心配される男装女子。
早速私の服やら細い物を買いに行こうと話すベルキスさんに、ただただ頷くしかない私。
「えーと、でも私はお金を持ってないんですけど?」
「‥さっき言っただろ。全部対処する。あと働いて貰えばチャラになるどころか、ミヒロにもお金が十分入る」
そうなの?!
長い石の廊下を歩きつつ、ベルキスさんを見上げる。
「竜の巣は、誰もが入れる訳じゃない。まず竜が受け入れるのを許してくれなければすぐに追い出される。その点ミヒロは竜の巣の最深部にいたからな。その点は大丈夫だろう」
「そ、そうなんですか‥」
「大体の騎士は、最深部まで入れないからこちらも助かる」
あれ、じゃあ私は結婚しなくても仕事だけすればいいのでは?
ベルキスさんに尋ねようとすると、
「あと、男しかいない現場だからな」
「あ、だから男だと‥?」
ベルキスさんは無言で頷く。
そっか〜〜、それじゃあ女とはバレない方がいいか。それにベルキスさんって副団長だよね?そんな人のパートナーに手を出すってまずないだろうし‥。って、あれ?もしかしてそういうの言わないだけでもしかして色々配慮してくれている?
ベルキスさんは前を向いて黙々と歩いているだけだけど‥、もしかしたらそうなのかもしれない‥。そう思ったら、これからどうしようと不安だった気持ちが少しだけ軽くなる。我ながら単純だけど、ベルキスさんがいれば大丈夫かな?って思えてくるから不思議だ。
「ミヒロ、あそこが外に通じる門だ」
「あ、はい」
指差した先を見ると、岩壁が大きくくり抜かれていて、門番の人が声を掛けると馬車が通ったり、人が出入りしている様子が見えた。
「身分証明書がないから、今日は俺と出るが基本的に外へ行く時は提示してから出ていく。22時には閉門して、戻ってなければ捜索される場合もあるから気をつけろ」
「は、はい!」
「‥まぁ、当分買い物は一緒に付いて行くから心配するな」
え、それ忙しいだろうに悪くない?
思わず複雑な顔をすると、ベルキスさんは小さく笑う。
「‥‥迷いそうだ」
「否定できない‥」
「なんで、今日は出来れば買いだめしておいてくれ。あと、これを‥」
ベルキスさんは何も持ってない右手から、パッと一枚のストールを出して私は目を丸くする。え、なに?手品?魔法??驚いている私の頭にストールを被せると、クルッと巻きつけた。
「日差しがこの時間キツイからな。被っておくといい」
「あ、ありがとうございます」
「じゃ行くぞ」
ベルキスさんの後ろを追いかけて行くと、門番の人がベルキスさんを見るなり笑いかける。
「ベルキスさん買い物っすか?」
「ああ。そうだ、後ろのやつはミヒロという。結婚したんで覚えておいてくれ」
「はい!って、ええええええ!??結婚!??」
「よく周りに言っておいてくれ」
「は、はい??!」
突然の結婚宣言に門番の人は目を白黒させつつ通してくれたけど、そんな言いふらしちゃって大丈夫なのか?どうせ別れるのに、後からベルキスさんなにか言われたりしない??私は思わず心配になってベルキスさんの服の裾をちょっと引っ張る。
「どうした?」
「あ、あんな事、公言しちゃっていいんですか?!」
「公言しておかないとまた求婚されるし、ミヒロも守れないだろう」
「いや、でもいずれその‥ね?ベルキスさんが悪く言われちゃうんじゃ‥。立場だってあるのに‥」
私がそう話すと、ベルキスさんはちょっと目を丸くする。
いやだってこっちは身一つで来ていて、もう別に立場とか何も気にするものはないけど、ベルキスさんは副団長でしょ?私を全面的に庇うとは言ってくれたけど、悪く言われてしまったら‥と思うと、やっぱりなんというか胸が痛みましてね?
ベルキスさんは私の頭に手を置いて、じっと見つめる。
「‥気をつける」
「あ、はい?」
「‥‥あと、俺以外にはくれぐれも騙されるなよ」
それベルキスさん本人が言っちゃいます?
もうさっきも騙されたから、大丈夫だと思いますけど‥。
「心に留めておきます」
「そうしてくれ‥。でないと心配で仕事が手に付かない」
なんで心配になるの?
要するに私が騙されなければいいんでしょ?
とりあえず頷くと、ベルキスさんはちょっとため息を吐いて、「‥わかってない」って呟いたけど。異世界の常識なんて分からないので仕方ないと思って下さい。