#70 魔法たる王
「そ、ソロモン王……?」
青夢は、目の前の光景にただただ困惑するばかりである。
なぜなら。
「……おや? ここは……見慣れない所ですねえ、上にも下にも星空がとは……」
魔人艦ゴエティックデモン36機が成す、12段立ての魔法陣頂きに鎮座する黒客魔ゴエティックデモンズロード。
その前に浮かぶ、光り輝く男性の姿。
――ええ、その通りよ。ソロモン王陛下……全ての魔法の祖にして! 魔法という概念そのものでもあるお方……
「あ、アンヌ?」
そんな中でもアンヌは、冷静に状況を分析している。
――私の腕輪は元々、ソロモン王陛下に縁のあるものだとは聞いていたわ! でもまさか……あれが元々指輪だったなんて!
「あの腕輪が、元々あの人の指輪……? 魔法の祖……っ!? ま、まさか……じゃあ!」
青夢は脳内の響くアンヌの声に、改めて男性――ソロモンを見る。
「ええ、その通りですわ……このお方こそ魔法という概念――魔法の根源そのものでもあるお方! ソロモン王陛下!」
「あれが、魔法の根源……」
「壮観であってね……」
「は、はいマリアナ様!」
「魔女木……」
「……真の王、か……」
「魔女木さん……」
「ううん、中々やんなあ。」
パールの声も、黒客魔ゴエティックデモンズロードから入電し三段法騎戦艦や空宙装甲列車、その他法機たちに聞こえてくる。
「……さあて。そろそろそのベール脱いだら? 暑苦しいでしょ、パール・アブラーム! ……いえ。」
青夢はそこで、パールに呼びかけるが。
一度二の句を継ぐのをためらった後。
「……ペイル・ブルーメ!」
「ほほほ……やはり分かりますか!」
ややあってからそう返すや。
パールはベールを脱ぐ。
その顔は、青夢と同じものであり。
彼女の脳から生み出された、VIによる魔男である。
◆◇
「ペイル・ブルーメ……」
「あの蒼い騎士か!」
「ほう……ブルーメ、生きていたか!」
「何だい何だい、くたばってなかったんだねえ……」
「は、はいメアリー姐様!」
「まさか、こんなところで……」
「はい、マリアナ様……」
青夢とペイルのやりとりを傍受していた空宙装甲列車の凸凹飛行隊や、元女男に矢魔道・盟次は驚愕している。
かつて自分たちとも対峙したことがある、もう一人の青夢とも呼べる存在である。
やはり彼らにも思う所はあった。
「……でもよかった、生きてて。」
「ふふ……ええ、そうよ! あんたもここまでくたばらないでいてくれたこと感謝するわ! そう、私は甦らされたわ……あの新たな女王陛下にね!」
青夢の、純粋な安堵の気持ちから出た言葉を嫌味と受け取ったか。
ペイルは、嫌味に言い放つ。
「ええ、でも……あなたが新たな女王様に甦らされたなら、これはどういうことなの? これじゃまるで、あなたが新たな女王様の誕生まで含めて全て仕組んだみたいじゃない。」
――戯言をほざきなさい! まるで自分が全て仕組んだようなことを……私が蘇らせてやった1VIの癖して、その恩を仇で返すようなことを!
以前パール――いや、ペイルが新たな女王に対し反逆を起こした際にその女王ディアナが言った言葉である。
だがその言葉は、今の状況を見る限り妥当であると言えよう。
「ええ、まあ私が復活できたのは新たな女王陛下のおかげよ……だけど! その後私は見つけたのよ……あんたへの尽き果てぬこの恨みを糧にネットワークを徘徊し! この真の王へと続くアクセスポイントたる法機マケダにねえ!」
「……なるほど。つまり、黒幕が入れ替わっちゃったと?」
ペイルはしかし、そう話す。
そう、法機マケダを手にしたペイルは次に真の王を求め。
その為に、自身の恩人ともいえる新たな女王たちを利用したのだった。
「その通りよ……だけど魔女木青夢! 元はといえばあんたたちが悪いのよ! あんたたちが筋書きが終わったものと勘違いしてダークウェブの王・女王としての役割を放棄してしまったことから筋書きにより大局的辻褄合わせとして新たに生み出されたのが新たな女王陛下なんだから!」
「な……そんな!」
が、次のペイルの言葉には青夢も驚く。
そう、新たな女王が生み出されたのはその為である。
「あらま……何ちゅうこっちゃ!」
「つまり……騎士団長のせいでもあると?」
「あらら……騎士団長。」
「あ、あたしのせいかいな……」
相変わらずそのやりとりを傍受している元女男の騎士団に、気まずい空気が流れる。
当時青夢の法機ジャンヌダルクと融合し黒客魔レッドドラゴンとなっていた法機マルタ――ひいては赤音が、ここにいるからである。
「おやおや……何やら盛り上がっていますねえ!」
「! あら……申し訳ございません真の王陛下! ……さあて。」
と、そこへ宙に浮かぶソロモンが口を挟み。
ペイルはパールの時の口調に戻り操縦席で敬礼する。
「……ふうん、まあ魔女木青夢あんたはそのままでいいわ! 問題はあなたたちよ、凸凹飛行隊に元女男の騎士団! 矢魔道士! それに飯綱法盟次!」
「ふっ……何が問題だ?」
そうしてペイルから、盟次たちに対して目が移される。
「問題でしょう……どなたの御前と心得ているのかしら!? 頭を低くして、真の王ソロモン陛下の戦列にあなたたちも加わらないと!」
「ほう?」
ペイルは彼らに、自軍に加わるよう命じる。
「……そうね。ほら、邪魔よ皆! 私は世界共通の敵、だから皆も早くソロモン王の軍に!」
「くっ、指図されたくなくってよ魔女木さん!」
「そ、そうよ魔女木!」
「魔女木……」
青夢はかつての仲間たちに。
これ見よがしに三段法騎戦艦各砲塔を向け、ソロモン陣営への参加を促す。
「ああ、そうだな……ならば! …… セレクト! 匣の穴! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート! ……セレクト」
