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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第6章 妖異の子
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第198話 功を焦った結果

 夜の大阪の街を、紺色の乗用車が疾走している。明らかに法定速度を超えているスピードだ。

 御堂筋を北上していく暴走車を、道行く人々が何事かと見ている。赤信号を無視して、歩道の人々が苦情を叫ぶ。

 その直後、サイレンの音が聞こえて来た。赤色灯を光らせた車両が、暴走車を追いかけていく。


「そこの東京ナンバー! 今すぐ停車せぇ! 大阪からは絶対に逃がさへんぞ!」


 乱暴な口調で叫びながら、覆面パトカーらしき車両が走り抜ける。だが乗用車は止まらない。

 待ちゆく人々は、今度は何の事件だろうと話し合っている。この程度の事なら、大阪では珍しくない。

 東京ほどではないが、事件が起きる件数は多い。大都市である以上は、避けられない事だ。

 ただし、追いかけているのは警察ではない。運転しているのは、大阪の妖異対策課であった。

 現在密かに大捕り物が行われており、大阪府警は一時的に妖異対策課の指揮下へ入っている。


「止まれ言うとるやろ! ええかげんにしとけや!」


 追跡している覆面車両から、再度警告が発せられる。妖異対策課の大阪支部は、少々血の気が多い。

 大阪府警から引き抜かれた者が多く、そのままの性質を引き継いでいる。何なら大阪府警よりも荒々しい。

 妖異という超常の存在を相手に、負けてたまるかと反骨精神を発揮している。非常に珍しい傾向だ。

 かつて(くず)()と呼ばれ、今はイズミと名乗っている支配者の影響が大きいのだ。

 大阪の母とでもいうべき、美しき妖狐。彼女の為に、躍起になって働いている。


「あきらめぇ! もう府外へ出られる道は、全部封鎖しとるからなぁ!」


 闘志溢れる大阪の妖異対策課。彼らが追いかけているのは、とある東京から来た男。

 乗用車で必死に逃走しながら、どうするか考えている。彼は東京の妖異対策課に所属している。

 少し前に上司が失脚し、汚名を返上せねばならなくなった。怨敵である大江(おおえ)イブキに、計画の一端を知られた。

 その上、大事なデータが入った荷物を、盗まれてしまう始末。彼の本当の姿は、妖異対策課の人間ではない。

 スパイとして、潜り込んでいるだけ。本当の所属は、とある裏組織の構成員だ。


「クソっ! どうしてこうなった!?」


 彼は罠にハメられた。以前強盗達の犯行に巻き込まれて、行方知らずだったアタッシュケース。

 それが見つかったと言われて、回収にやって来た。取引相手は大阪に潜伏している筈の、別の構成組織。

 輸送計画を立てた彼は、強盗に巻き込まれる原因を作った。そう評価されてしまい、捜索を続けていた。

 彼が必死で探していた事は、関係組織に居る者なら誰でも知っている。だからだろう、報酬を要求された。

 相手の組織は、とある計画において立場が低い。末端も末端で、もっと地位を上げたいのは、彼にも理解出来た。


 取引相手が求めて来たのは、取り入るべき相手や企業のリスト。より上を目指す為の、材料を要求した。

 逃走中の男は、中堅組織に所属している。組織図で言えば、中の下と表現するのが相応しい立ち位置。

 彼の失態のせいで、評価が少し落ちてしまった。元々居た中の上寄りの立ち位置に、どうしても戻したい。

 関係組織の情報を渡すのはリスキーだが、目的の為なら致し方なし。話せる範囲の情報を持って来た。

 しかし、彼が到着した取引場所で待っていたのは、妖異対策課大阪支部の隊員達だった。


「どうなっているんだ!? なぜ私の情報までバレているんだ!?」


 猛スピードで走行しながら、大阪の街を北上していく。彼は知らないが、これは計画的に練られた作戦だった。

 とある容疑で、大阪にあった企業へガサ入れが行われた。特殊詐欺、所謂トクリュウ系の疑いがあった。

 警察は捜査中に、おかしな情報を発見する。人身売買と思われる取引履歴だ。その相手は、東京に居る。

 だがどうにも、扱っている人間がおかしい。若い女性や、子供ではない。前科を持つ元犯罪者ばかり。

 その情報が妖異対策課まで持ち込まれ、詳しい調査が始まった。判明した情報が、イズミに報告される。


「はよ止まらんかい! 無駄や言うとるやろ! お前の身元は分かってんねんぞ!」


 イズミは当然イブキから、情報提供を呼びかけられている。何かおかしい行動を取っている、人間達についての情報だ。

 犯罪者の売買なんて、妖異と行う取引だ。人間同士がやったところで、メリットなんて薄い筈。

 おかしいと思ったイズミは、捕まった関係者の記憶を覗いた。そして見つかったのが、怪しい集団。

