43:ラムダ
スキル判定の魔道具。
「マウラ。ここに手を置いて魔力を流してごらん」
「まりょく?」
「ええ、いつもみたいにギューってするのよ」
「わかった。ぎゅー!」
「おお! 光魔法スキルがあるぞ」
「まあ、ほんと凄いわ」
「すごいの?」
「ああ、ママと同じスキルがあるんだぞ」
「ママとおなじ! やったー!」
良い事があると必ず悪い事が起きる。
「……出来ない」
「気にするな。そのうち使えるようになるさ」
「そうよ、マウラはママの子なんだから」
「……うん」
ヒール! 発動できた。
「魔法が、発動出来た...」
やった! やった! やった!
「良かったね」
その人の微笑が母のそれと重なる。
「はい!」
憧れ。
母と同じ治療士になることが子供の頃の憧れ。
その夢を諦めきれず無理をいって学園に入学させてもらった。
何も変わらず。諦めかけていた。
それが...こんな簡単に...冒険者というのは学園にも何人かいる。ただガサツなだけの人達と思っていた。
あの人は冒険者として治療士をしたり迷宮へ潜って魔物を狩ったりしているという。
母と同じ治療士になる夢が実現出来るとわかったとたん。その先を望んでしまった。
私もあの人みたいになりたいと思ってしまう。
そんな夢を見てしまった...檻の中で目が覚める。
良い事があると必ず悪い事が起きる。
学園の正門を白いローブの女性が通り抜ける。
ローブを羽織っていてもわかるその見事なプロポーション。十代の若々しいそれとは違い学園では珍しい大人の女性の魅力に男子生徒だけでなく女子生徒も立ち止まって見惚れている。
その視線を気にした風も無い女性は近くにいる生徒へ近づき聞く。
「武術大会の審判として冒険者ギルドから来たのだけど。闘技場はどこかしら?」
光魔法の生徒達に取り囲まれる。
「ゴーン先生。私達も闘技場に入れてください!」
武術大会の観戦は事前に申請した者達しか入れない。
王族が観戦に来る場だ。生徒といえど事前審査が必要になる。
「君達は申請していないだろう」
今回の武術大会はローラン王家の観戦が見送られた事や不戦勝でズヴァール家のトリンが優勝するとわかっていたため観戦希望者はほとんどいなかった。
「それに君達は見ないほうがいい」
「何でですか! それじゃあマウラ達を返してください」
「無理をいうな」
「ゴーン先生は学園の生徒を賞品にされてもいいんですか!?」
「いい訳ないだろう...」
「それじゃあ!」
「無理だ。学園は何も出来ない...」
学長が不干渉を決め込んだ時点で学園としては動かない。学園が動かない以上一介の教師がどうこう出来るものではない。
「そんな...」
「...わかった。入場することは認める。だが見ているだけだぞ」
「…………」
黙り込む生徒達を見つめる。彼等も絶対的な力の前に自分達が何も出来無いことは理解している。
普段の学生服でなく迷宮へ潜る時の装備に身を包んだサンド達とフジワラ。
「結局、参加者はどれだけになったんだ?」
「六組だけど、多分戦闘は行われないんじゃないかな」
「どういうことだ?」
「僕達とトリン達が決勝で当たることがわかっているからね」
「そういう組み合わせなのか?」
「うん、トリン達の組にいる他の参加者は当然決勝に残れないから皆棄権するだろうし。僕達の組も皆棄権すると思うよ」
「もしかしてお前等強いの?」
「……まがりなりにも僕達は管理迷宮に潜っている現役冒険者だよ」
「今回はトリンが出るって事で俺達より強い自前の戦力をそろえられる貴族達は出場を辞退しているからな」
「ふーん」
王族ってすげーな、てか凄いのは知ってるけど。
バスが聞いてくる。
「で、どうするつもりなんだ?」
「ん?」
「国に喧嘩売るつもりなのかってことだよ」
「あー、んー」
「始める前にその辺ははっきりさせといてくれよ、戦うなら俺以外は抜けてもらうからよ」
「何言ってんのバス」
「オメーらは家があるだろ。ローランの貴族なんだから国に喧嘩売ったなんて知れたらそっちがただじゃすまねーだろ」
「拙者はローラン国とは関係ないでござるよ」
「ジュノはお尋ね者になったら困るだろ」
「正義のためなら構わないでござるよ」
「僕も家とはもう関係ないから」
「バーカ、関係ないで通るわけ無いだろ」
「でも!」
「あー、流石に国に喧嘩売るつもりは無いかなあと言ってみる」
