26:ファウストの迷宮
今日の講義は午前のみという事でマウラさん達女生徒にお昼に誘われる。
寮のカフェと違い建物ひとつがまるまる学食というかレストランになっている場所に移動する。ここは上の階に行くほどランクが上がり接客も値段も高級になるらしい。
なぜか生徒のほとんどがついてきているので一番広い一階で食事を取る事にする。
正直目立ちたくないのだけど何でこんなに人気があるのか、自分で言うのもなんだけど私は取っ付き難い類の人間だと思っていたのだけど、同じ生徒という関係でなく先生という上の立場の人間としてなら私みたいなほうがいいという事なのだろうか。
いや、考えてみるとこちらの世界に来てからというかクロと一緒になってからよく話しかけられるようになった。
「リン先生は光魔法スキルのレベルはいくつなんですか?」
「秘密です」
「冒険者ランクは何ランクなんですか?」
「Dランクの初心者です」
「年齢は?」
「秘密です」
「使えるスキルはほかにもあるんですか?」
「秘密です」
「秘密ばっかりじゃないですかーやだー」
「自分の能力をほいほいしゃべる冒険者はいません」
「なんでですか?」
「秘密です」
「秘密ばっかりじゃないですかーやだー」
「冒険者の心構えはギルドで教えてくれるし冒険者になれば嫌でもわかりますよ」
「どうすれば冒険者になれるんですか?」
「冒険者ギルドで申請すればなれますよ。何かスキルがひとつ以上ないとなれないみたいですけど」
「光魔法スキルがあればなれますか?」
「一発合格だと思います。けど、なるなら気心の知れた仲間と一緒になったほうがいいですよ」
「なんでですか?」
「光魔法が使えるフリーの冒険者なんて鴨がネギだけでなく鍋とダシ汁まで背負ってる様なものですからね」
「カモ? ネギ?」
「金貨の山にご自由にお持ちくださいという札が刺さっているようなものです」
「リン先生、何言ってるんですか? 一緒に冒険する仲間は自分で選びますよー」
「光魔法しか使えない無力な冒険者が自分の意思を通せるわけないじゃないですかーやだー」
場の雰囲気をぶち壊す。
「あの...」
「光魔法スキルを覚えられる[光魔法の巻物]っていうのは、競売で幾らだったっけ知らないや、確か[光魔法の巻物:回復]が金貨一万枚だったから、最低でもそれの百倍、いや千倍くらいの価値はあるかな」
金貨一枚一万円換算がこの世界の価値観。
「え?」
自分の価値をよくわかっていなかったらしいマウラさん。
「いやー、そんな価値のあるものが無防備にころがっていたら、どんなことしてでも手に入れようとするよね?」
実際、光魔法所持者は冒険者ギルド側がどこかのパーティーに入るか、それなりの強さを身につけ落ち着くまで秘密裏に護衛をつけてくれる。
「学園はどうなっているかわからないけど、マウラさんが光魔法スキル発動できたのが知れわたったら勧誘とかが大変だと思うよ」
さすがに強制的な勧誘は無いと思うけど今後は色々大変だろうね。
フロアから姦しい景色を見つめ話す女性が二人。
「あら、それは凄いですわね」
「ええ、わたくしもビックリしてしまいましたわ」
どうやら、ひとりは光魔法の講義の受講者のようだ。世間話のようだが光魔法覚醒の報はこのような形で既にいたるところで広まっている。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
挨拶もそこそこにパタパタと集団へと合流する女生徒を見送る。
チートね。
最初の授業でいきなり光魔法スキルを覚醒させる。インパクトとしてこれほどのものは無いわね。
チートコードを使ってNPCの情報を書き換えるなんて裏技中の裏技、ヒロインであるわたしが登場する前に学園内の実権を掌握するつもりらしいけど...
残念ね!
既にここに居ましてよ!
しかもあなたと同じ前世の記憶持ちでしてよ!