「むっ!」
「あら……アルカナ殿!」
そんな中盟次は、ウィヨルとフィダール座乗艦に対しての時と同じく。
法機パンドラの力で亜空間を開き、法機ヘルによる火線をそこから浴びせ亜空間を閉じ、更に別の亜空間を開いて火線を浴びせ――の繰り返しにより。
青夢の三段法騎戦艦が纏うエネルギー体に、負荷を与えていく。
「その名で呼ぶな! ああ、言われなくともこいつは世界共通の敵……そして俺の獲物だからやってやるさ!」
「……まったく! まずはソロモン陛下への礼を尽くそうとは思わないの?」
勝手に攻める盟次に、ペイルは頭を抱える。
「これはこれは面白い! 見物ですね!」
「! 陛下……恐れ入ります。さて。」
だが気にした素振りを見せないソロモンに、ペイルは一礼し。
「……さて。あなた方はどうするのかしら?」
残りの面々に、呼びかける。
「……ええ、無論こうであってよ!」
「は、はいマリアナ様!」
「ああ、魔法塔華院!」
そこで凸凹飛行隊も、座乗の空宙装甲列車砲門を三段法機戦艦に向け。
「hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 太陽――日光による青空!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「hccps://crowley.wac/GrimoreMark/、Select 泡沫暴風雨 Execute!」
――ぐっ! 青夢、下部は私が引き受けるわ!
「ええ……ありがとうアンヌ!」
空宙装甲列車より泡の攻撃が三段法騎戦艦エネルギー体下部に炸裂し、アンヌはその部分のエネルギー体を強化する。
「まあそやな……あたしらも! 自分で撒いた種はなんとやらや!」
「ああ、騎士団長!」
「はい、騎士団長!」
「魔女木さん……すまない!」
元女男と矢魔道も、自機を動かし。
「hccps://martha.wac/ セレクト! 子飼いの帯 エグゼキュート!」
「hccps://circe.wac/!」
「hccps://medeia.wac/!」
「edrn/fs/gogmagog.fs?arts=TwinStreamーーセレクト !! ツインストリーム エグゼキュート!!」
「hccps://redserpent.mna/edrn/fs/samael.fs?demon_freezing=true――セレクト、魔王の氷獄! 聖母の悲哀 ! hccps://redserpent.mna/GrimoreMark、氷柱剣! エグゼキュート!」
三段法騎戦艦が纏うエネルギー体へ、攻撃を仕掛ける。
◆◇
「ふふ、それでいいのよ! さあて……魔人艦ゴエティックデモンの皆さん! あなたたちも世界共通の仇を討ちたくてうずうずしてるでしょう、ならば倒しなさいお任せするわ!」
それを見て満足げなペイルは、自機ゴエティックデモンズロード下にいる36の魔人艦ゴエティックデモンに命じ。
「分かったあ……さあギリシアンスフィンクス艦ちゃん……獅脚主砲に咆哮主砲旋回。 目標、世界共通の敵!」
「hccps://emeth.goeticdemon.sfbt/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍 エグゼキュート!」
「セレクト 電霊統率 エグゼキュート!」
「セレクト 黒き十字架 エグゼキュート!」
「む!? ぐっ……くっ!」
ギリシアンスフィンクス艦とヘロディアス艦隊から放たれた攻撃は、三段法騎戦艦へと向けられ。
それらは今三段法騎戦艦が纏うエネルギー体に更に負荷をかけており、青夢は肌でそれを感じる。
「くっ……hccps://reddragon.sfbs/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!hccps://reddragon.sfbs/GrimoreMark、セレクト 怨念業火柘榴弾! エグゼキュート!」
「!? きゃっ!」
「くっ、これは!?」
「こら敵わんわ……総員退避や!」
が、青夢はそこで三段法騎戦艦全砲門を開き。
そこから火球を放ち、それらはエネルギー体の外へ出た後で無数に散らばり炸裂して自身に向けられていた攻撃を振り払い。
それではたまらんと青夢を囲んでいた法機群は距離を取り。
「さあ……堕電紫衣機関、最大船速! 目標、黒客魔ゴエティックデモンズロード!」
――ええ……行きましょう、青夢!
そのまま防衛線を突破した三段法騎戦艦は、全速力で黒客魔ゴエティックデモンズロード以下法騎群に迫る。
「これはこれは……面白いですねえ!」
「ええ、まったくですわ……なら! この真の王陛下の力を思い知らせるまでよ……hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/、セレクト 大蛇殺し! hccps://emeth.goeticdemonslord.sfbt/GrimoreMark、セレクト 悪魔王! エグゼキュート!」
「!? あれは……」
それを受けてペイルも、黒客魔の力を使い。
たちまち自騎と、それ以下36機の魔人艦ゴエティックデモンを自騎象りしエネルギー体で覆う。
「さあ……来るがいいわ魔女木青夢! 我が不倶戴天の敵!」
「ええ、言われなくても……あなたを含めて全てを救うためにね、ペイル・ブルーメ!」
青夢とペイル。
そして龍魔王の宙飛ぶ三段法騎戦艦レッドドラゴンと黒客魔ゴエティックデモンズロード。
奇しくもかつてのネメシス星戦と同じく、しかしあの時よりも更に激しく。
もう一人の自分同士というべき二人は、激突せんとしていた――




