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ep74 小女たち

 場面変わってその日の昼休み、人通りの少ない校舎裏、側溝付近の段差に女子高生が3人。


「ごめんね。ゆっくりお昼食べたいだろうに、連れ出しちゃって」

 () (いいよ。2人とも誘っ) (てくれてありがとう。) (なんか、こんな陰気な) (ところしか知らなくて) (……」) 

「いいよ。アタシも、教室は視線感じてなんか窮屈だったし。このくらい落ち着いてるほうがいいや。いや、そうでもないのか―」


 ミサとミヤは持参したサンドイッチを開封する。もう一人の少女は、手作りの弁当を取り出した。それを見た2人は温かくて素敵な弁当だと純粋に思った。


 名前は、篠芽ささめサヤカ。

 ミサの席が窓際一番後ろのいわゆる主人公席、その右隣がミヤの席、そして、彼女はミサの前の席だった。眼鏡をかけた声の小さいおとなしそうな子。転校生の様子を伺う空気に耐えかねて、ミサが前に座って文字通り本を持っていた彼女に話しかけたことから始まる。

 本が好きな人間は日中の教室で本を出さない。これは常識だ。本の中の世界に没頭したいのに、教室なんて騒がしくて落ち着かないところで開いても内容が入ってこないから。だから、図書室や放課後の教室など人の少ないところで読むのだ。つまるところ、この女の子は自分の世界に入れず、退屈しのぎに出した本も手につかない、手持ち無沙汰な状態なのだ。それは話かけるにはちょうどよかった。

 女の子は3タイプが存在する。何もしなくても可愛い子、垢ぬければちゃんと可愛くなる子、垢ぬけてもたいして変わらない子、まったく世の中は残酷だ。そして、多くがどれにも属さず、どれにでもなれる何もしてなくて普通の子であり、可能性を秘めた状態なのである。しかし、垢ぬけるというのは、それまでの自分を捨てることを含んでおり、はたしてそれがいいことなのかと少々哲学的に考えてしまわなくもない。

 これは人の容姿にああだこうだとケチをつけているのではなく、可能性やいい予感を見せてくれる人って魅力があるよねというごく単純な感想だ。かくいう彼女も、初対面に好感もクソもないが、ただ不快感はなかった。それが話しかけるに至った決め手だ。

 自信がないのか、声も態度も小さい、謙虚で優しそうな少女が、ミサとミヤにとって、初めての同年代の同性の友達ということになろうとしていた。


 日陰で始まった出会ってまだ数時間の女子高生たちによる女子会は、つつがなく『起』で終わった。


 1人の少年が3人に近づいてくる。平均より少し小さな体格で、メガネをかけた猫背気味のごく普通の高校生男子だ。


「あのー、古取さん、でいいのかな。初めまして。」

「初めまして。それで、あの……。申し訳ないんだけどあなたどなた様?」

「隣のクラスの井守いもりといいます」

「何か用? 井守くん」

「いえ、あのー、連絡先を聞きたくて……」

「ジャン負け? それともパシリ?」

「いえ、その……」

「罰ゲームか脅されてなのか聞いてるんだけど」

「頼まれて……です」

「そう。じゃあ、自分で聞きに来なって伝えといて。おつかいお疲れ様。ありがとう、井守くん」


 井守少年は食い下がらずに何かを言おうとしたが、ミサの迫力に負けてか、反論を飲み込んで去って行った。少し古風な表現を使うと、ミサもミヤも「カタギの人間じゃない」ので、普通の少年なら怖いと感じてもおかしくはない。まあ、関わりにくい気の強い女の子って感想に落ち着くはずだ。


 ミサもミヤももう少し優しく断ってあげたほうが良かった(のに)みたいな反省をしていたら、隣のサヤカは気が引けたようだった。どうやら、男の子と話すのがそこまで得意ではないらしい。というか、話しかけられて(実際に話したのは隣のミサ)、脳がバグったらしい。結論にすると、どれだけ同級生男子と喋ってないのかって感じだった。


