58:夢想連撃
大興奮のクロから念話が飛んでくる。
(リンー、テレスのそばに行っていいー?)
(ダメでーす)
(奥義をそばでみーたーいーのーだー!)
クロがマウラさんの腕の中でジタバタと暴れ、にゃーと鳴きながら念話で叫んでいる。鳴きながら念話とは器用なことである。
(クロはここでは普通のネコの設定なんだから戦いの場にまぎれ込んではダメでーす。それにテレスさんなぜかラムダ君に喧嘩売ってるし、こっちを裏切って敵に付く事は無いと思うけど、ラムダ君が何か変な行動を取る可能性が少しだけど発生したのでクロはそこにいてもらわないと困りまーす)
合理的なエリック王子の騎士団、いや親衛隊にいたラムダ君だから、バカみたいな行動をとるとは考えにくいけど、よく解らない騎士プライドとかが爆発して変な行動をとったりしないとも限らない。次は俺が相手だ! とか言いつつマウラさん達を守る任務を放ってテレスさんに喧嘩を売るとか、私に喧嘩を売ってきた前科もあるしゼロとは言えない。テレスさんもなぜにわざわざラムダ君を挑発するのか、クロもだけど直接殴る系の人達はなんていうかアレダヨネ!
(じゃあ、ラムダ殺してから行けばいい?)
(言ってる意味が解りませーん、敵以外をホイホイ殺すことは不許可でーす)
(実はラムダは敵だったのだ!)
(違いまーす。クロ君の脳ミソは筋肉にでもなってしまったんですかー?)
(失礼な! 我の黒色の脳ミソは蜜の味なのだ!)
(意味不明でーす)
…………
……
テレスさんが絶対防御で動く事が出来ない騎士に近づき構える。
「夢想...」
ヒュン!
と斜め後方の死角から矢が飛んでくる。スキル発動のタイミングを待っていたのだろう、この攻撃は絶妙だ。
誰もが当たると思ったその矢はテレスさんの体をすり抜ける。
「...連撃」
コンッ!
テレスさんの拳が騎士の盾に当たる。
カンッ!
テレスさんの拳が騎士の盾に当たる。
ゴンッ!
テレスさんの拳が騎士の盾に当たる。
おかしい。
今のは一撃のはず。
左の拳が騎士の盾に一発当たっただけなのに。
(解説のクロさーん。解説お願いします)
(つーん)
(クロさーん。解説してくれないなら魔眼で鑑定して自分で理解しちゃうけどー?)
(むぅぅぅぅ! リンは魔眼の使用禁止!)
(じゃあ、解説して、まず奥義って夢想羅刹拳って言うのじゃなかったっけ?)
昔、最下層攻略の治療班として参加してたときテレスさん達が藤原君を抹殺しようと攻撃した時に使っていた記憶がある。
(ふふふ、奥義はいっぱいあるのだ!)
(あー...うん。凄いね)
(凄いのだ! えっへん!)
(はいはい、じゃあ夢想連撃の解説お願いしまーす)
(リン。聞き方が軽いのだ)
(お願いしますオス!)
(うむ! いい心構えなのだメス!)
(…………うん。続けて)
(昔々、あるところに格闘家がおってな)
(え、長そう。省略して?)
(むぅ!)
(痛恨の一撃を連続で放ったら凄くね? ってなってそんな夢みたいなこと出来るかーってなって、じゃあ名前をつけるとしたら夢想連撃じゃねってなったのだ!)
(うん、凄い勢いで省略されたのが何となくわかる。クロ君さすがです!)
(えっへん!)
テレスさんが飛んできた矢を避けつつ、
コンッ!
テレスさんの拳が地面を叩き周りに石礫が飛び散る。
カンッ!
テレスさんの拳が地面を叩き周りに石礫が飛び散る。
ゴンッ!
テレスさんの拳が地面を叩き周りに石礫が飛び散る。
コンッ!
カンッ!
ゴンッ!
テレスさんの拳が騎士を殴る。
(で、あれはどういうことなの?)
(タイミングがズレているのだ)
(よく解らないのだけど。あの三つの攻撃はひとつの攻撃という事なの?)
(うむ、速過ぎるスピードが先に当たってしまい。遅過ぎるパワーが遅れて当たってしまっているのだ)
コンッカンッゴンッ!
テレスさんの拳が騎士を殴る。
(タイミングが合ってきているみたいだけど。これってつまりあのズレている攻撃がひとつになった時に確実に痛恨の一撃と言うのが発生するって言うこと?)
(三重の極みアッーというらしいのだ)
(三重発祥なの?)
(忘却希望。我、失言)
ガンッ!!!
明らかに今までと違う音が鳴る。
ガンッ!!!
ガンッ!!!ガンッ!!!
ガンッ!!!ガンッ!!!ガンッ!!!
「ちょ、まっ!」
異様な一撃に動揺した騎士が声を上げる。
ガンッ!!!ガンッ!!!ガンッ!!!ガンッガンッガンッ!!!
「待てっ! 待てっ! 待ってやめて!」
一撃どころではなく明らかに一撃必殺の攻撃が連続で出されている事に絶対の自信が揺らぎ思わず弱音が出てしまう。
ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッベコッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッベコッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッベコッガッガッベコッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッベコッガッガッガッガッガッガッガッガッガッベコッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッ!!!
「そ、んな...」
その攻撃が素通りしてしまうか範囲攻撃の巻き添えで弾かれてしまうため攻撃の手を止めてしまっていた兵達が、その異様な技の傍観者となっていた兵達が目の前で起きている現実にただ絶句している。
絶対防御の体勢のまま固まっていた騎士がへこんでいく。
音を立てて拳の分づつ、へこんでいく。
「や、め、て...」
平面になっていく騎士が声を発する。
「凄いわね。こんなになっても生きているなんて、つまり絶対防御が解けない限り死なないという事かしら?」
攻撃を放ちつつテレスが答える。
「もう、死んでるから...や、め、て...」
「まだでしょう?」
「なに、が?」
「絶望の中で死ね。だったかしら」
テレスが嗤う。
「ヒッ!」
攻撃が一点に集中していく...
ガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッガッベコッガッガッガッガッガッガッガッガッガッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッベコッバキンッ!!!
集中した攻撃箇所を基点に二つに折れる。
「ヒッヒッヒッヒッヒッ!」
上の部分が声にならない悲鳴を上げている。
それを見下ろしながら呟くテレス。
「そうなっても死なないのね。絶対防御、凄いわね」
余りの激しさにただ見入ってしまっていた観客が一言。
(凄かったね)
(うむ!)
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