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大団円

21、大団円


 翌日、日本を立つ日が来た。

 見送ってくれる信さんと一緒に空港へ行くと、竜朗さんと吉良さんが俺達を待っていてくれた。


「いよいよだね、上杉。二年間、しっかり鍛えられて、戻って来い。待ってるよ」

「はい、吉良さんもお元気で!」

「遠流に聞いたんだけど、信さんもニューヨークに行くのかい?」

「吉良さんと竜朗さんのおかげです。…信さん、会社に辞表出してまで、俺についてきてくれるって言ってくれたんです。まあ、信さんの人徳で会社は辞めずに向こうの大学で勉強することになったんですが」

「そうか、良かったな~」

「竜朗さん、前に言いましたよね。もし吉良さんが仕事を辞めて竜朗さんのところに押しかけたら、重荷に思うかもしれないって」

「そう言ったかもしれねえな」

「俺はそうは思わない。俺と一緒に居る事を決めてくれた信さんを、俺は目いっぱい幸せにしてやります。まだまだ青いって言われそうだけど、信さんと一緒なら頑張れます」

「…うん、頑張れ。俺もおまえを見習うとするよ」

「はい」

 そう言って、竜朗さんは隣りの吉良さんの肩を抱いた。

 きっと二人はもう間違えたりせずに、離れずに未来を歩いていくことだろう。


「由宇っ!」

 覚えのある声に後ろから声を掛けられ振り向くと、なんとそこには兄の輝有が立っていた。

「あ、ええ?…兄貴?」

「昨日から出張でこちらに来てたから、ついでに見送りに来た。良かった、間に合って。これ、母さんから。手作りの作務衣。パジャマ代わりに着れって」

「…ありがとう」

 作務衣?…なんで?…まあ、良いけどさ…

 手渡された触り心地の良い藍の袋もきっと母が作ったものだろう。

 この際、必要かなんて関係ないんだろうけれど、なんだか可笑しくなった。

 それなのに目頭が熱くなる。

 輝有だって出張に来たって言ってるけど、本当かどうか知ったもんじゃない。

 もし、俺を見送る為なら…俺はこの恩に報いることはできるんだろうか…。


「由宇、紹介してくれないのかい?おまえの超いいひとを」

「え?超…いいひと?」

「だって、信さんはとってもいい人だって言ってただろ?それにおまえの良人には違うまい?」

「…」

 そっか…おひとよしの「いい人」×俺の恋人の意味の「良い人」で超いいひとってわけか。やっぱり、信さんにこの上なく似合っている呼び方だよな。


「初めまして、由宇の兄の上杉輝有です。この度はやんちゃな弟の面倒を見てくださるそうで、本当にお世話かけます」

「いえ、こちらこそ、由宇くんにはお世話に…。あ、三門信彦と言います。由宇くんの…」

「超いいひとだよ。信さんは俺の超いいひと」

「そ、そうらしいです。よろしくお願いします」


 飛行機は相も変わらずに皆の予想通りに二時間ほど遅れたけれど、おかげで五人和気あいあいと色々な話で盛り上がった。

 ひとり搭乗口に向かう時には、さすがに感極まってしまったけれど、信さんが「ひと月後に会いましょう!」と、大きく手を振ってくれたから、泣かずに済んだ。


 そして、ニューヨークでの新しい生活が始まった。


 宿禰さんのスタジオは、俺の住むアパートから歩いて十分もかからない場所だったから、朝早く出て、夜遅くまで仕事に没頭するだけで一日が終わる。

 勿論、初めは判らない事だらけだし、英語もしどろもどろでパニくってばかりだったけれど、職場の方々は新人の研修員には慣れていらしたから、面倒な事も親切に指導してくれた。

 宿禰さんも見た目よりもずっとストイックな仕事人で、仕事中は声が掛けづらく、しかもあちらこちらと出張が多いから、顔を合わす時間が少ないのが残念だ。

 宿禰さんのお兄さんであり、「A.SUKUNE アーキテクツ」の社長でもある宿禰慧一さんの人徳も敬意を表するものだった。

 ふたりが揃うと極めて別世界に居るようで不思議な気持ちになるけれど、彼らは仕事に妥協しないから、こちらも緊張しつつのやり取りだったりする。

 見目がバツグンで頭が良くて、仕事も一流で人徳もあるだなんて、パーフェクト過ぎて、面白みが無い…なんてことはなく、美しい兄弟に見惚れながら、毎日を有意義に過ごしている…つもりだ。

 

 ひと月後、約束通り、信さんがやってきた。

 信さんが通う大学は九月からだから、それまでは俺のアパートで一緒に住む予定だ。

 その日、JFK空港へ信さんを迎えに出たはいいが、何故か宿禰さんが俺に付いてきたのだった。

 毎日決まった時間に信さんにラブコールを掛けているのを知っている宿禰さんは、仕事以外のところで、俺に妙にちょっかいを入れる。

 嶌谷さんからも信さんの事は聞いているらしく、スマホの写真を見て、「へえ~、意外~」と、言った後、「でも、いいひとそうだ」と、納得した模様。


 で、信さんに興味を持った宿禰さんは自分の目で見たいと言い出し、一緒に出迎える成り行きに…


「由宇くん!」

 ひと月前と同じように俺の名を呼んで手を振る信さんがゲートの向こうに見えた。

「信さん!こっち!…待ってたよ!」

 俺も両手を広げて、向かい入れる。

「会いたかったです」

「俺もだよ、信さん」


「ねえ、上杉君。俺に紹介はしてくれないのかい?」

 後ろに立つ宿禰さんが魅惑な微笑みを俺達に投げかける。

「あの…彼が俺の『超いいひと』、三門信彦さんです」

「超?…いいひとなんだ。そう…。俺は宿禰凛一。今後ともよろしくね、信さん」

「あ…はい。よ、よろしくお願いします」

 握手を求める宿禰さんに右手を、恐々と握る信さんが面白くて、つい笑ってしまった。

「わ、笑わないで下さいよ、由宇くん。緊張してるんだから」

「だって…信さん、可笑しすぎる…」

 ああ、やっぱり、信さんの傍に居るだけで、こんなにも落ち着くし、心が軽くなる。


「では、行こうか?おふたりさん。これからの未来をどう楽しむかは君ら次第。

Welcome,to the joy of the world!」


 華やかな宿禰さんの言葉に先導された俺と信さんは、繋ぎ合った手を一層強く握りしめ、一歩ずつ前に歩き出すのだった。




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