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46:卑劣な罠

マウラさんの檻に向かう、っと。

「くすの...リン!」

「リンさん」

「リン殿」

藤原君とサンド君達が駆けつけて来る。

「テレスさん」

「ええ」

意を汲み取ってくれる。


「下種(げす)ども、近づけば殺す!」

うん、意を汲み取ってくれているよね?



本当にボロボロだ。

「ぅ...」

「大丈夫。動かないで」

回復魔法で体力を回復し水魔法で綺麗に洗い流す。その後、高位の光魔法で諸々の処理をする。


制服もボロボロだ。白のローブを脱ぎマウラさんにかける。

「リンせんせ...」

「ん。もう大丈夫だから」

「せんせい...っ」

腕をぎゅっとつかまれる。

「取り合えず、ここから出よう」

檻から出ると先に助けた生徒三人がマウラさんに駆け寄る。

「マウラ!」

「みんな...」



「人の所有物に勝手なことをしてもらっては困るな」



ビクリッ! とマウラさんの動きが止まる。

よほどのことがあったのだろう、息もせずきつく握られた手にそっと手をやり。

「もう怯えなくでも大丈夫だから。あ、そうだ」

マウラさんにかけた白のローブのフードから爆睡中のクロを取り出しマウラさんの手の中に納める。

「にゅ~!」

クロがマウラさんの手に抱きつきながら変な鳴き声を発する。

「クロちゃん...」

「ふふ、クロをお願いね」



マウラさん達はクロの天然癒しパワーに任せて、立ち上がり高圧的な声の主に向き直る。

「彼女達は私の生徒です。貴方の所有物ではありませんよ?」

「それは、我がズヴァール家から提供された武術大会の賞品だ」

「私の生徒を勝手に賞品などにしないで下さい」

「ハハッ、俺が死ねと命じれば死ぬモノは俺の所有物だろう? それをどうしようが俺の勝手だ」

隷属させられた人間はモノとして扱われる。



「彼女達を解放してくれませんか?」

闘技場から黙ってこちらを見下ろすトリン・ズヴァール。ローブを脱いで陰陽浄衣(おんみょうじょうえ)姿の私を上から下に下から上にとじっくり見ている。

しばらく観察した後、満足したのか言葉を発する。

「お願いしますが抜けているぞ?」


「お願いします」

トリン・ズヴァールに頭を下げる。


「フフフッ、ハハハ。お前が代わるなら考えてもいいぞ」

「どういうことですか?」

「お前の態度には誠意というものが感じられない。所詮(しょせん)は他人事と思っているのだろう。それでは駄目だそう思うだろう? 俺はそう思う。だからお前が賞品になれ!」

「彼女達の代わりに私が賞品になれという事ですか?」

「違う、違う違う。お前も賞品になれ、だ」

「意味が解りません」



「ハハハッ、頭が悪いな? 自分の生徒を救う機会を与えてやろうといっているのだ」

自分の中で物事を完結しておいて相手がそれを理解していると思って話す人らしい。黙っていれば勝手に説明するだろう。


俯(うつむ)き押し黙る。

「…………」

「お前は冒険者だろう? 幸いそこにいる奴等も冒険者というではないか、わかるだろう?」

「…………」

「お前もそいつらの助っ人として出場し俺に勝って見せればいい」

「…………」

「自分を賞品として賭け、自分の力でその賞品を勝ち取ればいいのだ。簡単だろう? 当然賞品は優勝者の総取りに変更されるがな! どうだ?」


観衆の前で私を屈服させたいという事か、そうする事で冒険者である私を公然と手に入れる。

力を身上とする冒険者を公衆の場で力でねじ伏せて自分の物とする。それならば冒険者ギルドも文句が言えない。


理には適っている。


それに盛大にネタバレしていたけど、気付いていないと思っているっぽい事。トリン・ズヴァールには絶対に負けない切り札もある。



サンド君達にはやってもらう仕事がある。



「私も賞品になるのは構いませんが、教師である私が生徒と一緒に出るのは問題があります」

「んんん? 本物の戦闘が怖くなったか? 冒険者だろう?」

テレスさんのあれに反応さえしていなかった人が本物の戦闘とか、ね。

「いえ、戦力的に不公平になってしまうので彼等の代理として私だけが出場するというのでどうでしょうかと」

「んんんん? 面白いことを言うな。束になってやっと足元に及ぶかという程度の雑魚がまさか俺に余裕で勝てるとでも思っているのか?」

「これでも冒険者ですので」

「んんんんん? オッそういうことか、無駄な犠牲者を出さないようにという配慮か、開始と同時に降参するつもりであろう。フフフッはたして出来るかな?」


「クッ!」

っと、悔しそうに後ろを振り向けば。冷めた目で私を見つめる藤原君達。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

こちらの面々は皆黙ったまま。

「相手強そうで私負けちゃうかも...」

と、小声で呟(つぶや)いてみる。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

え、何で皆無言を貫くの?


