巨大な肉食恐竜
ザリーフが指さした先にいたのは、3頭の巨大な肉食恐竜だった。体長は10メートル程度。大きな口に並んだ鋭い歯や強靱な足腰、太くてしなやかな尻尾は、戦闘になれば、絶大な威力を発揮するだろう。
しかし今は、肉食恐竜は岸辺で日なたぼっこをしながら、まどろんでいる。
「……ングッ」
声を上げようとしたアンジェラの口を、ザリーフが慌てて押さえた。
彼はわたしとアンジェラに顔を近づけ、非常に小さい声で、
「ちょっとの間、黙っといてやぁ。あいつらは、起こしたらヤバイで」
ザリーフの説明によれば、その肉食恐竜は、リザードマンの領域では「異邦人」と呼ばれていて、ものすごく凶暴なので恐れられているとのこと。普段は目にすることはないが、数年に1回くらいの頻度で、群れをなしてリザードマンの領域に迷い込んでくることがあるらしい。その時は、詰まるところ、天災のようなもので、被害を受けてもあきらめるしかないのだという。
「学問的には、ごっつい、興味をそそる対象では、あるんやけどな」
ザリーフは、ちょっぴり残念そうな表情(に見える)。「異邦人」の生態はあまり知られておらず、こんな奥地にも、その「異邦人」が生息しているとは、まったく思ってなかったらしい。
でも、そんな物騒な相手なら、関わり合いにならないのが一番。寝ている間にこっそりと通り過ぎよう。ナスル殿下が大声を出して「異邦人」を起こしてしまわないかと心配していたが、その心配は無用だった。「絶対に喋るな」という合図なのか、ナスル殿下は自分の口に両手を当て、じっと部下をにらんでいる。殿下とリザードマン30人の精鋭でも3頭の「異邦人」にはかなわないのか、「君子危うきに近寄らず」と判断したのかは分からないが、ともあれ、無用な争いは避けるに限る。舟は普段の半分くらいのゆっくりとした速度で、粛々と進んだ。
ところが……
@@@……………………… @@@……………………… @@@………………………
どこからか、カエルの鳴き声のような、トードウォリアーの声が響いた。
ナスル殿下は腰に差したショートソードの柄を握りしめ、慎重に周囲を見回す。ただ、大声を上げるわけにいかないので、内心、苛立っているに違いない。トードウォリアーは近くにいるのだろうか。今度は、一体何を考えているのだろう(彼らの知性が、少なくともリザードマン程度であれば、狙いはある程度想像できるけど……)。
ビュン! ビュン! ビュン!
突如、3頭の「異邦人」の背後の密林から矢が射かけられ、矢は「異邦人」の尻尾に命中した。




