62:呼び出し
あれからしばらく経ったある日。いわゆる所の日常が戻り始めたある日。
いつものように光魔法の授業を行っていた教室に、学園の教師に案内されて緋色のローブの者達が訪ねてくる。
見覚えのあるその色と模様は、宮廷魔術師の証。
一時期使用していた事もあるローブだけど、その使用者達についてはいい思い出が無い。
その宮廷魔術師が私に対し膝を折り頭を下げる。
その態度が教室内をザワつかせる。
貴族の中でも力のあるズヴァール家に対し行った不敬な行いに何も咎めが無いことや、介入してきた王国の騎士達が私に取った態度を見ていた生徒や教師達の間で囁かれている色々な噂。
曰く、その実力により貴族並かそれ以上の待遇を与えられると言うSランクの冒険者なのではないか?
曰く、上級貴族の血縁者なのではないか?
曰く、王国から特殊任務で派遣されてきた凄い偉い人なのではないか?
曰く、エリック王子の婚約者なのではないか?
気分を害してしまったらどうなるかわからないという恐怖があるのか直接聞いてくる人はいない、遠まわしに聞いてくる人はいるがそれについては曖昧にかわしている。その様な状況が拍車をかけてしまっているのか、エリック王子の婚約者とか意味の解らない噂まで飛び交っている。
そういえば、私に関する醜聞を信じて噂に加わったという人達に土下座をされたりもしている。人前で土下座とかされるのは正直迷惑な話である。
私に実質的な危害を加えようとした人達は既に始末してあるのだ。迷宮攻略に利用してそのまま迷宮に吸収されている。世間的には行方不明だ。
ああああ、だからかぁ。
今まではよくと言うほどではないがたまにあった行方不明。そのほとんどが貴族の子息達が原因と噂されてきたが、私がズヴァール家より力のある貴族ではないかという噂と結びつければ行方不明になっている者達との関連性が納得いってしまう。そうすると噂を流す行為に加わった自分達も行方不明という形で始末されてしまうのではないかと、気が気ではないという状況なのか。それは土下座もするなぁ。
「エリック様がお待ちです」
宮廷魔術師の発したその言葉が教室内を一層ザワつかせる。
なんじゃそりゃー、と肩の上のクロが私の頬をてしっと前足で叩きツッコミを入れてくる。ツッコミを入れる相手が違うけどね!
見学させて頂きたい。と言い宮廷魔術師達は教室に残る。
訪ねてきた全員が光魔法のスキルを持っているのは既に鑑定してわかっている。
そろそろ私の冒険者ギルドから依頼された教師の期限が切れることを考えると、代わりなのかとも思うが、まさか宮廷魔術師が教師になるとは思えないけど、光魔法スキルの発現率が飛躍的に上がった事で発現者を教会に持っていかれないように教師を教会関係者ではなく王国関係者に変えてしまおうという考えが働いているのか、とか色々考えながら歩いていると目的地に着く。
学園の応接室。豪奢なここは主に学園長が使用する場所。
一般の教師はそれぞれに与えられた仕事部屋に応接間を持っていて、そこで来客との面会を行う。
エリック王子が学園を訪ねてくる。
うーむ、嫌な予感しかしない。
(プロポーズだったりしてな!)
クロが茶々を入れてくる。
(丁重にお断りします)
(王族特権発動!)
(うわー、最悪です)
けど、おそらくそれは無い。その様な事をした場合、冒険者ギルドが反発する。というより、色々と手を打ってきた結果、今のこの後見がローラン王家という状況なのだ。
現在、ローランの冒険者ギルドの長になっているウィリアムさんとローラン王家が色々と折衝した結果こうなっているのだろうから今更この状況を覆してしまうような事はしてこない。
大体、後見人はエリック王子のはずだし。
あれ? そうだよね?
扉の前に騎士が二人立っている。エリック王子の護衛かな。
私が挨拶をする前に、敬礼され私が来た事を中に告げられ扉が開く。
中に入ると部屋の奥、いわゆる上座の席にエリック王子が座り、その後ろに親衛隊長さんが立っている。隊長さんと目が合い目礼される。
隊長さんは、威圧スキル持ちの凄い人なのです。威圧スキルは発動すると相手の動きを止めてしまうのです。
(ざ、わーるど!)
(ん?)
格下の相手は完全に動きを封じられ、同格、格上でも一時的に動きが止まるのです。
(我々には効かぬがな!)
(見切っているからね!)
(うむ!)
つまり、エリック王子を殺そうと刺客が何人来ようと一瞬で動きを封じられ返り討ちに合ってしまうのです。
(奴を殺るにはスキル範囲外からの遠隔攻撃だな!)
(まあ、それが可能ならだけどね)
脱線したね。話を戻そう。
(そして時は動き出す)
(ん?)
扉に一番近い下座の席にはユートス・ファウスト学園長が立って私を出迎えている。
「リン、久しいね。教師と言うからそれらしい恰好を期待していたのだけど」
と言いつつ手で学園長より上の席に座るよう合図するエリック王子。
「はあ」
と気の無い返事をしつつ席に着く私。
「けど、その神秘的な服も似合っているよ」
と笑顔を向けるエリック王子。
「はあ、どうも」
と、思わず気の抜けた返事をしてしまう私。
話が進む。
学園におけるローラン王国の関与を少し拡大するという事。
特に光魔法等の希少なスキル持ちに関しては王国の庇護下において、貴族や教会からの関与をなるべく排除する方針だと言うこと。
宮廷魔術師の中から学園駐留者を専任すること。
どうやら、今回の光魔法発現の過程も研究し改革していく予定らしい。外に漏れない様にという意図もあるみたいだ。
学園としてもローラン王国からの支援がお金的な意味も含めて拡大するのは願っても無い事と賛同しているみたい。
そういえば、宮廷魔術師の機関というか立場は少し変わったらしい。
先代、先々代と続けて謎の死を遂げたことで徹底的な調査を行った結果、色々と問題が発覚して組織の改変が行われたということで、魔法の一族協力の下人材の入れ替えや発掘作業が行われ。今回の学園駐留の件もその人材発掘の一環と言う事なのだ。
(魔法の一族とか大丈夫なのか?)とクロが聞いてくる。
(大丈夫。あそこには情報源が沢山あるから、それに私に不利な事は起きない様になってるしね)
(おおぅ、影の支配者リンと呼ぼう!)
あそこには洗脳というか、記憶を改ざんした火の一族のメイド達とか色々といて、私というか改ざんしたお嬢様に不利になる事は徹底的に叩き潰す事になっている。それこそ、お嬢様である私を守るために命懸けで動いてくれる。
話がひと段落したところでエリック王子が切り出してくる。
「そういえばリン。まだ後見人に挨拶してないらしいね」
ん?
「えーと、このたびは後見人になっていただきましてありがとうございます」
私の言葉にエリック王子が微笑みながら返す。
「僕もそのつもりだったのだけどね。残念ながら違うんだ」
「はあ」
うん、なんとなく気がついていたんだよね。
「ハハ、気がついた見たいだね。今日来た用件はそれを伝えるためだったんだよ」
「はあ」
ローラン王家が後見人だもんね。
「明日、謁見の間で会おう」
「はあ、謁見ですか」
「ああ、父上にちゃんと挨拶をしておかないとね」
「はあぁぁぁ」
と、思わず深いため息が出でしまう。
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