「あら、マリー様。ごきげんよう」
「……はっ! ごきげんよう」
「あれは何かしら?」
「新しい光魔法の先生らしいですわ」
「あら、でしたら前任の汚らしい女はクビになったのね」
「ええ、複数の男性を誑し込もうとして失敗したらしいですわ」
「ホホホ、いい気味ですわね」
「安心してはいけませんことよ後任の彼女、あの白いローブの女。冒険者の分際で教師になったらしいですわ」
「まあ、あんなに若いのに、しかも冒険者風情がどうして我が伝統ある学園の教師になれたのかしら?」
「ここだけの話、若い肉体を使ってという噂ですわ」
「なんですって! 汚らしい!」
「学園で殿方を誑し込んで貴族の仲間入りを画策してるらしいですわ」
「……許せませんわ!」
怒り心頭の様子で集団へ乗り込もうとする彼女を止める。
「いけませんわ。実力もないのに学園まで潜り込んで来た卑怯者なのよ、今何か言ってもこちらが悪者にされてしまいますわ」
「まあ! 彼女達は由緒ある貴族のわたくしより、あの汚らしい女の味方をすると言うの?」
「いいえ、違いますわ。もっと...」
その光景を見つめる騎士が一人。
「あれが新しい光魔法の教師か...前のよりも若くて美しいな」
トリン様に報告せねば、冒険者というなら丁度いい、前のは背後に教会の影がちらついていたため強引なことは出来なかった。
気付けば我等だけでなく学園中の者と関係を持っていたらしい。誰ともわからぬ子を生されては意味が無い、ズヴァール家の血筋でなくては。
それを見つめる............
大図書館:
教員カードを提示し中へと入る。
ひんやりした空気と鼻を突く独特なにおい。見上げれば降りた深さよりも高く、もしかしなくても外の建物より上にある天井。
私に続いて何人かが地下への扉をくぐるが、周りをキョロキョロと見回しもと来た階段を上がっていくか誰かを探すように奥へと進んでいく。
式の束を置いた本棚へ進み...ふむ。
数の減った式を一枚づつ魔眼で読む。
戦闘体勢時の定位置と言っていいのか、私の肩のクロが聞いてくる。
(魔物がいるのか?)
(いや、違うみたい。単に戻ってこれなかっただけ...かなぁ?)
(迷うような構造では無いと思うが?)
(うーん、どうやらある道順で転移みたいな現象が起きるらしい...かなぁ)
(はっきりしないのだな)
戻ってこれないというのが困ったところだなぁ。
私を認識できず私を探している人が横を通り過ぎるので避ける。
(ちょっとクロ君、本棚の上に移動しようか)
(うむ!)
ふよふよ~
ふよよ~、すとん。
クロの念動力で宙に浮き、本棚の上に白のローブを広げ着地する。
(うん? 埃が舞わないというか無いや)
埃がたまっていると思いローブを広げて着地したけどまったく埃が無い。
(迷宮だからじゃないか?)
ああ、迷宮は全てを吸収する。ならばやはり、この本棚も本も迷宮の一部という事か。
(どうするかな)
(なにがだ?)
(戻ってこれないを、かな)
(我でいいのではないか? 戻る手段が本当にないならば召喚すればいい)
そう、転移する道順を辿りクロに転移してもらって転移先を探るというのが一番合理的な方法だ。
戻る方法が見つからないならば、私がクロを召喚すれば戻ってこれる。
(けど、転移先がロック状態だったりすると召喚がキャンセルされる可能性がね)
迷宮のボス部屋がそれに当たる。ボス部屋に入った後扉が閉まりボスが出現すると部屋自体にロックがかかる。こうなると私が外でクロがボス部屋にいた場合クロを召喚で呼び戻すことができなくなる。
(転移先に魔物がいればそれを倒すだけで済みそうだが、魔物じゃない可能性のほうが高いな)
(うん...どうせなら一緒に転移しようか?)
(却下だな!)
即答される。
(ふふ、過保護だね)
クロを撫でる。
悩んでも仕様が無いので取り合えず問題は後回しにする。
式が調べた本で有用なものを端から読む。
(リン、魔物は一切でないのか?)
(うん、夜になっても何も変化はないみたいだよ)
本棚の上を移動し、必要な本をクロの念動力で取ってもらう。
(では転移だけか)
(転移先がどうなっているかだね)
読む。
(転移先設定するのか?)
(うん、するよ)
夜も来れる様に転移魔法陣を一番奥の本棚の上に設定するつもりだ。
(うっかり転移とかしちゃわないのか?)
(本棚の上も式が移動してるからちゃんと転移しない道順をとっているよ)
(ちっなのだ!)
読む。
(変な動きをしているやつらはどうするのだ?)
(ん、別にどうもしないよ)
夜はここに来る予定なのでもうここに式を放つ必要は無い。
減った式を補充して外に放つだけだ。
深夜...
学園内に白い童が駆け回るという噂や月夜に舞う白い蝶の噂が囁かれるようになる。
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