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ep72 ジョーカー

「えー、皆さん。今しがたハイジャック犯たちを制圧しました。よかったですねえー」


 その言葉を受けて各車両から歓声が上がる。人々の安堵のあたたかな声がとても心地よい。だが、ショウたちのいる6号車では、ネイの棒読みチックな音声に違和感を抱いたのか、表情が引き攣って歓声が弱い。


 その予感は見事的中した。


「で、なに歓声を上げているんですか? 皆さんは今だなお人質ですよ。なんで、助かると思っているんですか? 我々が助けなくちゃいけないんですか。理由がないですよ」


 絶望の叫びとブーイングが聞こえてくる。6号車の乗客は2度目のため、今度はまだ声を上げない。


 絶望に落としてから希望を見せる、鞭の次は飴を、そんな古典的な文法で、ネイは放送を続けた。


「そこで、皆さんにチャンスを与えましょう。今日ここで起きたこと一切口外しない、それが皆さんを解放する条件です。漏らすのであれば、今度はあなたが狩られる番です。嘘とか脅しじゃないですからね。守れないのであれば、我々は今ここであなたがたではなくハイジャック犯のほうを解放してもいいんですから。なぜそこまでするかって。それは我々のポリシーの問題です。強盗を捕まえた一般人がニュースに出まくってるのを見ると、なんか萎えるじゃないですか。人を救ったその瞬間はヒーローでも、その後はただの一般人ですから。ヒーローっていうのは教員免許とかみたいな一生使える資格じゃなくて、とても賞費期限が短いものです。ヒーローになることも、ヒーローだったことも、総じて無価値です。誰かを助けたその一瞬だけ名乗ることを許される儚いものです。ヒーローがヒーローでいられるのは、映画という短い時間の中だけです。その一瞬の切り抜きが全部だと勘違いしてはいけません。我々はもうあなたがたのヒーローではないので、勝手に祭り上げて後ろ髪を引っ張るのはお止めください。ご理解いただけましたでしょうか? 異議がある方は手を挙げてお知らせください。対処させていただきます」


 乗客はすんなりと静かになった。ごちゃごちゃ言っていたが、兎に角、助かったことに感謝して黙っていればいいのだ。難しい話ではないはずだ。


 ショウは立ちながらネイの放送を聞いていた。柳原という男もまだ立っていた。そういえば会話の途中だった。無視してもよかったが、丁寧に会話を終わらせてやることにした。


「だそうだ。俺は名乗るほどのものじゃないよ。というか、忘れろって言われただろ。知ったら次に死ぬのはお前だ」

「なんかホラー映画みたいだ」


 すると男の横の少の女が立ち上がって、ショウに飛びつくとその外套に頬ずりしてきた。抱きつこうにも腕が後ろに縛られたままだからであろう。


「お兄ちゃん、ありがとう。大好き」


 いきなりの出来事に、ショウはフードを被ったままで見えないはずの顔を逸らした。ヒーローじゃないし、それを気取るつもりもないし、誰かを救ったつもりもない。むしろ悪役でいたいのだ。他人からの感謝なんていらない自分の望んだ以上のものは求めていない。自分の見知った人が死ななかった、それだけで十分だった。見知った人を増やしたくなかった。だから、どうやってあしらうべきか全力で考えた。別に泣かせるほど冷たくしたいわけじゃないが、かといって優しくは決してしたくない。


 そこに、しれっと戻ってきていたネイが横から口を挟む。


「お嬢さん、この人がなんで顔を逸らしたかわかりますか?」

「なんで?」


 可憐な年齢一桁の少女は、純粋な目を丸くしてネイを見つめる。


「『ブラジャーするようになってから出直してこい、このアマ』ですよ」


 続けて、


「あざとくて節操がないですねえ。将来が心配ですよ」


 乗客皆がほっこりしかけていたのに、一瞬で冷たい空気なる。どの口が言ってんだよ、誰もそう言いかけたに違いなかった。純粋な子供の優しさであるはずの行動に、本来ではそこにあざとさを見出してはいけないはずなのに、普段そうやって自制をかけているからこそ、こうやって意識してしまったがゆえに、あざとさという単語が人々の脳裏に付着してしまった。年の近い十代の少女ネイが言うからこそ余計に、だ。


