47:蹂躙
存在感。
力を持つ者の纏うそれは、ただそこにいるだけで他者を圧倒する何かを放つ。
ローラン騎士団の入団試験で、エリック王子付きの親衛隊長が何かをしたと思った瞬間気を失っていた。後で知った事だが威圧スキルを発動したらしい。それに耐えられた者のみが次の試験へ進んだという事だった。
今ならば気を失わずにすむだろう。いや、それどころか威圧の効果で動けなくなることにも対応できるかもしれない。それほどに自分が強くなった事を実感している。
先ほどもそうだ。威圧スキルよりも強い圧力を感じそちらを見てみれば英雄であるラムダ殿が戦闘体勢に入っていた。その称号を持つ者の力を数倍にも高めるという英雄の実力。流石だ。
ズヴァール家の騎士団に入団し領地の魔物討伐や盗賊団の掃討、それにズヴァール軍として他国との戦争にも参加し騎士としての力をつけてきた。
実力を買われトリン様の傍付きになり、支配する側として様々な力を振るってきた。
トリン様は傍に仕えることでわかるが、支配者として素晴らしい資質を待っている。
今回の件もそうだ。狩ってきた獲物の一人を弄び過ぎてしまったが、些細な事と笑って許してくれただけでなくそれさえも利用して壮大な計画を立てられた。
冒険者ギルドに所属する冒険者。
一介の冒険者程度ならば問題ないが光魔法スキルを持つ冒険者。しかも蘇生呪文が使えるスキルレベル4を持つ者となると冒険者ギルドの庇護の下にあり迂闊に手を出せない。
それが無防備に、いや、棒切れを持った状態で目の前にいる。
トリン様の手のひらの上で転がされていることに気付かない愚か者。
しかもだ。この教師を名乗る者には何も感じない。
曲がりなりにも冒険者。しかも先ほど大口をたたいた上に殺傷力皆無であろうが武器も持っている。この学園の生徒でももっとましな存在感を放つものだ。
それが、目を瞑れば目の前に誰もいないと思ってしまいそうな、まるで人が放つ最低限のそれさえも無いように儚げな...教師などと名乗っているがどう見ても教えている生徒よりも幼く見えるその冒険者。
真に強き者。神や魔人の放つ気は桁が違いすぎて並の者には感じることが出来ないなどと揶揄されることもあるがそれでも異様な雰囲気程度は感じ取れるはずなのだ。
戦う気が無いにしてもお粗末過ぎる。その有用な光魔法スキルの腕に胡坐をかき甘やかされてきたのだろう。本当の戦闘というものを教えてやろう。
少しづつ、気付かれないように間合いを詰める。騎士として軽装な装備なのは先陣を切る為だ。
一撃で殺してしまってもよいのだが、蘇生する時に光魔法スキルのレベルが下がる可能性があるためなるべく殺さないようにとトリン様から指示を受けている。光魔法スキル持ちは殺しさえしなければ自分で傷を癒してくれる。
嬲るにはうってつけの存在だ。
心を折れと言われている。
死ぬ寸前まで肉体的精神的に嬲っても壊れなかったマウラという生徒の心の支えであろうこの冒険者。こいつを屈服させることで全ての支配が完成するとトリン様が言っていた。流石支配することに慣れているお方は支配される側の扱い方をよく心得ておいでだ。
降参の言葉を発せないように開始と同時に瀕死にする。
ジリ。
ジリジリと迫る...開始の合図がかかる。
「死ぬなよ!」
優しい言葉をかけながら斬り込む。
ゴッ!!!
っと右の耳の辺りで音がしたと思った瞬間。左の耳に衝撃が走る。
違う。
その前に何か引っこ抜かれたような感覚が...
違う。
なぜ空中にいる?
ズリ...下にズレる?
魔法の壁から落ちながら遥か先に自分の体を見つけ、今、自分は頭だけなのだと理解しな...が......ポトリと頭が地面に落ちる。
先制で斬り込んだはずの同僚の頭が落ちるのを見ていた視界の端に足が映る。
ボグッ!!!
美しい装飾の施された靴はマジックアイテムなのだろう。そこから伸びる脚は白く細いが程よく引き締まり見る者の目を惹きつける。
天使?
なぜ空からその様なものが降りてくるのかと思いつつ視線を上へと向けるが...
上へと移動するはずの視線は脚を映したままで...いきなり視界が赤く染ま......兜ごと頭が体へ陥没する。
奇襲してきた騎士の頭を言葉の通り殴り飛ばし、そのまま宙へ跳び近くの騎士の脳天にひのきの棒を叩きこんだら頭を守る兜ごと体内へ陥没してしまった。
「流石、貴族様の騎士。いい装備してるなあ」
ドンッ!
