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第三話 言霊

 


 さて、と。何故長々と魔法と魔術の違いについて説明をしたか。渋い顔をしながら(二歳児だとかなり難しい)結論を言うと。


 どうやら、私は、魔術が使えるらしい。


 …うわぁいー。やったねぇ。すっごく嬉しいなぁ。自動魔法製造機使えるなんてラッキー。果報なんて寝て待たなくても聞けたよ。


 なんて半ば呆然としながら喜んでみたりもしたけれど、私はこの考えを改めなければならないらしい。



『あ、るじ。あるじ。きこえ、てる、あるじ?』



 そう。なんと、言霊は人間と会話が出来る、超ハイスペックな機能を身につけていらっしゃったようだ。しかもそれをことあるごとに発揮してくださるものだから、喧しくて仕方が無い。今だってそうだ。


『あるじ、ある、じ。あ、るじ、だ、いじょぶ?あるじ?あ、るじ、きこえ、ない?』


 シェナローぜは脳内に響く言葉に聞こえない振りをしながら本のページをめくる。アスティラ国の地理が事細かに記載されている、そのページに理解できない単語がでてきた。面倒だと思いながら、辞書を探すため席を立つ。


『あ、るじ。あるじ。や、ほんと、に、きこえな、い?や、やだ、ふ、ぇ、ふぇ、ふぇええええ!ある、じぃいいいい!!』


 キーーンと耳鳴りが酷くなるのを感じ、本棚にかざしていた手を降ろす。

 まずい、このまま放っておいたら鼓膜をぶち破られそうだ。

 右、左、右、と横断歩道を渡る幼稚園生のように、目を細め辺りを確認する。

 よし、人はいない。扉は閉まっている。


『あ、あぁるじぃ、ある、じぃ』


 嗚咽を漏らしながら主、主と連呼するその声音にうんざりしながら渋々返事を返す。


「どうしたの、ライト、何の用」


 言霊の名を呼び、早く話を終わらせようと短く声を発する。だがその事を理解していないライトは無邪気に喜んだようだ。


『あ、ある、じ!ふぇ、よ、かった、きこえた!あるじぃっ』


 これ、人型を取っていたら飛びつかれるんじゃなかろうか。

 自意識過剰だ、と心のどこかで自分に突っ込んだ。だがそう思ってもおかしくないくらいライトは声のトーンを上げる。


『あるじ、ある、じ!くる、くる、よ』


 興奮したように響く〝くる〟という言葉。


「…どういう意味?何がくるの?」


『おな、じ!あるじ、と、おなじ、にお、い。ち、におい』


「私と同じ血の臭い?…待って、それって」


『かぜの、やつ、が、おしえてくれ、た。おとこ、あか、まっか、かみ』


「赤い髪の男?それに私と同じ血の臭いなのね?」


 瞬時に、心当たりのある人物が脳裏に叩きつけられる。

 お父様のような理知的な目元に、お母様のような燃えるその色を持って生まれた、今となっては非常に妬ま…羨ましい人。


「お兄様…帰ってくるのね」


 今世で私の唯一の兄妹。

 アマンドラ・ハナト・レンベル。

 大変見目麗しいお顔をお持ちの、十四歳のお兄様である。私とは十二も歳が離れている。


「風の子が教えてくれたの?その子、まだ話せる?」


『ん、できる、なに、しりたい?』


「私と同じ血の臭いがする赤い髪の男は、今何処にいる?って聞いてみてくれる?」


『ん。ん。ん。ん。……………………』


 少しの間流れる、頭の中の静寂。

 何分か経つと、再びキンとしたら声がきこえてきた。


『ん、ば、しゃ。いる。もん、ちかく』


 どのようにして風の子と連絡を取り合っているのかずっと謎だが、かえってきた答えにそんな疑問は記憶に埋もれる。


「馬車に乗ってて、もう門の近くまで来てるの!?」


 じゃあ既にこの家に着いてるってことじゃない!お兄様が帰ってくる予定なんて聞いてないわよっ

 誰もいない書庫で誰かに向けて悪態を放つ。

 ちっ、お父様とお母様は滅多に顔を合わせないから仕方ないとしても執事長かメランダくらいは教えてくれても良かったじゃないの!