 黒澤会(くろさわかい)という巨大な裏組織。捕まった者達は末端らしく、詳細が殆ど分からない。ただ、人工の妖異と繋がりを感じさせる。

 どうもそれらしい情報を持っていた。ならばこの組織の、もっと深い位置に居る人物を捕まえれば良い。


「クソぉ! どうすればいい!?」


 イブキの提案で、この困っているらしい男を罠にかけた。東京の妖異対策課、その名簿に載っている。彼を。

 東京の妖異対策課が怪しい事は、既に分かっていた事だ。捕まえてみる価値は十分あった。

 捕まったのが組織の末端すぎたせいで、上層部はこの事態に気づけていなかった。

 なぜなら逮捕について、公表されなかったからだ。怪しい情報が入った時点で、イズミが待ったを掛けたのだ。

 あとからガサ入れの件についても、記録から抹消された。殆どの構成組織が、関東ばかりなのも影響した。


 使い捨てぐらいに考えていた組織と、少々連絡がつかなくても誰も気にしない。その程度の存在。

 だからこそ、致命傷になってしまった。最近続いた組織内のバタバタと、長壁姫(おさかべひめ)への対処。

 そこばかりが注目されていたのもある。組織の上層部は、慎重に動いている。だが、トカゲの尻尾は違った。

 のし上がる為の金を求めて、特殊詐欺に手を出した。お粗末な犯罪を行い、警察に疑われた。

 普段のシノギには、妖異が絡んでいる。だから隠蔽だって、簡単に行われる。同じ感覚で、犯罪に手を染めた。


「くっ……仕方ないか!」


 スパイの男性は更にアクセルを踏み込み、山道のガードレールを突き破る。夜の空を舞う車。


「おい飛びよったぞ!?」


 続々と追跡に集まっていた、妖異対策課の車両群が、崖の手前で急ブレーキをかける。

 ガサガサと木々をかき分けながら、乗用車が落下していく。その途中で、男性が運転席を飛び出す。

 妖異対策課にスパイとして潜伏するぐらいだ。様々な訓練を受けている。このような無茶も行える。

 崖の上で妖異対策課の隊員達が、急いで崖下へ向かうように指示している。その隙に、彼は逃げるつもりだ。


「よし、このリストさえ守れれば……」


「そこの殿方、少しよろしいでしょうか?」


 適当な崖から跳び下りた筈なのに、いきなり女性から声を掛けられた。スパイの男性は驚く。

 振り向けば、誰かの気配がしている。暗闇のせいで、姿がよく分からない。ただ声だけなら、若い女性と分かる。

 彼は警戒しながら、人影の方をジッと見つめる。狙って待っていたなんて、あり得ない話だ。

 ここで崖から飛んだのは、ただの思いつき。偶然ここへやって来た。誰かが待っている筈がない。

 彼は有り得ない状況に、かなり混乱している。まさか、ここへ導かれたのか。そんな嫌な予感がしている。


「どうやら、イブキ様の仰った通りのようですわね」


 乗用車が爆発炎上し、周囲が一気に明るくなる。真っ赤な灼熱の炎が、人影を照らし出す。

 外見だけなら、20代前半に見える。花柄の和服を着た、若い女性だ。真っ白な肌が、赤く照らされている。

 女性らしい柔らかな輪郭と、小柄な体格。非常に美しいその姿を、男性は見た記憶があった。

 何よりも、決定的な名前が出ている。つまり彼女は、酒吞童子、大江イブキの配下という事。


「お、お前は!? 橋姫(はしひめ)!? 一条あた――ごっ!?」


 袖口から見えていた細い腕が、男性の頭を鷲掴みにする。男性の方が体格は大きいのに、まるで抵抗出来ない。

 

「貴方の記憶、全部頂いて行きますわね」


「や、やめっ!? まっ――」


 男性の制止も虚しく、全ての記憶を一条愛宕(いちじょうあたご)が抜き去っていく。彼女には、一切の容赦がない。

 愛宕の腕を振り解こうとした腕が、力を失いだらりと垂れる。残されたのは、記憶を失った廃人だ。


「イズミ様、ご協力ありがとうございました。――ええ、それでは失礼致します」


 遠くで監視していたイズミに、礼を伝えて愛宕は手を離す。男性の体が、地面に転がった。


「ふふふ、さあ雅樹(まさき)様にご報告――ではなく、イブキ様にお伝えしなくては」


 楽しそうに笑う愛宕が、闇夜に消えていく。炎上した車が、木を巻き込んで燃え続けていた。

雅樹を揶揄っている裏で、イブキは手を回していましたという話です。

同じ鬼の愛宕さんを、エージェントみたいに使っているという裏の顔もちら見せ。如何せんサブキャラなもんで、出し所さんが難しい。


そしてご報告です! 本作がカクヨムコンテスト11の中間選考を突破いたしました!

約7.5%という恐ろしく狭き門、俺でなきゃ見逃しちゃうね。というアホな発言は、ともかく。

他にも本作にまつわる報告と、感謝を31日の活動報告へ上げております。もし良ければそちらもご覧下さい。

コンテスト自体はカクヨムの話ですが、なろうの読者様も無関係とは思っていませんよ、という話です。

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