「にゃ!」

クロ君!


ウィン君が小声で呟く。

「僕前から思ってたけど、リンさんって敵に容赦ないよね」

「墓穴を掘らせて蹴落とすタイプだよな」

「兵法の基本でござるな」

「そういう奴の事は卑劣(ひれつ)っていうんだぜ」

「卑劣なリンちゃん素敵ね」

「リン先生ヒレツです!」


オマエラダマレ!



英雄が近づいてくる。

「リン...様。今のやり取りだけで十分ですが」

ズヴァールの言動を不敬罪とし全てをご破算に出来る。私に対する言動はローラン家に対するものと同等ととられる。

「ラムダ君、私的な場所では今まで通りの口調でいいよ。残念だけど今は場が悪い」

「?」

「ここと、あそこに私の生徒がいる。ズヴァールの兵とアフターバーナーの兵。それと不確定な要素もある。英雄なら私兵も連れて来てる?」

「会場内にはいない。そうか、下手に動けないのだな」

ラムダ君とテレスさんの挙動は注目を浴びる。下手な動きは出来ない。

自然に動けるのはサンド君達と、存在感の無い藤原君。

「まて、今俺、凄い扱いされなかった?」

「黙れフジワラ」

「そうだ黙れフジワラ」

「フジワラの分際で生意気だ」

「フジワラめ!」

「シネ!」

「おぃぃぃ! 俺敵に寝返っちゃうよ?」

「フジワラ君、声が大きいよ」

「はい、すいません」


テレスさん、藤原君、サンド君達も黙り。私の言葉を聞く。



そういえば、静寂(サイレス)を解く。

「おとうさま、あいつですわ」

「ムムムッ、どうしたのだリタ」

「ラムダ殿、一体どうしたのだ! トリンどうなっておるのだ?」

「何事ですか父上?」

当然のことながら今までの会話が聞こえてなかったらしい。


一人闘技場へ上がる私。

トリン・ズヴァールが得々と経緯を説明している。

皆の視線が私に集中する。これから何が行われるのかを想像して期待する貴族の面々。

「降参させるなー!」

「期待しているぞ!」

「お嬢ちゃん応援してるぞ!」

主に主賓席を警護するズヴァール家の騎士達の声援が上がる。


闘技場を包む魔道具を操作するテレスさんの周りに兵が集まっている。

試合がどちらかの降参か死亡で決着がついた時点で魔道具が解除される。

おそらく私の降参では解除させないようにテレスさんを押さえ込むつもりなのだろう。まったくもって愚かだ。





アイテムボックスからひのきの棒を取り出す。

クルクルクル、コンコンッ!


「ハハハッ! ままごとか?」

私に対するトリン・ズヴァールの一言に周りの騎士達はこちらを見て失笑し。会場中で嘲笑がおきる。


魔道具により闘技場が擬似ロック状態になり。内外からの干渉が不可能となる。

「はじめ!」

テレスさんの合図で、戦闘が開始となる。



いきなりだ。

開始の合図の前からこちらに近づきつつあった騎士の一人が剣を抜きざま一足飛びに袈裟に斬り付けて来る。

「死ぬなよ!」

加減した斬り込み。開始直後降参させないためのこちらに降参の言葉を発する間を与えないためだけの。殺す気の無い斬り込み。



殺し合いの場で、その様な事をする甘さ。





誰もが切り伏せられる少女の姿を想像しただろう。


左から振り下ろされる剣を右回転、時計回りに躱(かわ)しながらそのまま一回転する少女。


右手脇に抱えたひのきの棒が青白く輝きだすのをただ美しいという思いのまま眺める。


その美しい軌跡を残したままクィっと軌道が変わる。最後に脇を締めて勢いをつけたのだろう。それは騎士のがら空きの横っ面に当たる。



ゴッ!!!

っという音とともにブチッ!!! という音がしたかと思った瞬間。



ガコッ!!!

っと闘技場と観客席を仕切る魔法の壁に何かが激突する。


何事かとそちらを見ようとした瞬間。皆が気づく。

剣を振り下ろした恰好のままの騎士に何かが足りない事を。


そして、その前にいたはずの少女の姿も消えている事に...


ボグッ!!!

壁を見ようとした瞬間に別の場所で新たに何かが陥没する音が響く。




一体何が起きているのか?



これは、一方的な蹂躙ではなかったのか?



そう、これは一方的な蹂躙だ。



ただひとつ違うのは、誰が誰をの誰の部分が逆であっただけ。



そこが違うだけの一方的な蹂躙が今始まったのだ。

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