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82:ナベリウス2

「多いなあ」

その数にこのような感想が思わず口を衝く。

「くっくっく、数で勝てると思うとは下等な考え、魔王破れたり!」

「けど、数は力だよ」

「ふ、数が力ならば、我は暴力なのだ!」

「え、意味が解りません。クロさん」

「にゃんだってぇぇぇ!」


「ヌウン!」

気合い一閃。竜の牙から作られたと言われる大剣竜牙が振られる。


ゴウッと唸りをあげて飛翔する黒い斬撃。


斬!

数十体の魔物の体が千切れ飛ぶ。

「ヌゥ、届かぬか」

魔王ナベリウスを狙ったようだ。

「いやぁ、流石に無理でしょう。それにほら」

命が複数存在している魔物逹が復活している。

「面倒じゃのう」

トンッと、竜牙を肩に担ぎ上げ嘆息するギルバートさん。

「リン、どうするのだ?」

クロが聞いてくる。

「取り合えず。取り巻きを倒さないと先に進めないみたい」

「もう、攻撃してみたのか?」

「うん、魔方陣が消えたと同時に糸を放ったんだけど何か障壁のような物があってそれ以上は無理だった」

上手くいけば一瞬で終わるかもって思ったんだけど、そう上手くはいかないね。

障壁を切り裂こうかと思ったけど流石に遠い。あの距離だと失敗したら糸の存在を気取られる可能性がある。今の段階でそれは得策でない。


「注意することはあるかの?」

「斬撃技はなるべく水平方向にお願いします」

「応(おう)!」

「我は?」

「クロは好きにしていいよ、どうせ言っても無駄でしょ?」

「うむ!」

「えー、即答しないでよー」

「我を制御することなど我でさえも不可能!」

「ダメじゃん」


斬! ドンッ!

近くで発動し始めていた魔法を糸で斬る。アークデーモンの魔法などは発動されると面倒くさい。

「取り合えず殲滅しながら間合いを詰めよう」

この距離ならば、糸を気取られる心配はない。何をしたのかさえ理解できないはず。だけど自信があっても油断はしない。魔眼でナベリウスの視線を捉え続ける。魔王の表情の違いなど理解できないけど魔眼の力でその思考を大まかに読める。


「真ん中誰行く?」

「ほい!」竜牙をひょいと挙げるギルバートさん。

「にゃ!」両足を器用に挙げてバンザイをするクロ君。

うん、可愛い。

「じゃあ、クロ君お願いします」

「にゃん!」

「贔屓じゃ!」

「可愛いは正義なのだ!」

クロ君、それ、自分でいっちゃダメ...


「私は右、ギルバートさんは左ね」

「贔屓じゃ!」

「はいはい、そうですねー」

「ヌゥ、扱いが酷いのじゃ」

「ふふん、のじゃ、とか言っても可愛くないのじゃ!」

のじゃを可愛く言うクロ君。

「悔しいのじゃ」

「はいはい、可愛いですよー。だから左行ってねー」


「のじゃーーー!」

左側の魔物を竜牙で切り裂く、のじゃおじさん。

なんだろう、今まで持っていたイメージがガラガラと崩壊していくのだけど。

打ち解けたからとか? なんてね。そんなことで気を緩めたりしない。


(クロ、持久戦になるかもしれないから魔力の消費に気を付けてね)

(うむ? まかしろ?)

(なにそれ、わかってないでしょ?)

(わかってるのだ! だが気を付ける気はないのだ!)

(わかってないじゃんかー)

(むひょー! 煉獄斬!)

もー、流石にこの数だとMP回復の効果が間に合わない可能性があるのに。

(まあいいやー、MP無くなってたら魔王戦参加させないしー)

(なぬ! 省エネで頑張るのだ!)

(はいはい、頑張ってねー)

(にゃっふ~! 爆炎陣!)

ダメな気がする。



じゃあ、私も行こうかな。


ドンッ! と、爆裂歩法で右翼の集団へと突っ込む。

五指で五本の糸を操る。

すれ違う魔物は糸で切り刻み、正面に立ちはだかる魔物は縦に二つに割り間を抜ける。

アークデーモンの短縮詠唱による攻撃魔法も斬る。魔法の存在自体を斬り消滅させる。


多いなあ...


トンッ! と地を蹴り宙に浮く。

滞空は風魔法で行う。糸を張ってその上に立つのでもいいけど。


翼有る者逹。デーモン族が同じ高さやさらに上に飛び立つ。

そう、高さのある場所で戦ってなかったからだけど、彼等も空を飛べるのだ。

戦場が立体的になる。

糸を張り巡らすのは、こいつらを倒した後。


目につくものを切り刻む。

近くの魔物は再生も不可能なほどに細切れにし、遠くで発動している魔法は糸で軽く傷つけその場で暴発させる。復活する魔獣は首を落とした後そのまま糸を漂わせ、復活した途端また首を落とす。



横を見れば、ふよふよとクロが浮いている。

あれは念動力で浮いているのかな。そして回りに浮かぶ黒い炎。まるで指揮をするかのように一本だけ伸ばした爪を振ると、黒い炎がそれに合わせて飛んでいき爆発する。それも豪快な爆発だ。爆心部分の魔物は蒸発し、周りの魔物は黒い炎で焼かれる。


デーモンが放ち飛んできた火球を、魔獣のブレスを、届く直前で圧縮して黒い炎に変換している。

うーん、省エネだ。あの圧縮は念動力でやっているのかな? そっちに割合を割いているからはじめて飛んだときみたいにふよふよと浮いてるだけになっているのかなあ。いや、なんかふよふよ浮いて遊んでいるだけのような気もする。



ギルバートさんの方もデーモン族が宙を飛び上から魔法を放っている。

斬!斬!斬!斬!斬!斬!斬!斬!斬!斬!

