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42:強食

死んでしまったぞ。

ああ、少し痛めつけ過ぎたか。

どうする?

必要な事は聞けた。いつものように処分すればいいだろう。

そうだな。

まて、その前に名前のわかった者達を連れてこよう。

なぜだ?

心を折るためにこいつを見せたほうがいいだろう。

必要か?

隷属させるのはトリン様が戻ってからでいいだろう。

ちょうど今講義室にいるらしい。

堂々と攫うのか?

何か問題があるか?

ないな。

行こう。

行こう。

行こう。

行こう。






ズヴァール邸:

所領を持つ貴族はその規模と家柄によって王都貴族街に相応の屋敷を持つ。

トリンがズヴァール邸の門をくぐると予想だにしなかった人物が出迎える。

「トリン! 久しいな」

「父上。なぜ王都に?」

「エリック殿の代役だ」

エリックの名を聞いたとたん思わず顔が歪む。そう歳も変わらないのに既に国軍を率いているあいつ。

クソッ! そこは本来俺がいる場所だったのだ。あいつの姉イレーヌと婚約しあいつの義兄となり全てを手に入れるはずだったのに。


「お前の学園で開催される武術大会だったか、あれにもわしが行くこととなった」

「武術大会ですか...」

たしか俺以外の参加者がいなく俺が不戦で優勝する大会だ。

「冒険者登録した学生達も参加するのだろう? お前が当然優勝するとしても冒険者どもにズヴァールの名を知らしめるいいチャンスとなるだろう。楽しみなことだ」

「はい...」

俺と俺の騎士達にかなう者などいないが、だからといって不戦勝というのは体裁が悪い...



「ああ、そういえば。今学園に来ている光魔法の冒険者はエリック殿のお気に入りらしいぞ」

「は?」

なんだと!

「まあ所詮は冒険者風情だからな光魔法が出来る女冒険者という事だし従軍用の妾にでもするつもりなのではないか。学園に教師としてきたのも箔をつけるためと言う話もあるしな」

エリックのお気に入り...ならば失踪した騎士が勝手に狩ったという事で無く護衛がついてるという事か。


エリックめ自分の手の届く学園に護衛付きで保護しているつもりらしいが、そこは俺の狩場だ。

エリックが遠征から帰ってきたら元ローラン学園教師という実績で王家に囲われてしまう可能性もある。狩るならば今しかない。


クックック。面白い!



「ん? なんじゃそれは...汚らしい」

父上が馬車の床に横たわるモノに気付く。

「ああ、何でもありません。捨てておけ」

御者に命じる。

「そういえばお前、色々とそろえているという事じゃないか」

「はい、お気に召したものがあれば...」

「おお、そうか!」

父上...エリックの代役というのは口実で王都に新しい玩具を仕入れに来たという事か。






捕らえておきました。

ご苦労。

どういたしましょう?

事情が変わった。こいつらは武術大会で賞品として使う事とする。

賞品、ですか?

ああ、俺の不戦勝では都合が悪いからな餌を垂らして獲物を誘い出す。

しかし...

問題ない。今回来る王族は父上だ。


ただ時間が無い、一人くらいならば壊しても良い。急いで隷属させろ。だが他は生娘のまま隷属させろ蘇生処理が必要な事態が発生するかもしれん教会への献上品として使う可能性がある。


わかりました。


やだやだやだやだやだ!

やめてやめてやめて!

いややいや!

私が! だから、ほかの子には手を出さないで下さい!


力無き者はただ(むさぼ)り食われる...






学長室:

武術大会の運営を担当するゴーンが学長に詰め寄る。

「ユートス学長。なんですかこれは!!!」


貴族限定となるが外部からの観戦者を受け入れる大会。観戦貴族やローラン学園を運営している国から賞金や賞品が提供されることがあるが、今回の主賓となるズヴァール家から光魔法スキル持ちの奴隷が優勝者と準優勝者へ譲渡されると発表された。


