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41:弱肉

豪奢(ごうしゃ)な馬車が停まっている。


輸送する貨物や人をいかに多く乗せるかを目的とした貨車ではなく。

快適に乗れることを目的に作られた、振動を吸収するバネや陽光を遮る屋根、そして景色を楽しめるように大きく設計された車窓。まるでそれ自体がひとつの芸術といっても過言ではない。美しく装飾されたそれらの中心に彫られた紋章はズヴァールの家紋(エンブレム)


大きく作られた窓から見える車内には、ズヴァール家の嫡男でありローラン学園の生徒でもあるトリン・ズヴァールと女生徒が一人。


その女生徒、王子様のお眼鏡に適った幸運な...という思いはその姿を見れば勘違いだと気付くだろう。

無造作に撫で付けられただけの手入れのされていない髪や乱れた衣服。それに露出している肌をよく見れば至る所に(あざ)ができている。

赤く腫らした瞳は硬く握った己の手を見ているだけだが、隣にいるトリンはもちろん周りにいる騎士達の一挙手一投足にビクリと体を震わせている。


それより何よりも決定的なモノがその女生徒の首に付けられている。

家畜やペットに付けるそれは主従の関係を表すモノだ。


「トリン様、お戻りは...」

「こいつを俺の屋敷に置きに行くだけだ。夜には戻る」


トリンは将来有望な生徒との友好な関係を構築するという、貴族の子息がこの学園に来る最重要の目的を遂行している。

ただ支配する側として生きてきた彼にとって友好とは相手の絶対的な服従を意味し服従者の意思は考慮しない。


「目ぼしいものはもう狩り尽くしたか?」


狩の対象は無所属の生徒。


傍若無人に振舞っていたとしても支配者として権力の構造は理解している。

トリンがいる支配体系の外、教会関係者、冒険者ギルド所属者には基本手は出さない。

貴族関係者はズヴァールと友好的なものは除外し下級貴族の中でも有望な者のみに絞っている。


いや、そもそも大前提として女性のみという条件がついているし、それよりも狩りと称している時点で友好な関係云々がただの口実であり、学園を狩場として若く美しい獲物を狩る事を楽しんでいるだけなのかもしれない。


「新しいところでは光魔法に覚醒した無所属の生徒が何名かいるようです」

「光魔法か...」

少し前の狩りを思い出す。少し過剰に傷めつけても自分で治せるというのは面白いものであった。そういえば...

「新しい教師というのはどうなったのだ?」

冒険者という事であったが、とても美しいと言う話だ。ギルド内での重要度が低いようならば無理矢理にでもという話であったはず。

「ランクはDという事なのですが、調べるために派遣した者が戻ってきません。護衛がついている可能性があると判断しました」

ランクDなどという下っ端の冒険者に護衛がつく?

「どういうことだ、俺と同じなのか?」

貴族が遊びで冒険者になるという事もあると聞く。

「いえ、関係者ならばDランクになった時点で家が後見人となりCランクに昇格しているはずです」

「ならばギルドが個人に護衛をつけているという事か...本人に手を出そうとしてやられたという可能性もあるか...」

「所持スキルは光魔法と水魔法のみという事ですのでそれはないかと」

その程度の者に負けるような者が騎士になれるはずが無いと絶対の自信を持って断言する。


騎士が言いよどみながら話す。

「それにどうやらその女教師も失踪したという話も出ています」

「...どういうことだ」

主人を差し置いて狩りをしたのか? 怒気を含んだ声音に身を竦める騎士達。





トリン様と護衛についた仲間を見送り話し出す。

「どうする?」

「どうするも無いだろう。取り合えず夜までに光魔法の生徒を何人か連れてこよう」

「そうだな、その覚醒したというやつ等でいいか」

「男だったらどうする?」

「その場で知ってることを全て吐いてもらうだけだな」

「女だったらどうする、当然連れて帰るよな?」

「おい、楽しむにしてもトリン様の後だぞ」



「なあ、拉致して逃げたと思うか?」

当然、いなくなった同僚の件だ。

「なくはないな...」

その女教師は光魔法スキル4という事だ。それだけでどこに行っても金に困る事はない。

ただでさえ並の冒険者など相手にならない我々騎士だ。回復が出来る光魔法の使い手がいれば無敵といってもいい。

「そういえばあいつ隷属の首輪を持ってたよな」

「ああ、それをいったらお前も持っているだろう」

ズヴァール家が独自に開発した隷属の首輪。効力は低いが正式な儀式がいらないため使い方と魔力のあるものなら誰でも契約が可能だ。

「トリン様の後はいつもボロボロだからな」

「そうだなあ...わからなくも無いな」





走る馬車の中、怒りが収まらない。

隣を見る。俺の視線を感じたのがそいつは体を強張らせる。

その態度に怒りが増す。髪をつかみ顔をこちらへ向かせる。

「ヒッ! イヤッ!」

殴る。

殴る。

殴る。

抵抗しないそれを殴ることに飽き床に転がし命令する...






その日、光魔法の生徒数人が消える。

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