81:ナベリウス
底に着く。
おかしな表現だけど、ここがこの迷宮の底だ。
「まだ、動かないでね」
やる気満々の二人に言う。
この転移してきた魔方陣から出ない限り戦闘は始まらない。と言っても、しばらくするとこの魔方陣は自然消滅して強制的に戦闘開始となる。
やはり知識を求めたことは正解だった。ファウストの書に取り込まれた様々な人の情報は未知の経験というか情報を減らしてくれる。
それによって迷宮のシステムはほとんど理解できた。この転移で移動したときのボス部屋の仕組み等は、情報がなければ有効活用できない。
「ギルバートよ、奴を目で殺すのだ」
「なんじゃと! 目で殺すとはどういう事じゃ?」
「ふふふ、我ほどのネコになるとその視線自体に物理的威力が備わるのだ!」
「な、なんじゃってー!」
なんか、肉体だけでなく精神まで若返ってるのではないかと思うほどのバカ加減。
「あー、君達ウルサイからちょっと黙っててね」
「なん、だ、と!」
「なん、じゃ」
「あー、もー、ギルバートさんノリよすぎです」
私のツッコミに嬉しそうに答える元おじいちゃん。
「人との会話が久しぶりでのお」
「我はネコなのだ!」
「おぉ、そうじゃったの、ほっほ」
「フジワラくんと二人で迷宮潜ってた時とかもそんな感じだったんですか?」
「そうじゃのお、フジワラちゃんはノリが良いからのお、クロ助も気が合ったじゃろ?」
「全然、あんな変態小僧生理的に無理!」
「酷い言われようじゃのお、ほっほ」
「はっ! クロ助って言うな!」
「ほっほっほ!」
取り合えず、「奴」の鑑定は最後。それ自体が戦闘開始の合図となる可能性があるから。
鑑定持ちが貴重なことが仇となって、開始前の自分に対するスキル発動は可能だけど相手に対する鑑定等のスキル発動が魔方陣を出たことと同じと見なされるのかの確かな情報が無い。
そういえば、青い目の魔物に対してカーサが鑑定を使ってしまったことがあったけど、あれはセーフだったんだよね。ま、今回のは真っ赤だから通用しないと見た方がいいのだろうけどね。
さて、地形は、
一辺が百メートル位の正方形、私達はその角に居る。そして奴はその対角。こちら側の角は少し楕円形で、あちらはきちんとした直角、例えると野球場みたいな感じ、こちらはセンターの奥辺りにいて、奴はホームベースにいるみたいな、一辺が百メートルというのも大体同じだったと思う。つまり対角にいる私達は百二十メートル位離れていることになる。
一気に近づくことは困難。
高さは、五十メートルはあるか、結構高い。天井を足場にして下に向かってジャンプし落下に加速をかけて攻撃というのはその長すぎる距離的に無理かな。これは縮地で高速移動出来るテレスさんやクロが得意とする攻撃方法。
壁は、ここだけ特殊ということはなさそうだ。糸を張って使うことは可能。横が広いから縦にいくつか張ってから使った方がいいかな。あ、縦に張るとギルバートさんの黒いスラッシュとかで切られてしまう可能性がある。魔力を通した状態なら切られないと思うけど無い状態だと切れてしまうかもなあ。
後は、無いかな。
敵が奴しかいないのだ。見るべき所はもう無い。
開始と同時に配下を召喚するんだろうなあ。
鑑定はしていないけど、既に奴が何者かは予想がついている。
西洋の悪魔と言う存在。そしてそれらを召喚したという魔法の書。魔界から召喚されるという悪魔逹。
ここは変な部分であちらと繋がっている所がある。
まあ、簡単にいうと、この世界の魔術師が私達を召喚したように、あちらからも力有るものを召喚できたのではないか?
そして召喚された力有る者逹はあちらで魔王として記録されているのではないか。
トンでも発想だよね。けどこちらに呼び出された勇者という存在を調べていくと、私達みたいに適当に集団を召喚したのではなく、力ある者として召喚された人達を調べて見ると、魔王と同じような存在としてこちらに名が残っていたりする。そしてそれは、私も名前を知っている歴史上の人物であったりする。
つまり、おそらく。
眷属としてケルベロスを従えるか、ケルベロスと同じ存在として語られた者。
クロに聞いたら雑魚敵としてしか登場しない奴と言っていた。
けど、それはゲームの中での話だ。実際はそんなに甘くはない。魔の王なのだから。
それは、十九の軍団を束ねる。魔界の侯爵と言われている。
鑑定をする。
魔王:ナベリウス
HP:4000/4000 MP:2000/2000
STR:1200 VIT:2000 DEX:1000 MND:0 INT:2000
スキル:(特殊)魔軍招来
(武技)魔剣技、四刀流、魔炎
(自動)統率5
えーと、、うん。ほとんどユニークスキルで、ステータスとかダメじゃんってレベルなんですけど、まあ、どうでもいいや。
存在を認識され、魔方陣が消える。
右の手に剣が握られ、左の手に杖が握られる。
掲げられた杖が怪しく光る。
十九の軍団。
軍団長としてケルベロス、配下としてオルトロス。軍団長としてアークデーモン、配下としてグレーターデーモン。
そう、十九の魔物ではなく、十九の軍団が招来される。その数、優に六十を越える魔物の軍団。
えー、なにこれ。
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