66:朝食
目が覚める。
ふかふかのベッドはとても心地よく目を瞑っているとまた眠りの中へ旅立ってしまいそうで...
…………………
…………
……
目を開ける。
目の前にクロの顔。
前足を器用に畳んだ上に顔を乗せすやすやと眠っている。
「スヤァ~」
……眠っていない気もする。
しかしなぜわざわざ私の顔の正面で寝ているのか。
起きた時に驚かそうとしてそのまま寝ってしまったとか?
「スヤァ~」
そんな気がする。
クロの寝顔をじーっと見つめる。
…………………
じーっと見つめる。
…………
じーっと見つめる。
……
じーっと見つめる。
「は、恥かしいのだ、てれてれ」
寝言だ。じーっと見つめる。
「むきゃ~!」
叫びながら飛び掛ってくるのを糸を使い空中でキャッチ!
「むきゅ~」
ぽてんっと、糸から開放され手の中に落ちてくるクロ。
半分寝ぼけているクロを撫でながら部屋を見る。
懐かしいと言うべきだろうか。
ここはクロと私が始めて会った部屋。
先に帰るウィリアムさんに、晩餐会にも出席するように言われ置き去りにされていったのだけど、王様に急な用が入ったらしく晩餐会は中止になり久しぶりの王宮料理を楽しみにしていたクロを慰めつつ帰ろうとしたところ一緒に朝食をとるので今晩は城に泊まっていくようにといわれ現在に至る。
「だけど、わざわざこの部屋に泊めるというのはなんていうか、なんていうんだろうね」
「ブラックジョークだな、我ももう隠れてなくてもいいだろう?」
「そうだね、まあ、そういうことなんだろうね」
「カリカリベーコン楽しみだな!」
「えー、隠れるのやめるのは堂々と朝食をとるためなの?」
「もちろん!」
「堂々と肯定するのねー」
「えっへん!」
「リン、この際丁度いいからフレデリックとエリックに洗脳を掛けてしまうというのはどうだろう?」
王様と王子様を傀儡にしてしまえとは、クロ君、キミは体毛だけじゃなくて心まで真っ黒なのね! なんて恐ろしい子!
「流石に無理だと思うよ」
部屋に掛けておいたロックの魔法を解き糸を放つ。
扉の隙間から、天井の隙間から、床の隙間の無い様に見える大理石のごく僅かな隙間から糸が縦横無尽に潜んでいる者、仕掛けられている魔道具を探す。
中の様子がまったく探れなくて困っていた様子の者達がいきなり中の様子が探れるようになったため動き出しているのが手に取るようにわかる。
見張りの任務が遂行できるようになり迂闊に動き出してしまっている者達。
状況の変化を逆に怪しんだのか隠密を発動する者達。
隠密を発動するでもなく何もせずにただそこに留まっている者達。
(何種類かの命令で動いているみたい)
ロックを解除したので念話に切り替える。
(ストーカー共か?)
(うん、けどどうだろう。学園にいた人達もいるから。探りに来た人達と護衛が半々て所かなあ)
(あいつらか。真のストーカーである小僧の隠密も見破れない無能達だな。しかし、一応リンの護衛として国から派遣されているあいつらが排除しないと言う事は結局増えてる奴らも同じ穴の狢という事だろう?)
(まあそうだね、害意があるわけでもないみたいだからいいけど)
(リン、害意の基準がズレているのだ!)
(まあ取り合えずそれは置いといて)
(なん、だ、と)
(王様と会うときはこの人数ももっと増えるだろうから、この人達の目を誤魔化してどうこうというのは難しいよ)
(ミ、ナ、ゴ、ロ、シ。ミナゴロシ)
(何で二回言ったの!? それに殺しちゃダメでしょ)
(あと今まで見てきたフレデリック王が本当のフレデリック王とも限らないし)
(そのための鑑定ではないか)
(そうなんだよねぇ、実は昨日見るたびに鑑定してたんだけどさー)
(まさか影武者が!?)
(そうなんだよね、王様だけじゃなくてエリック王子もわざわざ影武者用意してたみたいなんだよね)
(どういう意図だ?)
(うーん、どうなんだろう。本物だけをピンポイントでやっても無駄だぞとか、いや、うーん)
いやいやいや、思考がズレている。
(まず、殺したり洗脳したりとかしないから)
(ぇー、今までしてきたではないか、我のこの手は真っ赤に染まっているのだ! ばばーん!)
(真っ黒だけどね。私とクロに害を成そうとしたモノ以外にはしてないでしょ。そこは踏み外しちゃダメなラインだよ)
(元凶だと思うが?)
(ぇー、クロと会えた事が凶なの?)
(大吉! 満漢全席!)
(ふふ、じゃあ、いいじゃん)
(うむ、許す)
ノックの後に声が掛かる。時間のようだ。
特に支度ということもないので、そのまま扉を開け途に就く。
寝巻きやおそらく朝食に着ていくためだろう飾り気の少ないドレスも用意してあったけど全てスルーする。
(スルーするーだ、と)
(はいはい、ごめんなさい私の思考を読まないで下さいねー)
クロを捕まえようとするけど、左右の肩を器用に移動したり首の後ろの髪の中に隠れたりと嬉しそうに逃げ回る。
油断はしない。
王や王子にその意思が無いとしても、いや、無い訳はないか。
今、このタイミングというのは有り得ないだろうけど、そう私が思っているからこそという事も有り得る。
あちらには人という存在を隷属させるための方法がありとあらゆる手段用意されていて、今までそれを確実に実行してきているのだから。
少しでもいけると思われたなら躊躇なく実行してくるだろう。それこそ無いと油断してドレスを着てきたらそれが実行の合図であったりするのかもしれない。
その程度の者ならば、対等な立場でいる必要が無い。そう思われたなら対等ではない立場へと実力で落としに来るのだろう。
試されているようなものと思えばいいのか。
うーん。
クロを撫でる。
さっきは全力で逃げていたのにいつの間にか右肩の上でじっとこちらを見ていたクロの頭を撫でる。
無力であった私がいた部屋で一晩過ごさせ、朝、覚醒していない、思考が上手くまとまらない時を選んでのこれ。
無意識下での余裕を無くし思考の幅を狭める。
それは、既に相手の策に嵌っていたと言うこと。
ぺろぺろぺろ。
撫でていた手をクロが舐める。
「ふふ、クロは優しいね」
「にゃ!」
いつもの私に戻る。そう、いつものクロといつもの私。
ただそれだけ。
何事もなく朝食を済ませ帰途に着く。
「カリカリベーコンゲットだぜ!」
お土産にカリカリベーコンを使った料理をたくさんもらってご機嫌のクロ君であった。
--------------------------------------------------------------------




