40:それぞれの
噂というものは止まることを知らない。
光魔法の教師がまた失踪した。
関係者には数日留守にすると連絡が行っているのだが傍から見ればそうもいかない。一日二日ならば気にも留めないがそれ以上となると噂として話があがる。
噂の信憑性を上げた要因は前任の光魔法教師が失踪した事。
それだけならば問題なかったのだが、数日前に攻撃魔法担当の教師も失踪したのだ。そしてその失踪に光魔法の教師が係わっていたと言う話もあり噂が噂を呼び攻撃魔法の教師と駆け落ちしただの攻撃魔法の実験台にされ消し炭になっただのその美しさから貴族の子息に拉致されただのとありとあらゆる噂が吹き荒れる。
「だから、リン先生はしばらくしたら戻ってくると言っています。これを見て下さい」
激昂した生徒が差し出した紙にはしばらく留守にする事とその間の自習の仕方が書かれていた。
「しかしな、それが本人が出したものとも限らんし。誘拐したものが時間稼ぎに書いたものかもしれないんだぞ」
「この自習の内容はリン先生しか書けない内容です!」
「わかったわかった。しかし困ったな、彼女ほどの実力の冒険者には今度の武術大会の審判を頼みたかったのだが」
冷やかしに来たのではないとわかり興奮状態から醒めたのか生徒が質問してくる。
「審判ですか?」
「ああ、今回はちょっとな」
激昂していた生徒は光魔法のマウラ。そして相手は武術教師のゴーン。
光魔法の授業は今学園内でちょっとした話題になっている。先任の教師の授業で光魔法に覚醒した生徒が一人、そして現任の教師になって既に四人光魔法に覚醒している。いくら素質がある生徒が集まっているからといってこの覚醒率は驚異的な数値だ。
そして問題は、今現在無所属の光魔法持ちが四人存在すると言う事実。既に貴族縁の者以外の生徒に対してスカウトという名の争奪戦が始まっている。
また驚異的な実績を出す女教師に対して教師の間では二種類の評価に分かれている。
流石、実力主義の冒険者という評価。これは主に彼女の実力や人となりを知る教師の間で囁かれ。
流石、野蛮な冒険者、性に対しても奔放だと罵る者。これは口さがない噂を信じるというより冒険者がこれ以上神聖なこの学園に干渉することを嫌う保守的な者達の間で囁かれている。しかしこちらの勢力は急先鋒であったある男性教師が失踪した事で自然消滅しつつある。
その男性教師は複数人の生徒や部外者の死体を学園内に存在する教会に届けた後に失踪したと言われている。何があったのか語る者はいないが何が起きたかは想像に難くない。実力行使をし逆に彼女か彼女の仲間に排除された。
冒険者に対しては不可侵。
彼等が相手にしているモノを理解していれば当然のことだ。
年に二回行われる武術大会。
実戦を想定したパーティーでの戦闘が行われる。
参加資格は学園の生徒であること。これだけならば問題は無いのだがパーティーメンバーに関しては制限が無い。
貴族の子息が参加登録をし、残りのメンバーは精鋭騎士を揃えるという事が可能だ。これに関しては貴族の権力の行使として是とされ公に異議を唱える者はいない。
その者個人の戦闘力ではなく。その家が所有する戦闘力を統べるつまり統率力を発揮するという建前だ。
貴族が上に立たない大会などありえない。貴族を押しのけて平民が勝つなど社会の秩序が許さないのだ。
ある豪商の子息が金に物を言わせて腕利きの冒険者で固めたパーティーというのもあったが、対戦相手に腕利きどころか市民街のギルド長が参戦した事でそれ以降冒険者を雇うという行為はタブーになっている。
そして、必ず王族が観戦に来る。
貴族の子息が猛威を振るうことになるが、王族が見ている前で無為な殺戮など行えないという制約があり。平民も王族の目に留まるチャンスと勝てないながらも全力で立ち向かう。
