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30:ゆずれないもの2

隠密を発動し彼女達の横を通り過ぎる。


最近どうも待ち伏せされていることが多くなってきた。人数も増えてきている。

取り巻きだけでなく男子生徒や男性の使用人、この場合はメイドじゃなくて執事? いや従者とでも言うのか帯剣している者もいる。

男子生徒の全てに私の式が取り憑いている。つまり、そういうことか。


見回すが、見える範囲にはメイドは見当たらない。

(どうしたのだ? リン)

(ん、男子生徒全員に式が憑いてるから、どうやら今回のこれもそっち関係の企(たくら)みみたい)


気配察知とかがあれば、特定の人物の気配を探し出せたりするのだろうか?



「来ませんわね...」

「逃げたんですよ、プライドの欠片も持ち合わせていない冒険者ですから」

「逃げ出す卑怯者が先生などと片腹痛いですわね」


こんな大人数で待ち伏せしている人達に言われたくないなぁ...


「どうなってますの? 来ませんわよ」

取り巻きの一人を問いただす。あっ! メイドだメイド服着てないけどあのメイドだ。メイド服で探したんじゃ見つからないわけだ。

「すみません、いつもはここを通るのですが...」


「最近逃げられてばかりね、それにしても、ご自分の生徒を痛めつけられても逃げ出すだけなんて、ほんとに恥知らずな女ね」

「男に媚を売ることしか考えていないビッチだからな、ヒヒヒ」

「いいですわ、今度は逃げ出せない場所で裁いてあげますわ」

「逃げ出せない場所って、寮の個室か?」

「違いますわ! もっと意地汚い冒険者風情にふさわしい場所で断罪してさしあげますわ!」


色々と暴走しているなぁ...


(クロさん)

(なにかしらリンさん)

(わたくしの生徒さん達、痛めつけられているみたいですわ)

(そうみたいですわね)

一緒にいると私の事を守ろうとする為、なるべく一人で行動するようにしていたのだけれど、私のいない所で揉め事が起きていたらしい。

(困りましたわ)

(そうですわね、ヒールだけでは治せない傷でもつけられたらたまりませんわね)

(そうですわねぇ...)

と、傷つけそうな輩(やから)をみる。


取り巻きと従者を引き連れて帰っていく彼女達。


男子生徒達がメイドに詰め寄っている。

「おい! 約束が違うぞ」

「すみません、本人が来ないとは想定していませんでした。今夜睡眠薬で眠らせておきますので、こちらの鍵でご自由にしてもらってかまいません」

「おお! いいのか?」

「はい、問題はフラワーネット家が揉み消しますので何をしてもかまいません」

「ヒィ、ヒヒヒ!」

笑いとも叫びとも取れない声を上げ、鍵を受け取る生徒。

「もし、屈服せずに歯向かうようでしたら。マリー様の許可を取ってあると教えてあげてください」

「わ、わかっ...」


何か、弓の弦を爪弾いたような音がしたような...


「…………?」

気が違ったような目つきを見ないようにしていたが、急に喋るのをやめた生徒達を不審に思い視線を戻す。


ああ!

そういうことか、皆、首から上がなくなっている。


静かになるわけだ...え?


「そこがさー、ちょっと不思議だったんだよね」

思い出したかのように首の無い生徒が喋りだす。

「ヒッ!」思わず喉が鳴る。

「マリー・フラワーネットを殺すように仕向けているよね?」

首の無い生徒がこちらへ迫る。

「ヒィ!」

その体を横に払う。


ドゥと倒れる体のあった場所に純白と漆黒の人がいた。


「カラクリを全部知っていそうだし、頭の中全部覗かせてもらうね?」

闇色の瞳と翡翠色の瞳がこちらを見つめていた。


きびすを返し逃げ出す。

「おぉ、凄い。命令だけは伝わったんだね」

「うむ、斬られたのを認識させないとはなかなかやるな!」

横を見るとネコが喋っている。


え?


「ほら、見て。駆け出すところまで動いたよ」


クルリと後ろに首が向く。

見覚えのある体が地面に倒れるところだった。

生まれて初めて上から見下ろす以外の視点で見る自分の体。


その光景が男子生徒に何が起きたのか、そして自分に何が起きたのかを認識させ意識が現実とシンクロする。


キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

しかし今の状態で叫び声を発することなど出来ない。その頭には声帯が無いし、なにより吐き出す空気をためる肺が無い......


