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29:ゆずれないもの

戦闘における王道とは何か?


剣術スキル、弓術スキル、槍術スキル。

色々存在するが剣も弓も槍もスキルがなくても武器さえあれば使用できる。

格闘術にいたっては武器がなくてもいいのだから話にならない。


そう、戦闘における真の攻撃スキルは魔法。

魔法はスキルがなくては絶対に使用できない攻撃手段、しかもその威力は使う本人の知能によって差が出る。


ならば、火、水、風、土の中で何が優れているのか?


水?

水の刃(ウォーターカッター)という攻撃手段は耐久力の高いナイトや重戦士にかかればただの水しぶきでしかない。


風?

風の刃(ウィンドカッター)は、見えない刃で敵を斬り裂く卑怯な技だ。


土?

土の礫(ストーンバレッド)は、戦士が石を投げるのとそう変わらない。


火。

敵を燃やす火の矢(ファイアーアロー)

全てを燃やす火の玉(ファイアーボール)

轟く爆音。

最強の攻撃魔法。



わたくしの名前は、リタ・アフターバーナー。由緒あるアフターバーナーの名を告ぐ者よ!



今日も燃やしまくりましたわ。気分爽快ですわ!

王道を行くわたくしは常に道の真ん中を歩くのよ!

わたくしの行く手を阻めるのはトリン様だけね!

貴族は格を尊重するの、ズヴァール家は王家との血縁筋。今この学園内ではもっとも高貴な家柄ね、もし見初められればアフターバーナー家も王家の仲間入りよ!




あら、向こうから来るのは...




今日はヒール単体しか使えない生徒のうち一人のMPが増加しヒールを出来る回数が増えた。

「リン先生、今日は三階に行きませんか?」

「あら、でもそこってお高いんでしょう?」

「リン先生とクロちゃんの分は私が出します。お礼です」

「えー、ヒールの使用回数が増えたのは私のおかげじゃなくて貴女の努力の成果なんだから...」


「邪魔よ! どきなさい」

いきなり怒鳴られる。ちょっとビックリ。


廊下のど真ん中を堂々と歩いてきていたから少し端に避けてすれ違おうとしたのだけど取り巻きの人達に道を塞がれて怒鳴られた。


「攻撃魔法も使えない役立たずがわたくしの道の前に立つなんて十年早いですわ」

いきなり喧嘩腰だ。なんか偉そうに言っているけど光魔法にも攻撃呪文はあるんだけどね。


「どうもすみません。みんな端に並んで、失礼しました。どうぞどうぞ」

光の矢(ホーリー)とか知らないんですか? 無知ですねーとかは言わない。物事は穏便に済ますのが大人の対応です。


「フン! あなたね実力もないくせに色仕掛けで先生になったっていう(けが)らわしい冒険者は」

うわ、公衆の面前で何の根拠もないことを平気で言うなぁ。

「はあ、すみません。ギルドのコネで少しの間だけ先生をやらせていただいています」


「フン! 認めるのね。何人の男性と寝たら先生になれるのか教えてくださいまし」

「えーと、すみません。今後気をつけます」

「汚らしい! この売女(ばいた)!」

(リン、殺っていいか?)

(ダメです)

「リン先生は「あ、そこ黙っててね」」


色々と言われたけど、取り合えず頭を下げて謝っておく。




このようなことが何度か続いた...



学食の建物で待ち伏せしているようなので、昼食は寮のカフェにしたりなるべく会わないように勤める。



それでも会うと出てくる暴言がなかなかのレベルに達してきて、周りの人が眉をひそめるほどになってくる。



このまま生徒達の心が離れていったら丁度いいかなあ、とか思う。

一応講義で成果も出しているし、やる内容は決まっているから私がいなくても淡々とヒールの素振りをしてくれると楽なんだけどな。

そうすればお昼を付き合ったりしなくて済むから大図書館探索がはかどるんだけどなぁ。


「リン先生! 何で言われるがままなんですか!?」

「そうです! リン先生が実力で学園に入ったのは私たち全員がわかっています。短期間でこんなに成果が出る授業なんて今までありませんでした」

「大体、光魔法にはターンアンデッドやホーリー、それにホーリーレインという攻撃魔法があるのにそんなことも知らないバカの言うことなんて説得力がありません!」

こらこら、バカはダメだよ。あの何とかさんの耳に入ったら危険だって。


「えーと、別に何かされたわけじゃないし。貴族の人と事を構えるのは面倒だしなるべく会わないようにすれば済む事だからさ」

「リン先生、冒険者ギルドは貴族や国から独立している組織ですよね?」

「ん、そうだけど。だからってそうほいほいと諍いとか起こしてたら組織として上手く回らなくなるからね」

「納得できません!」

「えー、皆は学園でもっと理不尽なこととか見てるでしょ?」

「…………」

「…………」

「…………」


凄いリン先生とか、先生が一緒なら大丈夫とか思われても困る。

私は貴女達の問題に首を突っ込むつもりはないのだから。


凄いリン先生が助けてくれるとか思われるのは正直迷惑だ。





学園正門前:

