぐべく防戦する。
「ふっ……さて、また!」
――聞こえるかしら、マージン・アルカナ?
「! この声は、ペイル・ブルーメか……」
そうして盟次も、法機パンドラ内で戦況を見ていたが。
そこへ、通信でもなくネットワークを介してペイルの声が聞こえる。
――お久しぶりですわね……
「ああ、だがその名では呼ばないでもらいたいな! だがいい……貴様とは、一度話をしたいと思っていたところだ。」
――あら……波長があったようで嬉しいわ。
盟次はしかし、ペイルの話には応じる。
――どうかしら、もうあなたたちに勝ち目はないと思うんだけど?
「ふん、貴様らこそ! ならば、なぜ俺たちを泳がせているんだ? お前のその真の王とやらの力があれば、この電賛魔法システムと俺たちのリンクを切ることもできただろうに!」
盟次は、そう問いかける。
――ええ、まあいつでもそうできるけれど! 青夢が持つジャンヌダルクも真の王陛下よりは弱いとはいえある程度強い権限! それを私が許している限りあなたたちもまだ魔法を使えるわ……
「なるほど……そういうことか!」
盟次は長らくその点がしっくり来なかったが、ペイルのその言葉に合点する。
――ええ、でもすぐ終わるわ……別に世界の敵は青夢じゃなくてもいいもの! だからそうね……次は、あなたあたりがいいんじゃないかと思うんだけど。
「……何?」
ペイルは、そこで盟次にとって思いがけぬことを言う。
「世界の敵に? 俺がだと?」
――ええ、悪い話じゃないと思うの……あなたも青夢には因縁があるでしょう? それに電賛魔法システムにも縁があるし。
「なるほど……確かに悪い話ではないな!」
――あら……予想以上にあっさりしてるのね!
が、盟次は意外にも悪くない反応を示す。
◆◇
「やっぱり、私にはこの電賛魔法を終わらせるしかないわ……アンヌ! hggpに基り雷賛魔導書目録閲覧! サーチ ジ オリジン オブ マジック! セレクト……」
――ええ、青夢!
しかし、そこで青夢は。
あの雷賛魔法の、術句を唱え――
「おやおやこれはこれは……ようこそ、珍しいお客様でしたね!」
「……真の王陛下、ご機嫌麗しく。」
青夢がアンヌの力も得て、電賛魔法の根源へとアクセスするとそこは何やら王の部屋になっており。
青夢はここに、アンヌと共に転送され。
中央の玉座には、ソロモンが鎮座していた。
「……改めて真の王陛下、魔法をお作りになったこと敬意を表させていただきます!」
「ははは、何の! あの程度造作もないことですよ!」
青夢の言葉にソロモンは、事も無げに言う。
「……しかし。恐れながら、そんな魔法により多くの悲劇が生まれたのも事実です! あなたは、なぜそんな魔法を生み出されたのですか?」
「何故魔法を生み出したのか、ですか? ハハハハ! それは私が何故生まれてきたのかと問われているも同然に感じられますねえ。」
「え……?」
ソロモンはしかし、そう言い放つ。
「私はただ、元々あった魔力を利用したにすぎません! 何故そんなことをしたのか? それは、ただただ大きな力を使ってみたかった! それだけですよ。」
「……なるほど。」
――考えてもご覧なさい、今世界中に法機マリアや更に強力な法機が散らばり。これらを有力な国が保有している今、当然その力を皆他国に向けて振るいたくなるでしょう?
以前、ペイルが何故世界の敵を作ったか問われ答えた言葉である。
結局はソロモンにも、現代人とそこまで変わらぬ心があったということか。
「おや? ……どうやら、現実世界で何か起きているようですよ?」
「! え……?」
と、その時だった。
ソロモンが、現実世界の出来事を感じ取ったのである。
◆◇
――あら……青夢の奴、生意気にもアポなしで真の王陛下に謁見してるわ! まったく
「ああ……相変わらずなってない奴だな!」
再び、盟次とペイルが話をしているところに戻る。
青夢とソロモンの話の時より、少しばかり時を遡ることになる。
――ええ、やはり青夢に対して恨みがあるという点では私たち気が合いそうね……なら
「ううむ……すまんがそれは無理だなペイル・ブルーメ!」
――……何ですって?
しかし、何と。
盟次は、ペイルの提案を退けた。
「俺は貴様の案に乗ることに、メリットを感じない! 何故か分かるか? それはな……貴様が魔女木青夢よりもつまらないからさ!」
――な……青夢より、つまらないですって!?
ペイルは盟次の言葉に屈辱を覚える。
どんなことであれ、青夢に劣るなどと一番の屈辱である。
「ああ、何故つまらないか教えてやろうか? それはな、貴様からは大義を感じられないからだ! 貴様は真の王を掌握してそれからはどうする? 魔女木青夢のように、全てでも救うつもりか? いいや、そんな大義は貴様から感じられないな!」
――くっ……
盟次の言葉は図星であり、ペイルは言葉に詰まる。
――で、でも! 青夢の大義だって、あなたは青臭い夢って言ったじゃない!
「ああ、だが少なくとも面白い話だ! 貴様の話はつまらない。魔女木青夢が青臭い夢ならばペイル・ブルーメ……貴様はペイル・ブルーメだ!」
――ぐっ……この!
盟次の言葉にペイルは、すっかり屈辱に塗れている。
――よくも言ってくれたわね……ならば! この屈辱を晴らすべくあんたを世界の敵に!
「何を言っている、まだ分からないのか? 次の世界の敵は貴様自身だ!」
――な……何ですって!?
しかしペイルは、盟次の言葉に驚く。
そしてそれは、出まかせではなかった。
◆◇
「hccps://emeth.legion.mna/camilla……セレクト ファング オブ ザ バンパイヤ! エグゼキュート! ……ご覧ください、皆さん! これが真の王陛下の力を傘に着ている存在、ペイル・ブルーメですわ! さあ、後は皆さんの決意に委ねます……わたくしたちの真の敵とは誰でしょう!」
そんな中、大気圏内を飛ぶマリアナの法機カーミラにより。
――ははは、相変わらずおめでたい奴ね! 私は別に全てを救おうなんて思ってないわよ!
――世界を統一するというのは前にも言った通りあくまで真の王を目覚めさせるため! その後で世界を思うがままに弄べれば、もはや世界がどうなろうと知ったことかしら!
青夢とペイルの会話が、電賛魔法システムネットワーク内に共有されていたのだった――




