川の合流地点にて
ナスル殿下が合図を送ると、舟は川の合流地点で一斉に停止した。どちらに進むべきだろうか。右も左も同じように、よどんだ川の流れが密林の中を奥へ奥へと続いていく。
ザリーフは、ずり落ちそうな大きなメガネを押し上げながら、右を見て、左を見て、もう一度右を見て(これでは、まるで、模範的な横断歩道の渡り方のような)……
わたしはザリーフを見上げ、
「どちらが正しい方向か、分かりますか?」
「いや~、分からん。サッパリ分からへんわ」
ザリーフは、恥ずかしそうに頭に手を当て、苦笑い。
のみならず、ナスル殿下も腕を組み、ゆっくりと左右を見回しながら考え込んでいる。右か左か、なかなか結論は出ないようだ。でも、これは、考えて分かる問題ではないと思う。運が良ければトードウォリアーの領域まで辿り着けるだろうし、運が悪ければ、妙なところに出て、なんだかわけの分からない(一体、どんな目に遭わされるんだろう、みたいな)話になるのだろう。
その時、不意に、アンジェラが二つの川の合流部の河岸を指さし、
「あれは、なんでしょう?」
アンジェラが指さした方向に目を向けてみると、こんもりと下草や蔓性植物に覆われていて分かりにくいが、合流部には、何やら看板のようなものが立っている。
「なになに? なんか、見つかったん??」
ザリーフは、もう一度ずり落ちそうな大きなメガネを押し上げ、じっと目を凝らした。
「あらぁ、なんやろ。こっから見ても、よう分からんなぁ……」
すると、ナスル殿下も、その『看板のようなもの』に気付いたのか、短い言葉で命令を出した。何艘かの舟が岸辺に付けられ、数人のリザードマンの精鋭が舟を降りた。精鋭は、慎重に周囲をうかがいながら、『看板のようなもの』を覆っている植物を取り除く。果して、顔を出したのは、やはり看板だった。
看板は木でできており、高さは1メートル弱、それほど背が高いものではない。トードウォリアーが道標として立てたとしか考えられないが、看板の高さは、彼らの身長に合わせたのだろうか。
「お姉様、あれは? 何か書いているようですが、なんでしょう??」
アンジェラは舟から身を乗り出し、看板を指さした。看板には、クッキリと大きな字で、「@@@→→→」と書かれている。素直に読むと、「右に行けば『@@@』に行き着きますよ」ということになろうか。
「こらぁ、『右に行け』っちゅう意味かいな? しかし、ほんまに信じても、ええんやろか」
ザリーフは「うーん」と首をひねった。そもそも「@@@」の意味が分からないし、仮に「@@@」が「トードウォリアーの領域」を意味するとしても、額面どおりに受け取ってよいものかどうか……