黒い斬撃がすべてを切り裂いて飛んでいく。

けど、流石に放たれた魔法やブレスを斬ってもダメージが無いと言うわけにはいかない、少しづつ蓄積していっている。


数で圧倒してきている今は魔人の持つ自然回復力よりダメージの方が大きいのは仕方がない。

黒いスラッシュも少量だけどHPを消費するから連続で放っていればHPも減っていく。

「時間回復(リジェネーション)!」

魔法により回復量を増やす。

「すまんの」

テレスさんもそうだけど、戦士系の人達はHPを回復するだけで戦力が戻るのが楽だ。

けど普通の戦士の人達はHP自動回復系スキルを持っていないと迂闊に大技を使えないから色々大変とかいっていた。確かにそうだね。

「魔人斬!」

地面から吹き上げる黒い衝撃波が魔物を吹き飛ばしながら前へ進んでいく。

HPに余裕が出た途端大技ですか。やっぱりこの人も脳ミソ筋肉なんですかね!?



いいけどね。慣れてるし!



しかし、なんだろう。

全く攻撃してこない魔王ナベリウス。


もしかして、張られている障壁は内側からも干渉できない性質のものなのかな?


うーん、干渉してこないのは楽だからいいのだけど、その後がやな予感しかしない。


これ自体が、死んでいく魔物自体が、膨大な生け贄の様な気がする。

けど、おそらく全滅させないと、あの障壁は解除されない。いや、斬れるか試してみるべきかな。


いやいや、

(クロ、一発ナベリウスに撃ってみて)

(うむ)


クロが爪をクルリと回す。

浮いていた黒い炎全てが纏まりひときわ大きな炎となる。


ひょい。

とクロが爪を振る。

(ちょっと大きすぎると思うんですけどー)

(お・ま・け!)


おまけじゃなくて全力じゃんかー。

「もー、水の壁!」

私、クロ、ギルバートさんの前に厚めの水の壁を覆うように展開する。



ズゴンッ!

ゴバアアアアアアァァァァァ!!!


変な音と共に黒い炎の奔流が吹き荒れる。

「わっはっはー! 全て燃え尽きろぉぉぉ」

これは、障壁を破壊する以前に魔物が全滅する気が、意味がない気がするよね。変なこと叫んでるし、クロのおバカ。


案の定、魔物が全滅した。

そして障壁は無傷。ちょっとビックリ。



ナベリウスが杖を障壁に掲げる。


ヴン!

おっと、地面に巨大な魔方陣が出現した。

魔眼で鑑(み)る。


吸魔法陣。

眷属の亡骸を糧とし力とする。

これはまた、クロ君お手柄。全て燃え尽きてしまって亡骸自体が無い。


パリンッ!

障壁が音を立てて崩れ落ちていく。

ナベリウス自体になんの変化もみられない。


完全な仕掛け。

全力で全滅させた魔物の力がナベリウスに集結しパワーアップ。

十九の軍団の力を手にいれた魔王との絶望的な戦いが繰り広げられる。みたいな?


ちら、ちら!

なんでしょうかね。こちらをチラチラみている子がいます。

鑑定結果言ってないのに何が起きたか大体理解できちゃって、褒めてほしくてチラチラこっち見ているんですかね?


「あーあ、クロのせいであの障壁が全滅前に壊せたか確認できなかったなー、あーあ、まいったなー」

「リンさんのいけず。褒めてもいいのよ?」

何で女の子言葉なの?

「そうですねー、全力の魔王と戦う事がなくてよかったですわー」

「はっ!………チクショウ!!! 我、何て事をしてくれたんだぁぁぁ! 我のばかばかー!」

ふよふよ浮きながらじたばたと暴れているクロ君。うん、可愛いね!

おいでおいでー、糸でクロを手繰り寄せ抱きしめる。

「あむあむあむー!」

腕に抱きつき、指を甘噛みしてくる。

空いてる手でクロの頭をナデナデする。嬉しそうに目を瞑りそれでも噛むのをやめないクロ君。


ふふ、最強の状態じゃないと言っても魔王だからね。

「ほらクロ、やるよ」

「あむあむあむ!」

「お嬢ちゃん達はいつもこんな感じなのかの? 緊張感の欠片も無いのお」

下からこちらを見上げるギルバートさん。

「…………」

地面に降りる。いや、別に陰陽浄衣だから下からなにも見えないんだけどね。


「行きますか。おそらく何回か復活すると思うので、倒しても気を抜かないでくださいね」

「応(おう)!」

「うむ! 百回殺す!」

うん、百回は生き返らないと思う。



あ、魔眼で鑑定してみたら。複数の命、持ってませんでした。

うん、吸魔を防いじゃったからだよねこれも。

えーと、、まあいいか。

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