63:謁見
ローラン王国の南に広がる山脈。
その麓は鬱蒼たる森に囲まれた未開の地。未開たる所以は、生息する魔物の強さ。
平地に出没する魔物の強さを管理迷宮の一層とするならば、ここに出現する魔物は四十層。つまり最下層の魔物、悪魔族で言えばグレーター級、山脈に近づけばアーク級さえも出現すると言われている。
管理迷宮のボス部屋でグレーター級の魔物を倒せば必ず宝箱が出現する、それは倒すために使ったアイテムや巻物の出費を補っても余りある富を冒険者達に与えてくれるが、地上に出現する魔物を倒しても宝箱が出現する事はなく、ごく稀にアイテムをドロップする程度。
その様な場で狩をするものなど居ない。
「ぬうん!!」
訳ではないらしい。
気合一閃、長剣から放たれた衝撃波が男の倍はあろうかという獣を両断する。
辺りを見回せば、切裂かれたと思しき木々や薙ぎ倒された木々がその戦闘の凄まじさを物語っている。
地に竜牙を突き刺し、一息つく男の両眼は真紅に輝いている。
ひらひら、ひら、とその景色には場違いな白い蝶が舞い降りて竜牙の柄の先端にとまる。
「ほっ、ご指名かの?」
その壮年の風貌からは似つかわしくない言葉使い。
ローラン王宮:
前を行くウィリアムさんについて歩く。
冒険者ギルドの制服でなく、なんか貴族っぽい服のウィリアムさん。
(防御力ゼロだな!)
と、陰陽浄衣の懐の中に隠れているクロ君が感想を述べてくる。
私にもドレスが贈られてきていたのだけど見なかったことにした。
(贈物の振りをした防御力ゼロ装備作戦などに引っ掛かるとは、この男もたいしたこと無いな!)
そんな作戦は無いと思うけどね。
(なんだとぉぉぉ!)
懐の中でジタバタと暴れるクロ君。
(私、何も言ってないでしょー)
(我のネコイヤーにかかればリンの考えている事などお見通しなのだ!)
ネコイヤー関係ないじゃん。
(むきぃぃぃ!)
(クロ、見つかったら追い出されるよ?)
動物禁止の張り紙は無いけど、見つかればまあ追い出されると思う。
(隠密しながら暴れているから平気)
(暴れている時点で隠密の効果切れてると思う)
(むぅぅ)
大人しくなるクロ君。
「リンさん。無茶な発言は控えて下さいね」
ウィリアムさんから本日何度目かのご忠告。
「はあ」
本日何度目かの気の抜けた返事。
「なんだか最近テレスより、リンさんのほうが危険な気がしてきましたよ」
「心外です」
即答する私。
「そういえばテレスさんは同行しないんですか?」
何とはなしに聞いてみたら、大袈裟に肩を竦めるウィリアムさん。
「貴女とテレスを一緒にすると必ず問題が発生します」
「正解です」
即答する私。
「…………」
何もいわずに大袈裟に肩を落とし、ため息を吐くウィリアムさん。
(クロ君、冗談なのにスルーされました!)
(…………)
(え、なにそれ?)
(…………Zzz)
(寝てんのかーい!)
と、一人ツッコミをして少し恥かしくなる私。
「どうかしましたか? 少し顔が赤いですよ」
僅かな隙を付いてくるウィリアムさん。
「どうもしないです」
むぅ、何かクロとウィリアムさんに負けた気分!
「テレスを止めてくれた事。感謝しています」
不意に真っ直ぐ見つめられ礼を言われる。
闘技場での暴走の事だ。
どこから手に入れたのか、闘技場での事は把握済みということも言外に含んでいるのだろう。
「テレスさんに聞いたんですか?」
「違います」
うーん、ウィリアムさんとの会話は毎回なんか隙の突き合いのような感じになってしまう。
そうこうしている内に謁見の間に着く。
見覚えのある場所。ここには無力だった頃に何度か来た。
王様にも合った。
ウィリアムさんが名前を告げると、待つことなく扉が開く。
正面奥、一番高くなったところに鎮座するのはローラン王、フレデリック。横にはエリック王子と偉そうな人。
既視感。いや、何度か来て見ているのだから懐かしさ?
そして左右に列を成して立っている人達。その中に見覚えのある顔が二人。
むこうも私を見て驚いている。
それは、ズヴァール卿とその息子トリン。
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