「ねー、サヤカちゃん、井守君にお使い頼んだのって誰かわかる?」

 (「ええっと、阿須河() (あすかわ)君じゃない) (かな」)

「どんな人?」

 (「えっ、なんかカッコ) (いいって言われてる人) (だよ」)

「アタシらもうすでに、イケメンチャラ男に目をつけられたのかぁ。まだ学校来て4時間なのに」

 (「なんかおじいさん?) (が政治家らしくて、) (ね」)

「最悪な俺様タイプじゃん」

 (「それはステレオタイ) (プなフィクションすぎ) (るよ。良い人だよ。女) (の子からの人気も凄い) (はずだし」)

「それって、その阿須河って人が狙ってるじゃなくて、狙われてるってこと? 性格良くてモテてんのかよ、クソ。性格ゴミクズクソ野郎を成敗できるかと思ったのに」

 (「なんかヒーローみた) (いだね、ミサさんっ) (て、カッコいい」)

「ヒーローかあ。アタシにはその資格はない」

 (「あ、私、次の授業の) (準備あるから先に行く) (ね。2人も授業もうち) (ょっとで始まるから気) (を付けてね」)


 少女は先に行ってしまった。双子はひと気のない校舎裏に残された。


「行っちゃったね。私たちも一緒に行ったほうがよかったかな」

「わかってないなあ、ミヤちゃんは。サヤカちゃんは私たちから一旦離れて1人になりたかったんだよ。突然来た私たちがいつもの平穏を乱しちゃったからね。私たちも、こう振舞って入るけど、視線とか緊張とかあるしね。苦しくなったんだよ、彼女も」

「じゃあ距離置いたほうがいいのかな」

「違う違うそうじゃない。電池切れたから充電終わるまで待ってじゃなくて、モバイルバッテリー取ってくるからちょっと目を離すね、って感じだよ。教室戻ってまた話しかければいいんだ」

「そうなんだぁ」

「それにしても、学校も悪くないね。モテてるって感じで自己肯定感がバグる」

「それはたぶん今だけだよ」

「わかってるよ、アタシ、ガサツだし」

「いやそうじゃなくて。この学校裕福なんだよ。平均が世間の平均よりは断然高い。私たちは目新しさや新鮮さはあっても安定した未来も後ろ盾もないから。足が速くてモテるのは小学校低学年までってことだよ」

「ひどい。いいすぎだよ」

「阿須河君っていうのが篠芽さんの言う通り実家の太い性格の良いナイスガイっていうのは本当なんだろうけど。そんな人がなぜ人に頼んで声を掛けに来たのかはわかんない」

「恥ずかしかったんじゃない?」

「性格がいい人ならそんな回りくどくて印象が悪くなりそうなことしないと思う。それに連絡先だけなら他のクラスの人でもクラスのグループチャットから入手することはできる。そしてこの学園に頭の悪い人はいない」

「はいはい、アタシはその例外のバカですよーって」

「今回はそこまで言ってないのに」

「アタシだってバカ隠すのに必死なんだから」

「大丈夫。ちゃんとバカじゃないから」


 姉ミサは女の子らしく、感情の機微にはそれなりに敏感であれた。生まれつき感情の乏しいミヤはともかく、普通の子よりも長けていた。かつて戦場に立っていた頃は、そのおかけで危機を脱したことも多かった。一方の妹ミヤは、状況把握や分析に長けていた。理論的で理性的という方が的確かもしれない。それは、感情の乏しさゆえの冷静さもあるが、やはり2周分の経験が大きいだろう。決して長いとは言えないが、人2人分の人生経験は大きな意味を持つものだった。


 古取ミサと古取ミヤ。外見は見れば双子だとわかるくらいには似ているが、その中身は大きく違う。一度目の人生でありながらそれなりに悲劇に見舞われてきていて、それでもなお前に進んでいる姉と、3周目にして得た長命を乏しい感情で生きていくことになった妹ミヤ。その凸凹をお互いに補うために、2人はきっと姉妹として生を受けたのだろう、もし神がいたのならばそのことだけは感謝できる。

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