表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/2

玉子焼きとクリームソーダ

 耳が痛くなるほどの静寂の中、客間には蘭と白銀の二人きりの時間が流れていた。


(き、気まずい……)


 蘭は白銀の急須にお茶を注ぎ終えると、自分の席へと戻り、着物の裾を整えて端座した。

 焦りを顔に出さないように懸命に笑みを浮かべる。


(オレに興味があるってなんだよ……!

 何でもいいから早く帰ってくれーーー!!)



 結局、その祈りが通じることはなかった。


 白銀は手元のお茶に一度も目を落とさないまま、じっと蘭を見つめる。


「得意な料理はなんだ?」


 ポツリ、と。

 白銀が口を開いた。


「え? 料理……ですか?

 ……玉子焼き?」


 蘭は人差し指を顎に当て、少し考える。


「ほう。ではいつも弁当に入っている玉子焼きは、自分で作っているのか?」


「え? まぁ、そうですね?」


「……なるほど、亜嵐も自分で作っていると言っていたが、あれはキミが作っていたものなのか?」


 白銀の瑠璃色の瞳が細まる。

 ――何かを確かめるように。 


「はぁ? あ! えぇっと、あ、兄と!

 そう! 兄と一緒に作っているのです!」


(油断した!  過去のオレ、何正直に弁当を自分で作ってると言ったんだ! オレの馬鹿ぁ……!) 


 蘭は必死に作り笑顔を浮かべる。


「いつも――」


「?」


「いつも、美味そうだと思っていたんだ……」


 白銀の長い睫毛の影が顔に落ちる。


「あら、そうなのですね。遠慮なさらずに仰って下さればいつでもお分けしましたのに……」


「……それは、直接亜嵐に言えばよいのか?

 それとも、蘭殿に伝えればよいのか……?」


「へ? あ、兄に! 兄に直接仰って頂ければ、閣下の分もお作りしましたのに――という意味です……」


「なるほど、今、亜嵐はいない。だから蘭殿に直接伝えてもいいか?」


「え、あ、はい。私の拙い料理では、閣下のお口に合うか分かりませんが……。

 そうですね、では明日。閣下の分もお弁当を作らせていただきます」


 白銀の口角が薄く上がる。

 

「ああ、楽しみにしている」


「お口に合えばよいのですが……」


「そうだ! 閣下はお好きな食べ物は何ですか?

 明日のお弁当にお作りいたします」


「……いつも、お前が食べているモノが食べたい」


「はい?」


 蘭は不思議そうに首を傾けた。 


「……お前の、好きな味が知りたいのだ……」


「……?」


(気を使ってくれているのか?)


「……閣下はいつも、外で召し上がっていますよね?

 なので、気を使って“食べたい”と仰ってくださっているのなら、どうかご無理をなさらず――」


「ほう? なぜ蘭殿が、俺が毎日外食していると知っている?」


 白銀の顔が近づく。


「え? あ! あ、兄が!

 兄がそう言っておりました!!」


「……なるほどな」


(……乗り切った……か?)


「では、逆に――

 お前が食べたい物はなんだ?」


「……え?」


「今度連れて行ってやる。

 ……遠慮せずに言ってみろ?」


「え……、あー……

 “おむらいす”とか“かれーらいす”とか“くりーむそうだ”とか……。

 あ、すみませんっ! 今のは、聞かなかったことにして下さい……」


(しまった! はしたないと思われたか――)


「……なるほどな、参考になった。

 今度連れて行ってやろう」


「……はい。ありがとうございます?」


「そうだ、この後用事はあるか?」


「いいえ、特には……」


「では、少し付き合え」


「え?」


「龍ヶ崎子爵には俺から言っておく」

 

「はい……」

 


✕✕✕



「こ、これがくりーむそうだですか!」


 白銀に連れてこられたのは、陸軍近くにある喫茶店だった。


 蘭の菫色の瞳がキラキラと輝く。


「そうだ。思う存分食べてくれ」


「閣下は食べないのですか?」


「ああ、俺はいい」


「そうですか……。

 では、遠慮なく!」


「いただきます」


 ――パクっ。


「んん! 美味しいです!

 こんなにシュワシュワで冷たい食べ物、初めてですー!」


 ――パクっ。パクっ。


 蘭はスプーンでアイスを掬い、炭酸を流し込む。

 緑の液体が喉を通る度に、目がキラキラと輝き、口元が緩む。


「……ところで亜嵐。

 例の暴動の鎮圧はどうなっている?」


「はい。首謀者と思しき犯人は逃しましたが、首謀者をよく知る人物を捕縛出来ました。

 週明けには詳細な報告書を提出出来るかと思われます」


「ほう。そのような重大な軍事秘密を“亜嵐少尉”が妹の“蘭殿”に報告したのか?」


「………………え………………」


「これは、軍事違反だな――。

 軍内部の秘密を“一般人”に詳細に報告している――」


「………………っあ………………」


「亜嵐少尉は、良くて謹慎。最悪解雇だな――」


「……………………………………」


「なんだ? 申開きがあれば聞くぞ?

 俺はお前の上司だ、()()()()

      


 ――カラン。

 クリームソーダの氷が沈む音がした。






最後までお読みいただき、ありがとうございました!


外堀を埋められた蘭ちゃんのこの後の展開や、「続きの2人が見たい!」と思ってくださったら、

ぜひブックマークや下の【☆☆☆☆☆】から応援(評価)をいただけると執筆の励みになります!



★連載版スタートしました!


この短編の「その後のストーリー」を大ボリュームの書き下ろしで大好評連載中です!


白銀家に強制連行された蘭ちゃんの、ハラハラドキドキなお味噌汁作りなど!

二人の奇妙で甘い同棲生活が本格スタートします。


白銀閣下の不器用ながらも重すぎる愛の日常を、たっぷり大増量してお届けしています!

二人の続きや、閣下の溺愛っぷりをもっと浴びたい方は、ぜひこちらからお楽しみください!


↓ ↓ ↓


【連載版】軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――


https://ncode.syosetu.com/n5793mf/

【N5793MF】



★玖条レイナの「龍×男装」ファンタジー


【アース・スター大賞エントリー中(中世版)】

『400年後、迎えに来た龍王を私は覚えていない 〜男装騎士団長は記憶喪失の龍の巫女でした〜』

▼https://ncode.syosetu.com/n3158lz/



【男言葉の感情薄い系ヒロイン(中華版)】

『黄龍の継承者である私は、偶像として祀られる運命を拒み、瑠璃色の龍に拾われました』

▼https://ncode.syosetu.com/n6884lq/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