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79:転移カード

市民街の外れ、街道を少し外れた林の中に佇む。


樹木と草と土の匂いが霧に溶け朝露となって場を包む。

「んー、体にいい感じな朝の空気」

「気のせい。湿気が多くて我は嫌い」

「えー、なんか神秘的じゃない?」

「全然、匂いが濃くって嫌い」

「そうなの?」

「そうなのだ!」

腕の中で私の手とじゃれついていたクロが、ひょいっと肩に移動する。


私とクロが、音も気配も無く近寄ってきたソレを見つめる。

なんかさらに若くなっているし、鑑定しなくてもわかるほどあきらかに強くなっている。

「待ったかの?」

にぃ、と笑う顔は老人だったときの面影を残している。

「ううん、今来たところ」

クロが答える。

「ほっ! 知性があるとは思っていたが、喋れるのか。びっくりじゃ」

さして驚いた風もなくいう。



「貴様も以前より若返っていてビックリだ。魔人化による効能か?」

当然のようにクロが話を続ける。

「どうやら肉体は最盛期に近付くようじゃ、強い敵を倒して魔素を吸収するたび少しずつだが最盛期の肉体に近付きつつある」

「ふむ、魔人化により成長は止まるが、肉体的には魔人化に至った時より強化されると言うことか」

「そういうことになるかのお、変な気分じゃのお」

「我と話すことがか?」

「わし、猫と話すの初めてじゃからのお。自分のことをわれと呼ぶのか」

「ちょっと拗(こじ)らせてます」

「リーンー、ダーマーレー!」

頬に頭をぐりぐりしてくる。

「仲が好いのお」

しみじみと呟く魔人。

「一人は寂しいですか?」

「…………わしの選んだ道じゃ」

「老人じゃないのに、わしっていうのも拗らせてるっぽいのだ!」

クロ君、口調がいつもの調子に戻っちゃってるよ。

「流石に意識までは若返らないからのお、俺とか無理じゃ」

「無限の時間とか、持て余しませんか?」

「まだ生り立てじゃからの、暇はしてないかの」

「南の森はどうですか?」

魔人さんは今、ローラン王都の南に広がる魔の森とも呼ばれる強い魔物の生息する地で暮らしている。

「悪くないかのお、なんじゃ、用件は質問攻めにすることかの?」

「違いますけど、人間辞めた人とか初めてなんで」

「全てを捨ててまでなった価値があったか知りたいのだ」

「わしの本質は戦いだからの、逃れられない選択じゃ」

「破壊衝動とかはどうなったんですか?」

魔人になったときに、人を何人か殺している。


気配が変わる。

「あるぞ」

何も感じなかった気配が殺気に塗(まみ)れる。一面が殺気に包まれる。

「怖いね」

「怖いのだ」

…………。

「お嬢ちゃんは怖そうじゃないし、猫にいたっては嬉しそう笑っているではないか」

殺気が消える。

「我の事はクロ様と呼べ、暇人」

「魔人じゃ、クロ助」

「クロ様だ! 変人」

「魔人のマがどこにも掛かってないぞい。わしのことはギルで良い」




「で?」

「で?」

「でで?」

「おい」


転移カードを取り出す。

「ぬ、これかの?」

魔人も同じ、転移先階層の記述が無い転移カードを取り出す。

「ちなみに、今の管理迷宮の状態はご存知ですか?」

「知らぬが、異変が起きているのかの?」

「強力な魔獣が出現しています」

「ぬ!? まさか」

「そのまさかです」

これは、行き先の記述が無かったのではなく、行き先が存在しなかったのだ。

今は、最下層ボス部屋の転移魔法陣にこのカードを持って乗れば、そこへ飛ばされる。

そして、そこには狂乱のスキルを持って君臨する者がいる。


オルトロス?

否。


ケルベロス?

否。


魔獣であるその者達は存在はしているだろうが君臨はしていない。


ならば、何が?



「魔王討伐ツアーなのだ!」

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