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其の二十七「繭の中で待つ」
暗闇の中、身動ぎをする音だけが虚しく響く。
寒々しいセーラー服だけの格好。
独りきり、膝を抱えて誰の声も聞かぬと耳を塞いで。
喧騒は遠く。ずっと遠く。
彼女の頭の中に響く放送の音と、キーワードだけが焼き付いて離れない。
たった独りで閉じこもる。繭のように。
その場所に続く冷たい扉に手のひらを当てて、ひとり下駄を履いた少女がため息をついた。
俯けば、その耳に飾り付けられた目玉型のピアスが揺れる。
「あなたがやれるというのであれば、協力はします」
分厚い鉄扉の向こうへ、その言葉は届かない。
彼女の言葉は、閉じこもる者へ向けたものではなく、独白のように続いていく。
「もう、待てませんよ。早く来なさい」
――下土井、令一。
噂は成った。なら、あとはその噂を彼女の物とするだけである。そう、彼女の前で、彼女を赤いちゃんちゃんこではないと否定し、そして……。
「お願いしますよ」
閉じこもる少女を愛するさとり妖怪が、そう呟いていた。
『紅子消失まで、あと一日』
「走れ旦那、タイムリミットは今日の日の入りまでだ!」
彼と彼女の最後の一幕が、上がる。




