前途は多難だ男装女子。
ベルキスさんが私の頬にキスした事で、一気に流れが変わった。
ちょっと、いや大分恥ずかしいけれど、私は男!今はとりあえずベルキスさんに愛されている男!そう自分に言い聞かせて、頬にキスした私とベルキスさんに照れまくっているレイノル様に微笑みかける。
「レイノル様に認めて頂けて、とても嬉しいです!慈悲深くて、愛らしいなんて‥本当に素晴らしい方なんですね」
「そ、そう?まぁ、そうね。貴方達もお似合いなんじゃない?」
「レイノル様‥、ありがとうございます!」
感激したように見つめると、レイノル様は顔を真っ赤にさせ‥、自分の指をもじもじといじりながら、私をチラチラと見る。ん?どうしたのかな?
「ミヒロ‥と言ったわね。貴方気に入ったわ‥。ベルキスと、その、別れるようなら、側室にくらいしてあげるわ」
へ?
側室??
もじもじと私に言ったその言葉の意味を反芻しようと思ったが、瞬間ベルキスさんの背中に隠されて思考は一旦停止した。
「‥レイノル様、ミヒロは私の大事な伴侶です」
「もう!うるさいわね!ちょっとくらいいいでしょう!私の結婚を蹴ったのを許してあげたのよ!」
「そのお心の広さには感謝してもしきれませんが、彼は私の大切な伴侶です」
あ〜〜〜〜‥。
これが女の時言われたい奴ぅううう!!!
いや、これはオタク友達に聞かせたら、最高に萌える!!!って滾る展開かもしれないけれど、自分の事になると別だ。だって現在男の私に言ってる言葉だし、滾る事もなければ、私の乙女心が確実にドスドスと鈍いパンチを繰り返されているようで複雑だ。
レイノル様は、ちょっと顔を膨らましつつ、ベルキスさんの後ろにいる私に話し掛ける。
「‥ミヒロ!また今度来るわ」
「は、はい」
出来ればもう来ないで欲しいけれど、今は余計な事を言わないのが大吉であろう。私が静かに頷くと、レイノル様は満足そうに微笑む。
「それではベルキス。借りはいつか返して貰うからね!」
「は、ありがとうございます」
「もう!!本当に堅っ苦しいわね!」
フィクトルさんラスカさんは一連の流れを固唾を呑んで見守っていたけれど、ようやく解決しそうな流れにホッとした顔をしているけど‥。すみません!もうちょっと感情を隠して!!
レイノル様は長い茶色の髪を翻すと、後ろに控えていた騎士さん達に「帰るわ!」と言い放つ。と、一斉に騎士達は敬礼して、さっき来た時と同じようにレイノル様を囲み、一緒に部屋から出ていった。
‥えーと、これはもしかして解決したのか?
呆然とベルキスさんを見上げると、静かに微笑む。
「ご苦労さん」
「ほ、本当ですよ!!!」
「ベルキス!!ちょっと本当にどういう事!?それに異世界人を保護したなら、保護申請書類が先だろ!」
「「そこじゃない!!!」」
事の経緯を見守っていた私とラスカさんの言葉が重なって、思わずラスカさんと顔を見合わせた。‥うん、良かった、少なくともラスカさんは同じ感覚だ‥。私とラスカさんの言葉にベルキスさんも何か思い出した顔をして、
「確かに。あと明日から竜の巣で働いて貰う予定なんで、竜の巣へ入る許可証もついでにくれ。あと身分証明できるのも発行して欲しい」
「「絶対、そういう事じゃない!!!!」」
私とラスカさんの言葉がまた重なって、また顔を見合わせたラスカさん‥めっちゃ憐れみの目で私を見つめてくるけど、や、やめろ!!そんな目で私を見るな!泣きたくなるから!!っていうか、もうレイノル様もいないし、泣いていいよね!?
涙目でベルキスさんを見上げると、そっと頭を撫でられて目を見開く。
「‥大丈夫だ。明日までには書類は全部終えられる」
「そ、そうじゃないいぃいいいいい!!!!」
私はもう叫んだ。いいよね?!
だってレイノル様はもう流石にいないよね?!
後ろでラスカさんは遠い目になってるし、フィクトルさんに至っては「うん、頑張るね!」とか言ってるし!!そうじゃないってば〜〜!!!もう少し結婚に疑問を持っても良くない!??
いや確かに異世界から来たし、常識とか全然よく分かってないけど、絶対これ違うよね!??前途が多難過ぎるよね?!