先日、光魔法の生徒が五名行方不明になったばかり。そのうち四人は光魔法に覚醒した生徒だ。


「最近頻繁に起きている生徒の失踪。ズヴァールの子息が関係しているのは明白ではないですか!」

失踪したとされる生徒がズヴァールの馬車で運ばれていたと言う目撃情報が複数件報告されている。しかも隷属の首輪をされた状態でだ。

あわせて素行の悪い男子生徒達が大量に消えている。

有能な生徒は奴隷として持ち帰り、無能な生徒は殺してどこかに処分しているというのが学園内の暗黙の見解だ。


「しかしな、王族のすることに口出しなぞ出来ん」

「王族といってもズヴァール家は!」

「ゴーン、それ以上の発言は看過出来んぞ?」

「グッ!」


ズヴァール家は正式には公爵(こうしゃく)だ。王族の血筋という点ではそうだが正当な王の血筋であるローラン家ではない。


「立ち消えてしまったがトリン殿はトリン・ローランとなる予定だった方だぞ」

イレーヌ姫との婚約が成っていればの話だ。だがこの話はイレーヌ姫がズヴァール家に嫁ぐという話もあった。その場合はトリンはズヴァールのままだったのだがなくなった話、詳しいことは誰も知らない。


「安心せい。死者が出た場合は教会が蘇生してくれるという話になっている」

「そういう問題では!」

「それより審判の件はどうなっているのだ?」

「…………」


ゴーンの出て行った扉を見つめ思考にふける。

冒険者リン。彼女は王家の関係者だ。今回の件にも関係しているのだろうか?

それとも何か別の思惑が...まあよい。不干渉を貫くだけだ。






トリン様。準優勝者への賞品はどれにしましょう?

優勝は俺だ。準優勝にはいらないもの...ああ、使い古しのそれでいいだろう。

おい、こいつの名はなんだ?


…………マウラ、です。






「どう思う?」

「どうもこうも無いだろーが、パパが見に来るのに見せ場が無いと困るからこんなことしたんだろ」

「けど、王家筋のトリンさんに勝ったら学園にいられなくなるのはわかりきってることでしょ」

国が運営する学園で王家の者に恥をかかせたらどうなるか?

「自分が負けるとか思ってねーんだろ。まあいつも一緒にいる騎士共も出るんなら実際勝てる奴はいないだろうがな」

「けど...」


何も無い空間から不意に声がかかる。

「おい、どうなってんだ?」

「オッ!?」

「何奴!」

「ヒャッ!」

「フジワラ、またストーカーか?」

武術大会の詳細資料を前に悩んでいたサンド達。


空いている椅子に座りフジワラが質問してくる。

「この賞品ってリンの生徒だろ。っていうかリンどこにいるんだよ?」

「それが、ここ数日講義も休講というか自習だし部屋にも戻ってないみたいなんだ」

「…………なんだよそれ」

「この賞品というのも、ここが問題だ」


賞品として載っている名前は光魔法の生徒の名前だが、バスが指し示す文字が、奴隷という文字が言い知れぬ不安を掻き立てる。


黙りこみジッと資料を読むフジワラ。

「…………おい。オメーら大会に出ろ」

「無理だ」

「何でよ?」

「主賓のズヴァール候の息子のトリンってやつが出てる。それにそいつの連れている騎士は強い」

「なんだよ、出来レースかよ」

「ああ」

「けど俺が出れば余裕で勝てるぜ?」

「フジワラそんなに強いの?」

魔人のじじーとテレスお姉様と楠木には勝てる気がしない。ネコは除外だ!

「世界で四番目くらいに強いぜ!!」

「一番じゃねーのかよ!!!」

「けど王族に喧嘩を売ったらこの国にいられないよ」

「じゃあ、どのみち誰も出ねーんじゃねーか」

「いや、準優勝でこのマウラという子が賞品として手に入るから降参前提で出場する人達がいると思う」


そいつって楠木と楽しそうに話してた女の子だよな。


今からトリンって奴等殺しちゃって...ダメか、隷属の解除方法がわからないし、下手したら殺した犯人として楠木が疑われる可能性が、いや今いないことを利用して楠木を犯人とする可能性もある。


ギルドの誰かに相談を...人を食った様な笑いのじじいの顔が浮かぶ。

じじいなら喜んで皆殺しにするんだろうな。

だが、今のギルドを統括しているのは違う奴だ。言ってもおそらく不干渉という事になるよな。テレスさんは楠木が行方不明と告げれば...管理迷宮の問題がある。何度か一緒に潜っているがテレスさんがいなくなると全てが崩壊する危うさがある。


楠木、何してんだよ...まさか何かヘマして...クソネコ...


クソ!!!


「お前等、取り合えず参加だけしてくれ」

「……」


「脅されたことにしてくれていい。後は俺が勝手にやる」

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