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 猫の見た『夢』

 

 その個体は『魔境』と呼ばれる広大な大森林に住む『影猫族(シャドウキャット)』の一族の生き残りだった。

 この種族は人間の子供ほどの大きさの二足歩行の猫で,集落を作り狩猟を生業とする種族だった…種族特性としては『影』を操る事が出来る隠密に特化した種族だった。

故に一部の者達は帝国に雇われ暗殺者の様な仕事を請け負っていた。

 やがて帝国と敵対する諸国の者達がその力を利用としようと近づき始めるとそれを恐れた帝国により,その一族は虐殺の運命を辿るのだった……帝国とは無関係の者達を数多く巻き込む結果となっても…


 それは女性個体は珍しい黒の毛並みを持つ個体で手足の部分だけが白い毛並みをしていた……その技能も『影潜り(シャドウダイブ)』『影縛り(シャドウバインド)』『影剣(シャドウソード)』が使える戦闘タイプだった。

その為,一族では狩猟の中核として皆んなの食を支えていた存在だった。

そんな彼女の村も武装した兵士が押し寄せ見るも無惨に焼き払われた。

家族も,友人も,親しい仲間達も皆,灰と化してしまった。



 傷を負い森を彷徨いもう此処迄かと覚悟を決めた彼女の前に彼は現れた。


「お?気が付いたか?」

「……此処はどこにゃ…お前は誰にゃ」

「そんなに警戒するなよ…此処は俺の拠点で俺はお前を助けたアビゴルだ」

「………」


 そのアビゴルと名乗った男は普通の男で傭兵のような格好だった……

拠点と呼んでいたその場所は渓谷の中ほどに掘られた洞窟で中は意外としっかりとした生活環境が整っていた。

助けられた理由はモフモフで触りたかったかららしい……

残念ながら我が一族は伴侶以外にはモフモフを許さなかった。


 傷が癒えるまで二ヶ月ほどそこで世話になった。

その間アビゴルは甲斐甲斐しく世話を焼き色々な事を教えてくれた。

薬草の見分け方とか…文字や計算…魔法の知識などもだ…

中でも数式や計算が自分には合っていたらしくその知識を効率よく吸収した。


「ほう…この計算も瞬時に回答するか……よし…今日から次の問題を教えよう…」


 その日からアビゴルから多くを学ぶ事となった。










「……」


 傷が言えた後、アビゴルと共に、村のあった場所へとやってきた…そこには焼けた集落の跡が残るのみだった。

集落の奥の開けた場所に、地面につき立てられた無数の木技を見つけた……墓標だ。


「これは…アビゴルがやったのかにゃ?」

「あぁ…こんな簡単な物で申し訳ないが……あのままにしておくのは忍びなかったのでな」


 墓標の数は36、自分を入れて37、この村に住んでいたもの、全員の数だ……それは生存者が自分以外にいないことを表していた。


「っ!!」

「…なあ…お前は……」

「何者だ!そこで何をしている?!」


 突然背後から声をかけられ振り返ると、そこには武装した兵士が数名こちらを伺っていた。

とっさに、飛び出しそうになる彼女をアビゴルが、押さえつけると彼らに対してこう告げた。


「お前達は帝国の者か?それとも共和国か?」

「あぁ?!質問しているのはこっちだ……答えろ!」

「…ふむ…では、質問の言い方を変えよう…お前たちはこの村を襲った仲間か?」

「そうだと言ったら?」

「…そうか……」


 次の瞬間,彼女の全身を寒気が襲った。

種族柄,察知能力がずば抜けている為華,魂の奥底から震え上がる様な殺気を感じたのは初めてだった。


「ならば死ね」


 アビゴルがゆっくりと歩み出した。













「…あわ…はにゃ…」


 気がつくと、地面に座り込んで洗い呼吸を繰り返していた。

目の前で起きたのは激しい戦闘…いや…一方的な虐殺だった……