着地とともに爆裂歩法で次の騎士へと向かう。残りは騎士三人と親玉一人。
爆裂歩法の突進力を利用しひのきの棒に捻りを加えながらその先端を魔力で強化し突き出す。
まだ何が起きたか理解できていない騎士達。全身鎧じゃない二人のうちの一人の胸当を突き破り心臓を貫く。
そのまま心臓の止まった騎士に体当たりし、ひのきの棒を抜きつつその重たい体をもう一人の騎士に蹴り飛ばす。
何かスキルを発動したのか飛んでくる仲間を小型盾の一振りでで弾く騎士。
鎧を着たヒト一人をそれだけで弾き飛ばすとはスキルというモノは本当に反則だと思いながら、ひのきの棒を両手で握り後方から下へ...
内側から外へと腕をスキルで強制的に動かした為、体が開き無防備に開いた両の脚の真ん中。急所のひとつにひのきの棒を下から上へとフルスイングする。
グチャ。
と、全身鎧ではないからか装備し忘れたのか、急所ガード無しだったらしくモロに何かが潰れる音とともに一メートルほど宙に浮き足から地面に崩れ落ちる騎士。だらしなくむき出しになった喉にひのきの棒を突きおろす。ゴキッ! と首の骨が砕ける。
カチャ。
流石に一気には無理だったか。
最後の全身鎧の騎士が中型盾と片手剣を構えトリンの前に立つ。
騎士を無視しようとしたところ。
「ウオォォォ!!!」
騎士の雄叫びとともに、なぜか騎士を攻撃しなくてはいけないような気がしてくる。
挑発:敵の注意を引き付け自分を最優先攻撃対象とする。
挑発のスキルを使用したらしい。
意識を集中し...「ふっ!」呼気とともにスキルの効果を打ち消す。
さて...トリンを見る。剣を抜きつつこちらに声をかけてくる。
「凄いな。降参してくるものと踏んでいたがまさかその様なマジックアイテムを隠し持っていたとはな」
ひのきの棒のことを言っているらしい。
今起きた全ての事がマジックアイテムによる効果と思っているらしい。
「お前は今から俺のモノになるのだ。もう戦う事は無い。それをこちらによこせ」
なぜ、この状況で勝てると思えるのか。挑発スキルで自分に攻撃が来ず一方的に攻撃できる状況だとでも思っているのか。
「なぜ、私がこの騎士を倒して貴方も倒すという可能性を考慮しないのですか?」
「ん? んんん? お前は頭が悪いな。だが、今後頭を使うことは無いから安心しろ」
「はあ」
「なんだその気の抜けた返事は、口の聞き方から教育しなおさないといけないらしいな。まあいい、頭の悪いお前には考えが及ばなかっただろうことを教えてやる」
不敵に笑い。グルリと周りを見回すトリン。
ある地点でその視線が止まり。スッと手に持った剣をそちらに向ける。
そこには眠ったクロを愛でる会の面々。
「俺のモノだ」
「はあ」
ひのきの棒を指しトリンが言う。
「そのマジックアイテムを渡せ」
「お断りします」
その剣が一人の生徒を指す。
「お前、自分の腕を折れ」
捕まっていた女生徒の一人にトリンが命じる。
「…………」
隣の生徒を指し。
「お前は指を折れ」
「お前もだ」
「…………」
「…………」
そしてマウラさんを指し。
「その手の生き物を握り潰せ」
「……嫌です」
「なんだと? よく聞こえなかったぞ」
「嫌です。貴方の言うことなんか聞きません」
口々に拒否の意を示すマウラさん達。
会場中全ての人がそのやり取りに目を奪われていた中。ポトリッと何かが落ちる音がする。
続いて、ガシャと崩れ落ちる金属の音。
何事かとそちらを見れば、地面に転がる中身の入った兜と、鋭利なまるで首を狩る事だけを職業としてきた者が斬ったかのような切り口を見せる首無しの騎士が倒れている。
「なっ!!!」
何が起きたと問いただそうと思った所に...ボキリッ!
剣を持っていた腕に衝撃が、いや、腕が曲がってはいけない方向に、いや、関節がもう一つ増えたといったほうが正しいのか。
カランッとおちる剣とともにスッと現れた女が言う。
「はい、どーぞ」
膝の裏を刈られ、仰向けに倒れる無防備な腹に両手に持ったひのきの棒を突き刺しながら女が囁く。
「隷属の首輪ならさっき外したよ残念だったね」
腹を貫通し地面に突き刺さったひのきの棒を、動かなくなった右腕を、そして取るに足りないはずだった獲物を見上げる。
「時間回復。これで死なないから安心してね」
そういいながら虚空からまるで手品かの様に錆びた剣を四本取り出す元獲物。
ザクッ! 右の手のひらが地に刺さる。
ザクッ! 左の手のひらが地に刺さる。
ザクッ! 右の腿が地に刺さる。
ザクッ! 左の腿が地に刺さる。
錆びた剣の痛みに悲鳴を上げる。
「動かれても困るからさ、そこで見ててね」
何を言っているのか理解出来ない。
「蘇生」
騎士の一人が蘇生される。優しい!!!
「灰になるまで殺してあげるね」
騎士の一人が殺される。優しくないいいい!!!
トリンの見ている前で...
予定通りに...
当初の予定通りに...
ただ、対象が少し違っているだけの...
蹂躙が始まる。
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