触れたカスミソウ
君の髪の香水の匂いが花にこびり付いて取れないんだ。
いつかまた会えるのかなって
ねえ、また出張なの?
そっか……待ってる。うん。大丈夫だよ。
君のこと好きだもん。待てるよ。好きだから。ずっと前から好きだったもん。
うん。行ってらっしゃい。
止めれば、良かったのかな。
君のこと好きだから、束縛したら辛いだろうから、だから止めなかった。
恋人って言うのは、お互いを尊重して、お互いを愛すものだから、そうだって信じてるから、だから止めなかったの。
でも間違いだったのかな。
君のその右手に繋がれてる女性は誰?
違う。その手は誰の手?
誰を殺したの?
生きてる人を殺しちゃダメってそう言ったよね?
私の体じゃあ満足できなくなったの?
死なない体じゃあ、叫ばない体じゃあ、もう貴方は満足できないの?
君を、甘やかさない方が良かったのかな。君のその趣味を尊重した私が間違ってたのかな。
それとも、そんな君に、貴方に恋をした私の負けなのかな。
いいの。謝らないで。違うの、違う。違うから。
君は悪くないよ。
君にワタシを殺させた私が悪いの。
ねえ、もう一回私を殺してみて?
銀のスプーンを握った王様が怒鳴り散らす。
何度同じことを言えばいいのかと。また約束を破ったのって。これで何度目なの?
反故された約束と契約による雁字搦めの誓約と制約。愛は単純で単純じゃなくて、複雑で摩訶不思議だった。
ううん、知っている。私たちの家族がおかしいの。君との恋がこんなにも難しいなんてね。
……そうだね。生きてくる時代を間違えたのかな。何も悪いことをしていないはずの私たちが悪かったのかな。
残酷な時の番人が私たちを見つめる。
締まる首。突き刺さるナイフの感触、落ちる君の涙のしょっぱさ。最後の味、味覚と消えた痛覚。
零したコーヒーの匂いが、私の服を汚して包んでいく。
血液の奔流。溢れる想いと、思いと、重い現実と軽い未来。
きっと今よりも幸せな生活ができるよね。
これは雁字搦めの少女と楔に愛された少年の話。
藍色に染まった彼女の頬を愛色に染めるために彼は死ぬ。
また会いに来るね。つぶやいた言葉は言霊となり、宙に舞って……呪縛となる。
それが詠唱の式であったように空気に波紋が呼ぶ。
波、奔流、どんな言葉ですらも表現することができないエネルギー。
骸骨の少年がこちらを向く。
動き出す加速器。
ニトロ加速器の奔流だったか。
重力に遡って上昇する毒リンゴの不思議な味。
契約の味か、楔の味か、はたまた、君が作った独リンゴか。
鳴りやまない耳鳴りはニトロの破裂音だったか。
会いに来たよ。
食器の音が静かになっている部屋だった。
骸骨王子は誰とオドルカ。
来世