丁度倍の数になった物をアイテムボックスにしまう。

「ところでさ、意地汚い冒険者風情にふさわしい場所ってどこだろ?」

「さあ?」

「ところでさ、意地汚い冒険者風情ってなんかおかしくない?」

「そうか?」

「そうだよー」

とことことこと歩み去る少女。


そして少女が歩き去った後には、土魔法で無理やり土を混ぜ返したかのような少しだけ不自然な地面があるだけ。










学園ではたまに人が死ぬ。


蘇生という魔法があり死が絶対の終りでないという傲慢が戯れで人を殺す理由になる。


しかし、蘇生魔法の行使には莫大な金額がかかる。


払える者にとっては払えない相手を殺しその支払いを肩代わりする事で、死という絶対的な屈辱とその後の人生を束縛するという最高の遊びが成り立ち。払えない者には死という終焉さえも否定される永遠の苦しみが待っている。


結局のところ力というものはあるところに集中するのだ。




光魔法の講義:


いつもの光景。

皆それぞれ真剣にヒールを発動しようと必死だ。

「リン先生、やっぱりヒール単体でもあったほうがいいんでしょうか?」

ヒール単体持ちの二人は、実際ヒールを毎日使うことで使用回数が着実に増えていっている。

「まあねえ、呼び水という意味合いでも光魔法自体を使っているのは大きいよね。それに光魔法に覚醒しなくても治療士として十分裕福な生活が送れるからね」


「ねえねえ、それってどこで手に入れたの?」

「え、知らないわ。お父様からのプレゼントだから」

「私も手に入れた経緯自体教えてくれなかったわ」

価値は金貨一万枚と以前私が話しているので、入手手段を持っている二人に聞いたらしい。と言うか、買えるの?


「リン先生は知ってます?」

「ん、競売かな。けどそんなに出品されるものじゃないから入手は難しいかもね」

「そうなんですか...」

「そりゃあね、元からMPが多い人とかなら光魔法は無くてもヒールだけは欲しいとか、ローラン周辺だとゴブリンの迷宮の最下層でレアボスからドロップするんだけど出ても競売に出さないで自分で使用する人とかも多いらしいし」

「それってもしかして凄い貴重なものなんじゃ...」

「うん、お二人の親御さんも手に入れるのに凄い苦労したと思うよ」

「そうなんだ、知らなかった...」

「ちゃんとお礼言わないと」


わぁ! と歓声が上がる。


「リン先生! これ!」

生徒の一人が植木鉢を持ってこちらに駆けて来る。

「どうしたの?」

「成長しました!」

「ん、じゃあもう一度やってみて」

騒ぎを聞き生徒が集まってくる。

「え? もしかして?」

「光魔法に覚醒したの?」

「ほんと?」


しーっ! と静かにするようジェスチャーをする。

「いきます! ヒール!」


…………ポゥ!

杖から弱いけど暖かな光が放たれる。


「うん。いいね」

まだ弱いけど、これは確かに光魔法だ。


「スキルは増えてる?」

生徒に聞く。

「いえ、増えてません」

残念そうに言う生徒。

「そっか、けどそれ、まだ弱いけど確実にヒールだから」

「ほ、本当ですか!!!」

「うん。多分そのまま続けていてば...まさかの光魔法覚醒第一号になるかも」


!!!!!!!!

「凄い!」

「凄い凄い凄い!!!」

「本当に光魔法が使えるようになるなんて!!!」

皆が口々に驚きと喜びと祝福の言葉を...



ダンッ!!!

大きな音を立てて扉が開く。


見知った集団が講義室へと入ってくる。

「役立たずの集団がずいぶんと騒がしいですわね」

開口一番ずいぶんな暴言を吐く、ベタ・アフタースクールだったっけ?


と、集団から立派なローブを着た男性が出てくる。

「突然すみませんね、リン先生。うちの生徒が無駄に在籍だけしている役立たずな者達に魔法の使い方の稽古をつけてあげたいと言うもので」

ああ、たしか攻撃魔法の担当教諭だったっけ。一度会った気がする。

「はあ」

「リン先生も水魔法を使うらしいじゃないですか、どうでしょう、ここはひとつ皆にお手本を見せるというのは?」

何で私の所持スキルを知っているんだろ?


「本当に使えるならの話ですけどね! どうせ嘘の申告でもしたんでしょうけど」

「こらこら、いけませんね。先生になるために体を売ったとか言う話はただの噂なんですから、ねえ?」

ネットリと言う表現がピッタリな視線が私を見つめる。


(一体何が起きているのだろうか?)

(衝撃の急展開なのだ!)


「あらあら、まさか魔法も使えないのに教師を詐称してるなんて事は無いでしょう?」

「あたりまえです。そんなことがばれたらそれこそその体で謝罪してくれるのではないでしょうかね?」

「汚らしい! こんな穢れた女が伝統ある我が学園の教師などと、許せませんわ!!!」


(なんかついていけないんですけど?)

(うむ! どれどれどんなバカ面なのだ?)


ひょこっと、クロが顔を出す。


「なんです。その汚らしい生き物は?」


(クロさん、汚らしいんですって?)

(ふふふ、下等生物に何をいわれようと痛くもかゆくも無いのだ!)


「クロちゃんの可愛さがわからないなんて頭おかしいんじゃないの?」

「そうよそうよ!」

マウラさん達生徒が余計な事を言ってくる。


(ちょ! おまっ!)

(いいぞ、もっと言うのだ!)


「あらあらあら、役立たず共がこのリタ・アフターバーナーを愚弄する気ですの?」

「アフターバーナー家を愚弄するなど聞き捨てなりませんな! これは本格的な稽古が必要なようですな」


(私、はあ、としか発言してないんだけど?)

(我なんか一言も喋ってないんだけど?)

(もしかしてこのまま話し進んでいくのかな?)

(さあ?)

(えー、なにそれー)

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