平民で実力と実績のある既に冒険者登録済みの生徒はほとんど参加しない。貴族や王族に自分たちを売り込みたい者が参加する程度。半分が儀式的な大会。
しかし、微妙なバランスの上に成り立っている大会。
今回は問題が山積している。
エリック王子が観戦に来るはずだったが急な遠征のため別の者が来ることとなった。噂ではズヴァール家縁の者が観戦に来るといわれている。
市民街のギルド長がいなくなった為抑止力が無くなった。これは金に目が眩んだ腕利きの冒険者が参加する可能性があるという事。
市民街ギルド長のギルバートがいなくなった時点で武術大会のルールの変更も検討されたが、中立な立場であるエリック王子が観戦に来る事になっていたことと冒険者ギルドに依頼を出し、ベテラン冒険者が審判兼立会人として数人派遣される事になっていたため今回に限りルール変更無しで行うこととなっていたのだ。
本来ならば審判兼立会人などという楽で報酬も良い依頼は引く手数多だが、今は少し危険だが大量の経験値と希少な素材という財宝が手に入る案件が転がっているという話がある。はたして幾人のベテラン冒険者がこちらの依頼を受けてくれるものか。
幸いといってはなんだが、トリン・ズヴァールの傍若無人振りは皆の知るところだ。今までも武術実習で何人も死人を出している。最近は彼が出る実習に参加する者がいないほどだ。
武術大会も彼だけのエントリーなら平和に終るのだが...
アフターバーナー家:
扉が開き館の主人が入ってくる。
「お父様」
「リタ。一体何が起きたのだ? 王族に無礼を働いたと知らせが届いている」
「え、何の事かしら...」
考え込む。
「たしか学園にはズヴァール家のトリン殿が在籍しているはずだ。今回の死亡の原因は何か失態を犯しての事か?」
今朝教会で蘇生されローラン王都にあるアフターバーナー邸に戻ってきた娘の顔がみるみる紅潮する。
「違います! これは卑怯で汚らしい冒険者にされた事です。トリン様には何も失礼なことは働いていない...と...もしかしたら殺された間に何かあったのかもしれませんけど...」
蘇生の影響で記憶が曖昧なのか...執事を見る。
「知らせはどこから届いたのだ?」
「はい、お嬢様を教会へ届けた者がその様な事を口にしていたと」
「その者は?」
「届けた後、消えてしまったらしく詳しい事は...」
王族に礼を失したとなればただでは済まない。
「他に学園関係者で縁の者は...近く武術大会でエリック様がご来場になるのではなかったか? その視察に来ていたという可能性は」
「エリック様は先頃急な遠征で王都を出られています。その可能性は無いかと。代理をズヴァール公爵がお勤めになると言う話がありますが」
「お父様、もしかしたらわたし達の、その、死んでいる所を見てしまいご気分を害されたの、かも」
どうやら致命的な失態を犯したという事ではないようだが。対応を誤れば家の存続にかかわる事態になる可能性もある。
「急ぎ詳しい事を調べよ」
「はっ!」
「些細な事だとしても直接お会いして謝罪と何か献上品を...」
「お父様、良い物が有りますわ」
娘が興奮した顔である冒険者の話しをする。そういえば、冒険者風情に娘を殺されたのだったな。
許されるべきことではないな。
「―――卑怯にも―――蘇生ができるくせに―――」
「ほう。蘇生ができるという事は光魔法レベル4ということか」
冒険者ギルドは今色々な問題を抱えている。冒険者を一人殺す事くらい問題ないと考えていたが。
「アフターバーナーに牙をむいたこと後悔させてやろう」
「お父様! じゃ、じゃあ」
「奴隷に落とし献上品として役に立ってもらう」
「え、でも、それでは...」
「安心しろ。一度殺し奴隷にするため持ち帰る。その役目はお前に」
「まあ、素敵!」
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