第1話 色を失った日
ふと目を開ける。
「あれ……ここは……どこ……? おかあさん……?」
目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の、冷たいベッドの上だった。
ああ、病院か。なんで私は病院にいるんだろう……そう考えていると、ドアが開き、女性が入ってきた。
「夜留ちゃん、看護師の佐久田です。失礼するね……」
視線が交わった瞬間、彼女は息を呑んだ。
「夜留ちゃん……! 目を覚ましたの……? 先生呼ばなかがらなきゃ……!」
彼女はそう言い残し、慌ただしく部屋を飛び出していった。
しばらくして、看護師さんと一緒にやってきた医師が、優しく微笑みながら私を診察した。
「んー、よし。特に異常も見られない。よく目を覚ましたね、本当に良かった……」
「お医者さん……私、どこか悪かったの……?」
私の問いかけに、医師の優しい笑みがすっと曇った。今でもあの瞬間の表情を鮮明に覚えている。私の人生から、すべての色が消え去った瞬間だったから。
医師は痛みに耐えるような顔をして、言葉を紡いだ。
「夜留ちゃん……あのね、今からとても大切な話をするね。辛い話だけど、聞かなきゃいけないことなんだ」
私は静かに頷いた。
「ここは病院だってことはわかるよね……? 夜留ちゃんは……お母さんに殺されかけたの。それから十日間、ずっと眠っていたんだよ」
それを聞いた瞬間、何よりも先にお母さんの顔が浮かんだ。
「もしかして……私が良い子にしなかったから、お母さんを困らせちゃったのかな。良い子にするから、お母さんに会わせて、先生。会わせて……謝りたいの」
私はお母さんが大好きだった。いつも優しくて、温かくて、大切にしてくれた。だから殺されかけたなんて言われても、自分が悪いんだと自分を責めることしかできなかった。
医師はさらに苦しそうな表情を浮かべ、宣告した。
「お母さんは……もういないんだ。家族みんなで死のうと心中を図って……夜留ちゃんだけが、生き残ったんだよ」
その時、理解してしまった。お母さんは私を捨てたのだと。私を置いて、逝ってしまったのだと。
「なんで……! なんで私だけ生き残っちゃったの……!? ねぇなんで!? わたしも一緒に連れていってよ! 置いていかないで、ひどいよ……っ!」
それまでの人生で一番の叫び声を上げ、錯乱して泣き叫んだ。
あの日から、私の人生は絶望に染まり、世界は灰色になった。
まだ、たったの十歳だったのに。
お母さんが大好きだった。だからこそ、捨てられた苦しみと、無責任に命を奪おうとされた絶望、そして「殺人者の娘」として生きなければならない重圧。大好きだった気持ちは、それ以上の苛烈な「憎しみ」へと姿を変えていった。
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