過去に幾度か人間同士の戦いを見た事があるが、このような残忍で残酷な戦闘は見たことがない。


「怖いか…?」

「!!」


 アビゴルの声に体がびくりと震えた。

先程のような殺気は既にもう収まっている。

 地面に座り込む私の正面に来たアビゴルは同じ目線までしゃがみ込むと…こちらに優しい眼差しを向けていた。


「お前はどうしたい?家族を…みんなの敵討ちをしたいと思うか?」


 その問いに、ゆっくりとうなずいた。


「そうか……だけどね,どんなに殺しても殺しても、殺しても、殺しても、胸の穴はふさがってくれないんだよ?」


 やがて、アビゴルの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


「!!」


 私は全てを理解した……この恐ろしくも残念な魔法使いは私に教えてくれているのだ。

 私と同じ様にに大切な人を失った彼だからこそ……復讐者と成り果てた自分の姿を見せる事でその先に待つものを私に教えてくれているのだ。


「もう一度聞くよ?君は…永遠に乾くことのない渇きを覚えたまま、その手を血に染める覚悟はあるかい?」

「……私は…私の力ではアイツらには復讐する力は無いのにゃ…」

「そうか…それではここで…」

「でもっ!…貴方のそばで…貴方の復讐を一緒に!!貴方と共に手を血で染めて!貴方の道具として一緒に連れて行って!!」


 彼の言葉を遮り私は自分の思いの丈ををぶつけた……

私の復讐を成すためには、彼の様な力を持った人物が必要だ…その為には私は喜んで道具となろう。


「…それでは契約だ…俺はお前の剣となって復讐を成し遂げよう…だからお前は……俺の……家族だ!」

「私は喜んで貴方の道具に……?!家族っ?!にゃんで?!」


 予想していた流れと違い動揺してしまった。


「ふむ…いつまでも名前が無いのは良くないな…では今日から『ラプラス』と…」

「!!」


 その瞬間,彼から凄まじい魔力が流れ込んで来た。

『契約』と『名付け』の効果により主人であるアビゴルとの間に『繋がり(パス)』が出来てしまった。


「おっと…これはこれは可愛らしい子猫ちゃんだな…」

「にゃにゃっ!?」


 『契約』の効果は主人となる種族の特徴が強く反映される。

今のラプラスは十代の少女のような姿になっていた…その頭には猫耳がぴこぴこと動いていた。


「ふむ…やはりこれは良いものだな」

「にゃ!?勝手に触ってはダメなのにゃ!!これは番が……!!」


 目の前で動くその耳に衝動を抑えられなくなったアビゴルが猫耳をもふり始めた。






 その後二人は共に行動し,帝国との戦いを開始した。

ラプラスはアビゴルの魔力を得てその隠密と諜報能力は格段に飛躍した。

 帝国の圧政から不満を抱えた住民は多く、2人の行動は多くのものに受け入れられ、支持された気がつけば、仲間も多く増えており『星巡旅団(スターゲイザー)』と呼ばれる集団に成長していた。


 悲願である帝国皇帝を抹殺し、幽閉されていた皇女を新たな皇帝にすることで旅団の隠蓑を作り出した…善政の皇帝の裏で腐敗した貴族や反乱の芽を潰して回る裏の存在として帝国の平和を作り出した。




勇者が召喚されるまでは。






 






『はにゃ?!』


 ラプラスは目覚めた…何か懐かしい夢を見ていた気がする…

隣の慶次がモゾモゾと身じろぎした。

今夜は義体に入り込み昔の様に慶次のベットに潜り込んでいた…

思えば彼の最初の仲間は彼女であった。

その後は色々と仲間が増えて二人きりで過ごす機会はなかなか無かった……


(ふむ…こうして転生したのも良かったのかもにゃ…)


 まだ薄暗い部屋の中、主人の温もりを確かめる様に慶次にしがみつくと再び微睡の中に堕ちていった。



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