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51:サムライ2

その男は最初からそこに立っていた。



隠密スキル。

それを極めた者の使う隠形(おんぎょう)は目の前に立っていてもその存在を認識されないという。


そのまま進めばぶつかる進路であった兵士がスッと俺を避けていく。

隠密スキルのレベル5で存在の認識を消せるが、熟練度をさらに上げる事で人として認識はされないが障害物として認識をさせるという芸当も出来るようになる。おそらく隠密スキルをここまで極めたものはそういないだろうという自負がある。


なぜこんなに隠密スキルを極められたかって?

それは秘密だぜ!!!


隠密をいつも見破られる一人と一匹をストーキングしてるからだろうだって?

何のことか解らんな!!!


これは俺の飽くなき探究心がもたらした成果であり結果なのだ!!!

クソネコ事案発生とか言うな!!!




おっと、戦闘が始まってしまったぜ。




付与魔法で魔法防御がアップした盾持ちの兵達が隊列を崩さず火の壁をレジストしながらジリジリと進んでいく。


こうも完全防備で魔法効果も付与されると正面からまともにやり合ってもてこずるだろう。

やはり装備が整った兵相手というのは圧倒的な力量差でもない限り勝ち目が無い。


六人が理想的といわれる、迷宮探索のプロである冒険者パーティでもこの平地という状況では勝ち目が無いかもしれない。それほどまでに鉄壁の防御なのだ。下手な上級魔物よりも硬いかもしれない。

やはり限定された空間での対魔物戦を前提とした冒険者よりも平地での対人戦闘を主とした兵士達の方がこの場では分がある。



まあ、まともに戦ったらという前提だけどな。



「フフフ、冒険者風情が我がアフターバーナー家の兵とまともに戦えるとでも思ったか? 愚かな」

俺の目の前で偉そうなおっさんが偉そうな事を言っている。

「ビッチ! 見なさい貴女の大事な生徒が今から死にますわよ。殺されたくなかったら今すぐ膝をついて許しを請いなさい」

楠木の事をビッチ呼ばわりしている女がいる。



闘技場を見ると楠木がちらりとこちらに目を向ける。

ばっちりと目が合う。やだー、隠密真っ最中のはずなのに気付かれてます。



「そこからでは助けることも出来まい。上手くやったつもりであろうがそれが仇となったな!」

「そこで惨めに許しを請うなら止めてあげなくも無いわよ?」

「リタ。本当に止めてあげるのかね?」

「そんなわけありませんわ! オーッホッホホホホ」

「ワッハハハハ。お茶目だのうリタは」


楠木がふっと目を細め視線を外す。笑ったのか?

まあいい、こっちは気にするな。


腰の童子切を手に取り意識を集中する。


「月下(げっか)...」


視線を上げる。

その先には無防備なおっさんと女の背中。その先に魔術師達の背中。そう今俺のいる場所は鉄壁な防御が展開されている兵達の背後。無防備な背中が晒されている敵陣の真後ろ。


「ホホ...ホ?」

「何かいったかの?」


派生技の多く存在する刀術の中で月の形を派生先とする月下(げっか)の技。その中で最大の威力を誇る派生技。


その名は...「三日月(みかづき)」


地に美しい三日月が描かれ、おっさんと女が、魔術師達が、槍持ちが、盾持ちが、上下二つに分かれ地に落ちる。



ゆるゆると歩み出しつつ隠密を発動する。



いきなり当主と主力が倍の数になり、こと切れた事に混乱する兵達の間を進む。


神速の居合い斬り...「疾風(しっぷう)!」


斬!

兵の首が飛ぶ。


「ワァァァ!!!」

「なんだ!」

「何か居るぞ!」

技の発動の一瞬だけ姿を現し次の瞬間兵の首が跳び姿が掻き消える。それはまるで悪夢のような存在。


一瞬姿を現した悪夢の怪しく輝く目を見た兵が突然攻撃を始める。

「シ、シネェ!」

兵の槍が魔術師を突き刺す。

「アアアア、アァァァ」

兵の剣が仲間を斬り裂く。

「ヒィィ」

兵の魔法が仲間を撃ち抜く。


アフターバーナーの兵達が殺し合いを始める。

「こんなところか...」

少し離れた場所で戦果を確認するフジワラ。


一体何をしたのか?

「ふふん、説明しよう。主力を一気に失って混乱した所に隠密しながら無差別に技を発動しさらに混乱させて、技発動時に隠密が切れて姿が見えてしまうのを利用しこれまた無差別に闇魔法で兵を混乱状態にして同士討ちを誘発したという事だ! 凄くね?」

一体誰に説明しているのか...混乱しているのかフジワラ。

「だってよ、俺が闇魔法持ってるのとかサンド達にばらせないだろ」

だから一体誰と会話しているのかフジワラ。





アフターバーナーの兵たちの混乱を呆然と見つめるゴーンと生徒とサンド達。

「なんだありゃ?」

バスがサンドに聞いてくる。

「さ、さあ」

こっちが聞きたい質問だ。攻撃が始まると思った瞬間いきなりこれだ。

「多分、フジワラだと思うよ」

ウィンがゴーン達には聞こえないように小声で言う。

「ござるな。月下と疾風が発動したのを見たでござる」

侍であるジュノが加わる。

「なんだそれ、刀術の技か?」

「でござる。月下が発動できる侍は珍しいでござるよ、フジワラ氏は凄いでござるな」

「照れるぜ」

いきなり話に加わる話題の人フジワラ。

「うぉ!」

「わっ!」

「フジワラ! 何時から居た!?」

「秘密だ!」

「なんだそりゃ!」

「それより今のうちに安全な場所に移動しようぜ」

「そうだな、ゴーン先生...」

サンドがゴーン達に移動の提案をしに行く。


「ありがとねフジワラ」

「助かったぜ」

「かたじけのうござる」

ウィン達も礼を言い生徒の誘導に加わる。


そんなサンド達を見ながら思う。

なんか普通に受け入れられたな。色々質問攻めとかされるかと思っていたけど何も聞かないし。


ちらりと闘技場の楠木を見る。

まあ俺より謎だらけの彼女を受け入れてる連中だしな。


「フジワラー、ボーっとしてんなよ」

バスが声をかけてくる。

「うるせー、お前喋る前にバスですけどとか言ってから喋れ!」

「あ゛? お前こそフジワラ喋りまーすとか言ってから喋れよ!」

「あ゛?」

「あ゛?」

「もー、二人ともおいてっちゃうよ?」

「お前口調変えろよ!」

「お前が変えろよ!」

不毛な言い合いをしながら歩き出すフジワラとバス。

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