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37:大図書館4

整然と並んだ書架の中しばらく進むと袋小路に行き当たる。見た目より奥に進んだこの場所がこの図書館の終端だ。図書館を管理する司書が閉館前に残っている者がいないかの見回りを終え帰路につく。


学園にあるこの図書館は入館時に身分の確認を行うが退館時の確認は行わない。

司書は入館したが退館していない者がたまにいることを認識しているが閉館時の見回りで残っている者がいないことが確認できた時点で良しとする。それはこの図書館の創設以来の暗黙のルール。


その少女は無秩序に並ぶ書架の列の中、床にぺたんと座り本を読んでいる。


ここはこの図書館に存在し存在しない場所。

整然と並んだ書架の中をある順序で進むと辿り着く場所のさらに奥。

ここにある本は形こそ本という体裁を取っているが、その中身は知識の羅列、それはまるで人の持つ知識をそのまま本という入れ物に納めたかのような...



気配が近づいてくる。

恐ろしく速いスピードで迫るそれは確実にこちらへ向かってきて...


「にゃ...」


何か叫んでいる。

視界の端に映ったそのネコは、両の前足をバッと開いた状態で嬉しそうにその小さな口をいっぱいに開けて頭からこちらに突っ込んでくる。


このままだと顔面に直撃する。


……痛そうだ。


ローブのフードの端をツイッと摘み上げ顔はスッと直撃の軌道から避ける。

「にゃんぱす――バフンッ!」

猫魔界の挨拶と言う意味不明な言葉を発しながらフードに突っ込むクロ君。


ゴロゴロとフードの中で私の髪とひとしきり遊び回った後にスルスルと肩に登ったかと思うとトンッと開いた本の上に飛び降りて座り込む。


こっちを見上げる眼は遊んで遊んでと訴えかけている。まるでネコみたいだ。

「クロ邪魔」

本を斜めにして落とそうとすると、ガシッと爪を立てその場に留まろうとする。

「ちょっとー、本に傷つけないでよー」

落とすのを諦め右手をお腹に潜り込ませそのまま持ち上げると本に立てていた爪を引っ込め素直に持ち上げられる。


私の横に降ろして手を離そうとしたところガシッと四肢で捕まえられてしまう。本には爪を立ててたけど私を捕まえる時には爪は立てないその優しさにちょっと嬉しくなり右手の奪還を諦める。


…………そのまま本を読み進める。

ここは、大図書館の迷宮の最深部近く。

置いてある本も本と言う体裁を取っているがこの迷宮に吸収された人達の知識が形になったものがほとんどだ。


つまりここまで辿り着いた人の知識も本となって残っている。

逆にいえばこの奥に辿り着けなかった人の知識しか残っていないという事でもある。


しかし、試行錯誤の結果は残っているのだ。

奥に進む方法は、私の式と私を襲おうとした人達によって今も検証されつつある。


魔物は存在しないが、一方通行の通路や死に至る罠も存在した。

式では反応しない仕掛けもあったので私を襲おうとした人達の存在は有意義だった。どうせこの迷宮に吸収させるつもりだったので丁度いいし一石二鳥というやつだ。


…………パタン。

本を閉じる。ここまで辿り着いた人達の知識は色々とためになるものが多い。


管理迷宮の異変については目処が付いた。

迷宮を鑑定した時に出た狂乱(きょうらん)。特殊なスキルが誕生する時に迷宮自体に異変が起きるという事だ。

迷宮自体が生成したのか狂乱のスキル持ちが吸収されたかは不明だけどスキルの巻物がどこかの魔物のドロップ品として確定されれば落ち着くらしい。

もし落ち着かなかった場合は、ある対処が必要になるけどそれはまた後に考えればいいだろう。取り合えず今は様子見かな。


「ところでクロ」

「あむあむあむ、む?」

「あんな急いで何かあったの?」

「む、忘れてたのだ。最深部の逝き方がわかったのだ!」

「へ?」

「ほ?」

クロの両足を持って持ち上げる。

「ほ、じゃないでしょー。それに行き方でしょー」

両足を前後左右に動かす。

「やーめーるーのーだー!」

宙ぶらりんの両脚としっぽをばたばたさせて嬉しそうにクロがあばれている。




最深部:

「あっさり来れたね」

「魔物がいないからつまらないのだ!」

そういえば、私も本を読んでただけだなぁ。


もう十分過ぎるほどの知識も得ている。

最深部に近づくほど本に記された知識が深くなっていった。以外だったのが人族以外の者も結構混じっていた事だ。特に魔人族の知識もあるというのはこの迷宮はそれほど危険という事なのだろうか。魔人などは寿命が無いという事だけど一方通行に迷い込み寿命で死んだというのでないなら何の原因で死んだのか...そもそもここの本になっている知識はこの迷宮で死んだ者の知識なのか...なにか違和感がある。



目の前には古い、今にも崩れ落ちそうな本棚がひとつ。


そして隙間無く並ぶ本。



魔眼で()なくても判る。

並んでいる本の中でも異彩を放つそれ。


ファウストの書。

ゲオルクと呼ばれるその人は戯曲で悪魔を召喚したとされる人物。どういう冗談かそれがこの世界で召喚魔法陣の開発者とか、想像上の人物だ。本人ではないだろう。つまり洒落たわけだ。

しかし、偽名でその名を名乗るという事は...


「うーん...」

「んー?」

「うぅーん...」

「んんー?」

「読むべきが読まざるべきか...」

「罠か!」

「んー...難しいなぁ」

「燃やすか?」

「燃やしませーん」


取り合えず。周りの本から読むことにする。



興味深い。


流石に最深部の本だけある。


没頭し読み進む。


凄い! 違う!


ここには、全てが記されている。


そう、それはまるでその人の人生を覗き込むような。


おかしい。これは、この本は...


神にでもなったような、それを天から見下ろすかのような。


知識が流れ込んでくる。己の意識と本の知識が混じりあう。


素晴しい! 不味い! これはファウストの書だ。


もっと読みたい。ヤバイ取り込まれる!




かぷ!




ふと天を...見下ろす。


「じーっ!」

そこには、本に爪を立て、私の指を甘噛みしながらこちらを見上げる。


私の分身。


「はは、は」

迂闊だった。思わず渇いた笑いが漏れる。

これは確かに魔人でも無理だ。いや、そもそも一人で来た時点でこの罠を回避できるものはいないだろう。


偶然なのか解ってたのかまだじーっとこちらを見つめてる可愛い私の分身をひと撫でし。


帰還のお礼に猫魔界の挨拶をする。

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