 慌てて本を棚に戻してこれからの事を考える。


 最善策としてはお兄様と顔を合わせないのがベストよね。だけどこの屋敷にいたんじゃそれも難しいかしら。広いと言っても夕食などでお目にかかるだろうし。問題はいつまでの滞在になるかってことね。後でメランダに確認しておこう。もし鉢合ってしまった場合には、冷静に、四歳児らしく、お兄様大好きを演じるしかないわね。うん、取り乱さないよう心がけなくちゃ。

 ぶつぶつと懸案事項を潰していく。私がこれほど兄について悩まなくてはならないのには理由がある。


 ザックリ言うと、兄は腹黒だ。

 それはもう、腹に狸どころか龍を飼ってそうなくらいの大物な腹黒。僅かに十四歳にして、お父様の側近を掌で転がすくらいには真っ黒である。ちなみに天才すぎて首席で王都の学校に入学したそうだ。顔も頭も良いとかどこの主人公ですかと突っ込みたくなる。

 彼の終始絶やす事のない完璧な微笑み。誰にも見せた事のない素顔。だが私は知っている。兄が十三歳で、家に短期休暇で帰ってきた時、とある計画が上手くいった最後の、恐ろしくどす黒い笑顔を。

 今だに兄が怒ったところを見た事はないが、…あの兄がお怒りになったらきっとこの家は終わると思う。


 そんな感じのお兄様だ。万が一私が前世の記憶を持っているなんて感づかれたら、果てしなく面倒な事になるに違いない。前に一度「幼児しては理解が良すぎる」と呟いたのを聞いた時には心臓が止まるかと思った。深い意味はなかったろうけど、メランダの裾が離せなくなったね。メランダも腹黒だけどあそこまでどす黒いオーラは放ってないもん。まじでちびるかと思った。


「まずは、メランダの帰りを待つべきかな」


 残念なことにメランダが側にいないことには、動くことができない。だがこの書庫に居ればあのお兄様に鉢合うことはないだろう。

 なんで帰ってきたのかは知らないけど、我が家へ帰ってきてまず書庫へ足を運ぶことなんてないだろうしね。大人しくメランダを待っていよう。お母様の湯あみって言ってたから、三十分くらいで戻るかな。もう二十分は経ったから、あと十分くらい?

 収まった動悸を確認してから、暇を持て余さないために再び本棚へ戻る。アスティラの歴史は前に大雑把に見たから、魔法の続きでも覚えておこう。水魔法の 初級 中級 上級はいけたからどうせなら師級まで極めちゃおう。


 魔法は、『水 火 木 土 熱 雷 』の計六つある。それに準じて言霊の種類もそれなりに居るわけだけど、まあその話はまた今度。で、レベルが 初級 中級 上級 師級 帝級 神級 まである。帝級はこの国でもそれぞれ一人いるかいないかくらいの規格外のレベルらしくて、国一つ壊滅させられるくらいの技術があるみたいだ。もちろん厳重に管理されている。その人自体がね。


 神級に至っては歴史上四人しか生まれていない。今の時代では世界で一番軍事力のある帝国に一人存在しているのみ。それも噂では帝国にいると言われているだけで、実際その姿を目撃した人はほとんどいない。


 で、大抵学校で教えられるレベルなのが師級だ。ここまで辿り着くのにも結構な努力が必要だと本には書かれていた。これから挑戦するのだからなかなか歯ごたえがあるだろう。楽しみ。正直、初級中級上級は簡単すぎたのだ。


 イスに座り本をペラリとめくる。師級の水魔法について丁寧な解説のもと書かれた本は、前世で高校生やってたならすぐに理解できた。要は、中級と上級の組み合わせである。空気中の水分を凝縮し、それを同時展開する時のバランスが大事なんだと思うから、上手く組み立てて………こうかな。言霊に呼びかけて水を作り出し、頭の中で命令を行いながらイメージを送り出す。


 ピチャンッ

 スルスルスル

 ポチャッ


 うん、できた。

 小さく水で形作られた水竜の軍隊。数は大体三十くらい。これを合体させて書庫の半分くらいの大きさの水竜が作れたなら師級は攻略ってとこだろう。さすがにここでやったら本がビッチャビチャになるのでやらないけど。


 良かった、これもできた。とちょっとした安堵感と幸福感に浸っていると扉の方から思わぬ声がかけられた。



「へえ。師級の水魔法、できるんだ?」


「!?」


 ドサッと本を落としたのにも気づかず、ただただ口を開けて驚く。


「凄いな。四歳だろう?やっぱりシェナは普通じゃないよね」


 ばっくんばっくんと鳴る心臓と手のひらに浮かぶ冷や汗に、気絶してしまいそうになりながら、なんとか言葉を紡ぐ。



「お、兄様…」



「うん、ただいま。シェナローゼ」



 いつか見た黒い笑みを浮かべたお兄様は、それはそれは嬉しそうに扉に寄りかかった。




久しぶりにこの小説を思い出しました。すみません…泣


いつのまにやら評価と登録をしていただいてて、感激のあまりスマホを落としてしまいました。すみませんありがとうございます。


これからはちょくちょく更新して参りたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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