 乗客の女の人は、何言ってくれてんだみたいにムスッとしている人が多かったが、男の人の一部は、苦い顔をしていた。きっと、あざとい女に苦い経験があるのだろう。


「あんた、人のこと言えるの?」

「私はちゃんとスポブラしてますよ。それに私は“これから”なので」


 ネイは未来と可能性の詰まった胸を張る。

 ミサは聞いたことを後悔するかのような呆れた表情をしていた。


 列車が引きずるような音を立てて遅くなる。駅に着いたようだ。


「柳原さんつったっけ? ちょっと後ろ向いて」


 ショウは、その男の腕に巻かれた結束バンドをナイフで切り離す。


「俺らは先に退散させてもらうから。幸運を祈ってるよ」


 そういって、ショウたちは誰よりも先に現場を去った。




 ♢♢♢♢




 その夜、とあるネットニュースが出回る。


『停車中の電車で銃撃戦 死者28人』




「あーあ、結局こうなっちゃいますか」

「いいじゃないか。これのおかげで俺らの所業を知る人間は減ったし、それどころじゃないだろうし、変に情報が洩れることもなくなったじゃないか」

「そうなんですけど、なんか愚かすぎて溜め息も出ません」

「まあ、死者が出なかったわけじゃないし、復讐のひとつやふたつ起きてもなんらおかしな状況ではない」

「それに、あの犯人たちをどこにやるのかは依然問題としてありましたからね。なんせ、警察はもとより、取り締まってくれるはずのBBも今は機能していないですから」

「これなら俺らの手で始末したほうが結果的に犠牲者は少なくなっただろうな」

「私たちが最善を選ばなかったように、彼らも最善を選ばなかったんですから。人間というのは、いつの時代もこういう生き物なんですかね」

「ジョーカーを生んじまったな」

「何にでもなれるはずワイルドカードが、よりにもよって一番最悪のカードになってしまう。そして、周りにまで影響を与える。誰が、何かを掛け違えて狂い始めるその瞬間に立ち会うかわからない。アーサーにだって違った結果があったはずだ、舞台に立っていたのはあなたのほうだったかもしれない、と。まったく、『That's life!』ですよ」

久しぶりの更新になります。お待たせして申し訳ありません。

初めて、後書きというものを書いてみます。読みにくいのはご容赦ください。そして、ここから先は作者の自我が散見されると思いますので、それが苦手な方はここで自らマウスのサイドボタンを押してください。左上のバツ印を押す方はついでに高評価ボタンを間違えて押していただけると、間違いなく作者は喜びます。


いつも読んでくださっている皆様、たまたまこのページを見てしまった方、数ある作品の中からこの作品に目を通していただきありがとうございます。こんなド・マイナー作品ですけども、読んでくださる皆様の存在が大変嬉しいです。

思い付きで始まったこの作品ですが、ここまで物語を綴れてこれたことに作者自身も驚いています。またひとつ章が終わったところだと思いますが、書きたい物語、やってみたい展開、扱ってみたいテーマなど、アイデアは尽きていないので、引き続き更新していきたいと思います。いかんせん遅筆のため、気長にお待ちください。コメントしていただけると、催促には応じます。

突然ですが、ひとつ悩みを打ち明けますと、タイトルを今でも考えています。安直過ぎるとか、わかりにくいとか、短いタイトルは流行ってないとか、まあ情報が少なくてネット小説には向いていないとは自覚しています。しかしながら、そういう逆張っている感じが物語とマッチしているとも思っています。ただ、流行りの長いタイトルにも、ハードボイルドな英字のタイトルにも憧れがあって……。しっくりくるタイトルが思いついたら、いつか急に変えるかもしれません。もしある日急に変わっていても、変わらず彼らを見つけて、その物語を見守っていただけると幸いです。こんな作品を相も変わらず追ってくださっている方々は少なく見積もっても逆張り気質だと思うので忠告させていただきますが、タイトルが変わったから逆張って読むの止めるとか、勘弁してください。まじのマジで本当に。


この小恥ずかしい語りも、頃合いを見て削除しようかと思います。自分語りはうざいので。


長くなりましたが、いつもあたたかなご声援をありがとうございます。これからも彼らの活躍にご期待ください。

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