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49:思惑2

ズヴァールの騎士が動き出す。


攻撃の前に手を出せない存在がいるため宣言をする。

「我が子を救うため武力を行使する。英雄殿は手出し無用にお願いしたい」

冒険者ギルドを敵に回すつもりもない。事が終った後正当な理由による力の行使を英雄殿に証言してもらう。


「俺はローランの英雄だ。ローランの意思に従うのみ」

トリンの危機を救う素振りも見せないで何が英雄か無能者め! わしを守るのが貴様の使命だろうがいつまでそんな所にいるのだ。邪魔者め!


まあいい、言質(げんち)は取れた。



「女、これが最後だ。魔道具をとめろ。断れば殺す」

「……それは冒険者ギルドに対する敵対行為と解釈しますが」

「そのつもりは無い。我が子を救うため貴様個人への敵対行為だ」

「……同じことですが、いいでしょう。この場のみの敵対関係としましょう。いいですね、ラムダ」

「呼び捨てにするな。俺はローランの敵を排除するだけだ」


英雄殿と知り合いなのか。手加減を期待しての言葉であろう、だが容赦はせん。


大体、英雄ラムダめ! 我がズヴァールに敵対しているこの女とあの小娘はローランの敵であろうが、英雄などといっても戦いが怖いだけの役立たずではないか。期待ハズレもいいところだ。



ズヴァールの騎士が女を取り囲む。


ただそれを黙って見つめる棒立ちの女。死を覚悟して諦めたのか?


遥か上からそれを見下ろし(わら)い。手を前に突き出し握り親指を立て。


クルリと手を回転させ親指を下に向け...


()れ」


死の宣言をする。





騎士の一人は思う。

冒険者ギルドから派遣されてきた審判の女。審判を任される実力を持ったベテラン冒険者のはずだ。それなりの強さなのだろう。


そう思っていた、だが違う。間近で対峙してみてわかるその異様さ。


勝てる気がしない。


ただ立っているだけの女。武器も何も装備していない無防備な女なのに勝てる気がしない。


戦場でたまにいる異様に強い兵の発する気配とも違う。初めて感じる異様な気配。


「威圧スキルか」

誰かが言う。そうか! スキルか!

この状況で、この圧倒的な状況でこちらが気圧される要素などありえないのだ。スキルによる効果か、だから何も武器を持っていないのか!


領主様の言葉。死の宣言。戦闘の開始の合図。

油断はしない。魔法か何か飛び道具を持っている可能性もある。


盾を構え。剣を振り上げ。

「ウオォォォ!」

突っ込む。


何のアクションも起こさない。剣の間合いに入った。

突進を止めその勢いを剣に乗せ女の肩口へを振り下ろす。


快心の攻撃だ!


ピタッ!

と剣が止まる何か特殊なスキルか? 違う。人差し指と中指、そして親指に挟まれて剣が止まっている。


「なっ!」

剣が動かない。指で挟まれているだけの剣が微動だにしない。


拳が...剣を掴んだ指と逆の手の拳がゆるゆると突き出されてくる。


なにを...コッ! 拳が鎧にあたる。


ズンッ!

何か膨大なパワーに耐えられなかったかのように地面がへこむ。その中心には少し腰を落とした女。


ベゴッ!!!

鎧がへこむ。まるで拳を中心に大きなハンマーで殴られたかのような...


ゴゥ!!!

吹き飛ぶ。まるで吹き荒れる暴風に飛ばされたような...


飛んできた騎士を盾で防ごうとした者達を巻き込み吹き飛ぶ。

「死にたく無い者は武器を捨て、その場に跪け」

武器を持たない丸腰の女が宣言する。


ゴッ!!!

いつの間に移動したのか、取り囲んでいた一角が吹き飛びそこに腰を落とした女が立っている。


「格闘家だ! しかも高レベルの! 防御スキルで守備力を上げろ。挑発で攻撃先をしぼれ!」

騎士の一人が指示を出す。

「防御体勢!」

「アーマーアップ!」

「ストンスキン!」

騎士の一人に防御系スキルが集中する。


「オォォォォ!!!」

挑発スキルが発動。


テレスの状態異常耐性発動! 挑発をレジスト!

ゴッ!!!

無防備な一画が吹き飛ぶ。


「なっ! なぜだぁぁ!」

「挑発が効いてないぞぉ!」

「囲め! 移動できる範囲を限定するんだ!」






魔道具を止めるための戦闘が始まると同時に別動隊がマウラ達へと迫る。

「速やかに拘束する。抵抗するようならば手足は切り落としていい。ペットは殺して死骸を確保しろ」


こちらの接近に気付いた女達がこちらを睨む。

「生意気だな。おのれの分というものを教えてやろう」

走りながら剣を抜く。


黒いペットを中心に身を寄せ合い、小刻みに震えながらもこちらを睨むのをやめない。

「……一人殺すか」

その態度に苛立ちを覚え予定を変更する。蘇生する時に光魔法スキルが消えてしまうかもしれないがそれは自業自得というやつだ。


軽く跳び勢いをつけて、ペットを抱いている女に向かい剣を突き出す。

「死ね!」

「ロイヤルガード!」

目の前に光の壁が出現する。


ロイヤルガード:範囲防御。英雄の固有スキル。帝国の英雄ならばインペリアルガードになる。


光の壁に剣が弾かれる。

光の先を見ると黒いペットを囲む女達の前に立つ英雄ラムダ。

「ラムダ殿、なぜ?」

「こいつ等に手を出すことは俺が許さん」

「なぜですか!」

「俺は、ローランを守る盾だからだ!」

「ズヴァール様がローランではないですか!?」

英雄が肩を竦める。

「違う。こいつらを守ることはローランの意思であり、お前たちはローランの敵だ」







会場の二箇所で戦闘が始まっている。

「おとうさま、おとうさま」

その光景を見ていたところリタが、声をかけてくる。

「なんだいリタ?」

「わたしたちも加勢いたしましょう」

「加勢といっても、無闇に兵を投入しても場が乱れるだけだぞ」

「違います。あそこ! あそこにいる者達はあのビッチの生徒達ですのよ」

指差すほうを見れば、教師らしき男に連れられた生徒らしき一団がいる。

「リタ、アフターバーナーの者がその様なはしたない言葉を使うのはいけない」

「ごめんなさい、おとうさま。でもあの者達を捕らえれば役に立ちますわ」


そうだな。ここでズヴァール卿に恩を売れればリタの件を許してもらう以上の得があるだろう。


幸い、連れてきた兵は完全武装だ。もし学園の教師が抵抗しても制圧できる。


「よし、我々も戦闘に参加するぞ!」

「はい、おとうさま!」

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