なんか凄い久しぶりな気がする。

「ごきげんよう」

ローブの端をちょこんと摘みお嬢様風に挨拶する。

「お、おぅ、ごきげんよう」

目を逸らしながらごきげんようを返してくる藤原君。


「なんか久しぶりだね」

「だな」

「何で小僧が来るのだ? いつものベテラン冒険者はどうした」

「なんか急に腹が痛くなったっていってたぜ?」

「リン、闇魔法を悪用している冒険者がいると報告しないとなのだ!」

「クロのこと?」

「違うのだー!」


「はい、報告書です」

ギルドへの定期報告書を藤原君に渡す。

「おう、確かに預ったぜ。で、どんな感じなんだ?」

「ん?」

「学園生活ってやつ?」

「あー、んー、一部の人達からビッチ先生とか言われてる」

「はっ?」

「いやー、まいっちゃうよね」

閉鎖空間での噂の怖さというのをちょっと甘く見ていた。


「クソネコお前何してるの?」

「あ゛?」

「黙って見てただけか? アホネコ」

「噂だからしょうがないよ、まあ丁度いいしさ」

「よくねえだろ!」

「よくないのだ!」


「リンは甘すぎるのだ!」

「でも実害ないし」

「噂を信じたやつにつけられてるじゃないか!」

「別に掴まらないからいいじゃん」

「そいつを殺そうとしたのもなぜとめたのだ!」

「えー、噂に踊らされただけで夜中に忍び込んでくる人達とは別ものじゃん」

「夜中に忍び込んでくるってなんだよ?」

「秘密?」

「クソネコどうなってんだよ!?」

「うるさいのだ!」




「リン...我が許せないのだ」

ごめんね、クロを撫でる。でもこの程度は許容範囲なんだ。


「楠木、それってこれに書いてあるのか?」

藤原君が報告書を掲げる。

「書いてないよ」

「なんで!!!」

「噂になってるといってもまだ一部だけだし、さすがに報告は出来ないよ」


噂は女子と一部の貴族の間だけ。実際、ビッチ先生といってるのは絡んで来た彼女と取り巻きの人達だけ。

さすがにサンド君達にまで伝わるようなら対策をとるつもりだ。犯人探しとかされても困る。


報告してウィリアムさんに動かれても困る。私の後見人はローラン国なのだから私に言った事はローランの王族に言ったと同じとみなされる。下手をしなくても何人か死ぬだろうし家を取り潰しにされるところも出るだろう。


心配なのは生徒達、離れていくかと思ったら逆にガードするような様相を呈してきた。私に守ってもらうじゃなくて私を守ろうとするとか正直困る。見てみぬ振りとか出気無いじゃん、変なところで諍いが起きなければいいのだけど...



「あー、ころしてー」



「おっとぉ、藤原君いきなりどうしたのさ」

「俺なら殺してる」

藤原君が暗い目でこちらを見る。


あぁ、絶対勢力からのいわれのないイジメね。

「別にイジメとかだと感じてないからさ、それに私にだって譲れない所っていうのもあるし」

「我から見たら全部譲ってるようにしか見えないのだ!」

ぐりぐりと頭を押し付けてくる譲れないものを優しく撫でる。藤原君がいつもの目つきでこちらを見ている。


「あー、クソネコ殺してー」

「あ゛?」

「あ゛?」

「殺ってみろやワレー!」

「上等だー表に出ろやー!」

「ここが表じゃーアホめー!」

「ネコ鍋にしちゃうぞー!」

懐かしい掛け合いに思わず微笑む。























ある日。


ある者が、越えてはいけない一線を越えてしまう。


そう、ある者はただの戯れで言ったのだろう。


何をやってもただ笑っているだけだったその者に対し少しでも嫌がらせをしてやろうと思い放った一言。


「その汚らしい獣を...」


その者はいつもと同じ様に、しかし初めて見る笑顔で言った。


「はい、それアウトー」


ある者達は、その瞬間、その者にとって敵と認識された。

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