なんか勝手に覚悟を決め始めてるので水を差しておく。
大体楠木の知り合いを巻き込むわけには行かないだろ。やるなら俺一人だわな。
色々と考えておかないとな。
目的は楠木の留守中に勝手に賞品とされてしまっている生徒を取り戻すこと。
一気に全部となると優勝しても準優勝してもダメ。となると力ずくでという事になり観戦に来ているズヴァールって奴等も相手にすることになり、それはつまり国に喧嘩を売るってことになる。それじゃ生徒を取り戻すどころの話ではなくなる。
1.トリンって奴を倒して優勝の賞品をもらい。準優勝の賞品の残り一人はあとから取り返す。
2.決勝で棄権して準優勝の賞品をもらい。優勝の賞品は後から取り返す。
3.やっぱり何もしない。
3は無しとして、一番穏便なのは2だな。優勝の賞品の方が人数が多いから助けるのに手間がかかるが2ならサンド達にも迷惑をかけないで済む。
まあ、それ以前にな。楠木の安否が最優先だな。
わざわざ居ないタイミングを突いたという事は奴等が何か関係している可能性がある。
大体、ギルドの依頼で教師をしに来たなんていうのはありえない。それはわかっている。俺から申し出たことだが、たかが教師の仕事で定期連絡なんて必要ない。管理迷宮がおかしな状態になっている今は楠木みたいな回復要員はギルドに居てくれたほうが助かるはず。
なにか別のそれこそおかしくなっている管理迷宮についての原因がここにあるとか...そうだなあ...
もし、
楠木が何か失敗してもうこの世にいないなら。
そんなことは無いと思うが、もし、そうだったなら。
どうでもいいかなあ。
穏便にとかどうでもいいよな。王族とか王宮の奴等とかには恨みしかないしな。
王族とかいうんだから強い護衛をいっぱい連れて来ているんだろうなあ。
強くなったけど数の前に圧倒されるのかね?
いや、乱戦になれば隠密と刀術でどうとでもなりそうだけど、やってみないとわからねーな。
「――ワラ!」
いやいや、楠木いないんならそんな事どうでもいいか。
「―ジワラ!」
全部壊して...
「フジワラ!」
「ん?」
「ん? じゃないよ!」
「なんだよ?」
「フジワラ氏、顔がコワいでござるよ」
ござるのやつめ、氏とかなんかオタクっぽいぞ!
「ん? へへ、わりーわりー。なんか変な思考に落ち込んでたわ」
「お前さ、今死んでもいいとか思ってただろ?」
バスが聞いてくる。お前紛らわしいから口調変えろよと心の中で突っ込みながら。
「全然」
シラを切る。
「…………まあいいけどよ。死んでもいいとか考えるのは愚考の極みだからな」
「バスに言う資格ないよね」とウィン。
「無いな」とサンド。
「でござるな」とジュノ。
「資格無いなら格好つけて言うなよ、恥かしいやつめ!」と俺。
「……なんだろう。俺、怒りで何かに変化しそうなんだが」
「お、スーパーバスになるのか? って魚の名前みたいだな!」
「お、お、お」
「お?」
変なノリになっている所をウィンが遮る。
「見て。主賓が来たみたいだよ」
白馬に乗った騎士を先頭に行列が学園の門をくぐる。
鑑定スキルは持ち合わせていないが、幾多の戦闘のおかげか見ただけで相手の強さのおおよそはわかる。
先頭の奴だけ頭ひとつどころが三つか四つくらい抜きん出ている。
「フジワラ、頭を下げて」
「え?」
「はやくはやく」
「お、おぉ」
頭を下げ行列が通り過ぎるのを待つ。
視線を感じる。さっきの奴か。
「おいバス。お前も気配察知持ってるんだろ」
「お前もって、フジワラも持ってるのかよマジかよ」
「気配察知で相手の強さとかわかったりするもんなのか?」
「レベルが上がれば大体の強さみたいなのは判るな」
「そういうことか、てか先頭のやつヤバくね?」
「…………お前、もしかして知らないのか?」
「え? もしかしてあいつって有名人?」
バスではなくサンドか答える。
「ラムダ様だよ」
「誰?」
「英雄ラムダ様を知らないのか?」
「英雄王?」
「違う。英雄」
「なんか前より強くなってるわね」
「そうなの? ってえええええ!!!」
「「「テレスさん!」」」
「テレス殿!」
「テレスオネイタマ!」
「死ぬ?」
「死にたく無いですテレス様!」
なんでテレスオネイタマが居るの? どうなってんの!?
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