表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/225

其の十二「怪人アンサーとの問答」

 ひとつ、怪人アンサーからの質問は必ず答えること。

 ひとつ、答える際には絶対に迷わないこと。

 そして恐らく、こういった「問答」や「願い事」を扱ったものに対しては、具体的な言葉で話さなければならない。

 よくある「三つの願い事。ひとつめの願いは十個願いを聴いてほしいこと」なんてズルはしてはいけない。

 怪人アンサーがいくつ質問を受け付けてくれるかなどは知らないため、なるべく最初の一回で済むようにするべきだ。念のためと言って「何回質問してもいいですか?」なんて質問をして、その一回で終わってしまったら悲惨だからな。


『まずハ、アナタサマから質問をどうゾ。けれド、覚えていてくださいナ。最後にハ、アタクシからも質問があるということヲ』

「承知している」


 考えろ。これは舌戦。

 俺が適切な言い方を判断しなければならない。

 アルフォードさんや真宵さん、刹那さんに春国さん。皆に頼ってはいけないところだ。


 相手は怪異、怪人アンサー。

 必ず質問には答える。そして、その答えが正しいものであると噂に定義された存在だ。正しく扱えば、それは詩子ちゃんの未来視とも並ぶ。未来視と違う点は、最適解を教えてくれるということか。


 言い方を、選ばないと。


「……紅子さんを、赤座紅子を赤いちゃんちゃんことしてではなく、紅子という怪異として誕生させたい。噂を一週間で広げ、それを達成するために必要な手段はネットの書き込み以外にいくつあるか。また、その手段はどんなものか、教えてほしい」


 心臓がどくどくと煩い。

 これでいいのだろうか、これでよかったのだろうか。間違ってはいないだろうか。そんな風に不安に思いながらも言い切った。

 迷ってはいけないと、言われているから。

 しばしの沈黙。くすくすと含み笑いするような音がして、己の行為が無駄なものだと笑われたような錯覚さえ起こしてしまう。

 違う、こんなものは被害妄想に過ぎない。相手の答えを待つんだ、俺。不安に飲み込まれるな。


『なんテ、無謀な試みでしょウ。たった一週間デ、アタクシと同じモノを作ろうとするなんテ。分かりましタ、お教えしましょウ』


 無謀だなんてことは俺が一番理解している。

 たった一週間で噂を人々の間に根付かせるなんて、本当は到底無理なんだ。

 けれど、俺はそれをやらなければならない。紅子さんのためだなんて綺麗事を言うつもりはない。これは、『俺のため』だ。


『いくつとは断定できるものではありませン。一人や数人でできるものではありませんかラ。時間が足りないならバ、導入人数をたくさん増やすべきでス。アナタサマの〝借り〟が膨大になることに目を瞑れバ、可能でしょウ。それかラ、(ぬえ)に事情を話シ、協力を仰ぎなさイ。彼ならバ、噂を広げる存在に心当たりがあるはずでス』



 人数を、増やす。

 友達である刹那さんや春国さんは俺に協力したいから協力しているが、俺の知らないヒト達はその限りじゃない。対価が必要となる。神妖に借りができる。

 神やあやかしに借りを作る行為はとても恐ろしいことだが、この際迷っているわけにはいかないんだな。呼びかけて、借りを作る代わりにネットの書き込みをしてくれるよう要請して、今まで出会って、交流した全ての人に協力を頼む。

 ここ彩色町だけではなく、県外に住んでいる神妖だっているわけで……全国各地でぽつぽつと、そして一斉に噂が広まり出したとしたら……? 話題性はさらえるはず、だ。


 それから、怪人アンサーの言う「鵺」ってヒトも探さないと。

 こう言うってことは、その鵺一人で噂を広げていけそうな人脈があるととってもいいんだろうし。

 なりふり構わずに頼る。そうすれば……、そうだ。


「……怪人アンサー、君は手伝ってくれるか? 同盟の電子掲示板の管理人なんだろ?」


 スマホをスピーカーにしているわけではないので、春国さんが俺の言葉に驚いたようにリアクションをとる。失敗すれば五体を持っていかれるような怪異相手によくこんなことを言えるな、なんて俺自身が思っていることだ。

 しかし、つい口から出ていた。


『アタクシからの質問をヒトツ追加しましょウ。この後の問答ニ、アナタサマが答えられなければ五体のうち二つをいただきまス。それで手打ちですヨ。噂の内容が決まり、アナタサマが書き込んだそのあとハ、アタクシも拡散に協力することヲ、それで保証してあげましょウ。口約束ですガ、リップサービスですワ』


 提案しておいて言うのもなんだが、とんだリップサービスの内容もあったもんだ。それって、俺が失敗さえしなければほぼ無償で協力してくれるってことじゃないか。結構優しいな、このヒト。


「ありがとう……こっちの用はそれだけだ」

『ならバ、今度はこちらかラ』


 ひとつ、沈黙。

 それから彼女の質問を聞き逃さないように強くスマホを耳に当てた。


『アタクシの五体が揃うのハ、何年後の何月ノ、何曜日でしょウ?』


 来た、この質問だ。

 これを間違えれば……俺は五体を二つ持っていかれることとなる。

 五体とはつまり、手足と胴体のどれか。さすがにそんなものを持っていかれるわけにはいかない。


 考えろ。

 答えるときに、迷ってはいけない。けれど、デタラメでもいけない。

 考えろ、なにが正解か……? 


『アタクシの言葉を信じテ、実行しようとしているその気概にハ、感心いたしまス』


 え、いや、そりゃあ、だってなんでも知っている怪異なんだから信じるに決まって……待てよ、もしかしてこれヒントか? 

 なんでこのヒト、こんなに協力的なんだ……。これがヒントだとすると、答えは……。


 目を瞑る。

 これでいい、これでいいはずだ。


「君の五体が揃うのは、三百年後の三月、水曜日だ」


 迷わずに、言い切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