リザードマンの「勝利の歌」
戦闘は10分程度続いた。リザードマン30人の精鋭は、チームワークで巧みに「異邦人」を翻弄し、細かな攻撃を繰り返してその体力を奪っていく。
やがて、絶大な体力と攻撃力を誇る「異邦人」も、リザードマンのチームワークにはかなわないと見たのか、最後に大きくひと声咆吼し、(密林に逃げ込むためであろう)リザードマンの囲みに突進していった。
ナスル殿下はこれを見て、勝ち誇ったように、
「◎※、⊆〆⊿★¶¶◇∀」
すると、リザードマンたちは、「異邦人」のために、サッと道を空けた。深追いはしないということだろう。
「へぇ~、なかなか、ナスル殿下も戦上手やなぁ」
ザリーフは、ずり落ちそうな大きなメガネを押し上げ、感心している。「異邦人」を完全に包囲し、息の根を止めようと思えば、できないことはないだろう。しかし、その場合、死にものぐるいになって反撃する「異邦人」にとどめを刺さねばならず、リザードマン側にもそれなりの被害が出るに違いない。
戦闘は、終わってみれば、こちらの圧勝だった。リザードマン30人の精鋭に死亡者はゼロ。傷を負った者はいるが、その程度はいずれも軽い。
ナスル殿下は機嫌よく、
「◇~~○√~~、⊆¶¶★~~¥∥⊿£~~、≡※∀□~~……(以下略)……」
意味はサッパリ分からないが、下手な歌を歌い出した。今回は、なぜか、リザードマン30人の精鋭も唱和する。ザリーフは、「やれやれ」というように顔をしかめた。この歌は「勝利の歌」といって、リザードマンの領域では非常にポピュラーだとのこと。
リザードマンたちが、皆で気分よく「勝利の歌」を歌っていると、密林の奥から、
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またまた、トードウォリアーの声が聞こえてきた。いい加減にしてもらいたいものだ。「異邦人」をやっつけたついでに、トードウォリアーも探し出して皆殺しにしてくれればと思ったら、ナスル殿下は意外にも落ち着いたもので、舟を指さし、ひと言、
「⊆⊿℃★□!!!」
すると、リザードマン30人の精鋭は、潮が退くように、各々の舟の方に戻っていった。闇雲に突撃ということは考えていないようだ。精鋭は水際で武器を構え、トードウォリアーの襲撃に備えた。
ところが(と言うか、「やっぱり」と言うか)、いつまで待っていても、トードウォリアーは姿を現さない。いつしか、その声も止んでいた。トードウォリアーめ、木の上から特大ヒルを落としてみたり、「異邦人」をけしかけたり、なかなかアジなことをすると思ったら、今度は、「声はすれども姿は見えず」戦術。確かに、うざいヤツらには違いない。
いつまでも待っていても仕方がないので、そのうちにナスル殿下が号令をかけ、舟は静かに動き出した。




