28:密やかに
ハーブティーにシュガーを多めに入れ香りを楽しみながら一口。
ズズズ...香りが脳を刺激し糖分が脳内を駆け巡り温かさが体をリラックスさせ治まらなかった苛立ちが少し和らぐ。
音を立てることがはしたないですって?
空気を含みながら飲む事で味と香りを十二分に堪能するためよ、ウフフ、これって前世の記憶なのリラックスの方法も前世の豆知識よ、前世の記憶を持っているわたしって最強よね! でもこのこのとはみんなにはナイショよ。
「お嬢様、音を立てるのはちょっと...」
「おだまり!」
「失礼しました」
まったく空気を読めないメイドね、しかも使えないなんて...そうだわ! 使えないメイドではなくてイケメン執事に変えてもらいましょう、いえ、まって! ちょい枯れ執事って言うのも捨てがたいわね...
お嬢様ティータイム満喫中...
「どうなっているのかしら?」
「は?」
「は? じゃないですわ、噂がまったく広がってませんわ」
リン・エスポワールがビッチという噂を広める。
第一段階は、リン・エスポワールの部屋に仕掛けた魔道具で隠し撮りしたあられもない姿を、
1.学園内各棟の掲示板に貼る。
2.素行の悪い殿方の部屋に配布する。
その世界にはコピーという物が無いから大量に作成することは出来ないけど効果的に使えば噂は一瞬で広まる。
第二段階は、食事に睡眠薬を混ぜ何をされても起きない状態にして、
1.かち合わないように部屋の鍵付きのパーリー招待状を出す。当然内鍵は事前に外しておく。
2.かち合うように招待状を出し乱交パーリーに発展させる。
最終段階は、乱交パーリー状態を隠し撮りした物をばら撒く。
どうなるか?
学園から逃げ出すしかない。学園に留まればそれこそ地獄の日々、いえ違うわね、ビッチにしたら天国の日々ですわね。
前の先生も私もそれで学園から逃げだし...私?
……………
……
……
「お嬢様、モブです」
……
……
……………
モブも学園から逃げ出してしまった。
モブを排除したら出てきた悪役令嬢リン・エスポワール。
彼女も排除したら隠しキャラの光の王子が出てくるかしら?
「で、どうなっていますの?」
「はい、仕掛けておいた魔道具が何度も取り外されて、どうやら邪魔をしている者がいるようで」
「リン・エスポワールの仕業ではないの?」
「いえ、睡眠薬を試したところ気付かずに眠りましたので、別の者かと」
「それなら噂は後からにして既成事実を作ってしまえばいいですわ」
「連日の幽霊騒ぎで人が多く秘密裏に辿り着けないらしく...」
「丁度いいですわ、皆に見られながら犯されたいとでも書き加えなさい」
「はい、それと...」
「いい訳はもういいですわ! 早くあの女が絶望している顔をわたしにお見せなさい!」
「はい」
それと...既に何組かが部屋に忍び込んだはずなのに、その者達が行方不明になっているのです。
カチャリ...
鍵が解除され音もなく扉が開く。内鍵は掛けていても意味が無いように細工されているようだ。
開いた扉からもれる灯りに部屋の中が薄く照らされ部屋の奥、窓際にベッドが白く輝くように見える。
「ヒヒィヒ」
下卑たというよりも精神に異常をきたしたような笑いを漏らし暗闇の中ベッドへと駆け出す男。
目の端に白い人影が映っている。数日前からずっと、どこにいようとこちらを見ている白い影。
「ヒヒィイイイィィィイイヒ。滅茶苦茶にしてやるぅぅぅうう!」
掛け布団を乱暴にめくると、そこには白い童がこちらを見て笑っている。
「アヘェアェアァアァィィ、ナンデエェェ???」
目の端の白い影が答える。
「ハズレダヨ」
そちらを振り向くと、白い影の肩にわだかまる漆黒の闇から長く長く鋭い爪が伸び...
アイテムボックスにしまう。
「これで終りかな?」
白い影が白い童に聞く。
とことこと近づき恭しく礼をして紙を差し出す。
「ん」
受け取ると同時にペラリと童の形の紙が宙を舞い窓の隙間から外へと飛んでいく。
受け取った紙に目を通す。
「リン、なんだ?」
「んー、はい」
クロに見せる。
「…………」
「ちょっと、無言とか怖いんですけど?」
「我の怒りが有頂天」
「有頂天とか怖いんですけど?」
「もう調べはついているのだろ? なぜ受身なのだ?」
「まだやることがあるからです」
やっていることは本当に陰湿だ。
出された手紙と鍵は事前に回収しているのだけど、前任の人のときに配られた鍵を持っている人がそれを持ってここにきているらしい。余程いい思いをしたのだろう最初のころの数人に洗いざらい喋って貰ってからは目ぼしい情報もなさそうなのでさくっと処分している。
大図書館が本当に迷宮か確認するために数体プレゼントしてみたりと色々な検証に役立ってもらっている。
「けどそうだね、今度あのメイドが来たら全部教えてもらおうかな」
睡眠薬入りの食事自体は毎日運ばれてくるのだけど、それと知らない関係のないメイドさんが運んでくるようになっている。
「我がやりたいのだ!」
「えー、クロ雑だからダメだよ」
クロの洗脳と魅了のコンボは強引過ぎて相手がすぐ壊れてしまう。
「雑じゃないのだ! ワイルドなのだ!」
「一緒じゃんかー」
おそらく今一番面倒そうなフラワーネット関係。そしてその知識を一番持っているメイドさん。
学園に放った式の情報で遠慮する必要のない相手とわかった。だから遠慮なく魔眼で頭の中を全て覗かせてもらう。
呪いやユニークスキル関係は事前情報が全てを左右する。
全てがわかって邪魔ならば消し、わからなければ逃げる。触らぬ神に祟り無し。呪いや祟りは係わらないのが一番いい。
まあ、既にあちらから係わって来ているのだからそうもいかないのだけどね。
では、大図書館へ行こうかな。
「じゃあ、今手に入れたやつに迷宮の転移先行って貰おうと思うからさ、いい感じに洗脳してみてよ」
「うむ、まかしろ!」
敵は確実に処分する。それが我の流儀。
有効利用してから確実に処分する。それが私の流儀。
リンさん、あなたってなんて恐ろしい子なの!
ひどいわ! クロさんとの幸せな今を守るためなのに!
まあ、ごめんあそばせ。あたくしもリンさんのために世界を滅ぼしてあげましてよ!
いや、それはご勘弁!
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