22:初めての授業
朝食は部屋で済ます人が多いのか、朝のカフェテリアは閑散としている。
用意された料理を自分で盛り付けて食べるビュッフェ形式のようで入る時に会計を済ませる。
なかなかの品揃えだ。
背中のフードがもぞもぞしたかと思うと、左ほほの横にちょこんと小さな頭が出現する。
ちょいちょい。
右足でほほをてしてし叩き、左足で料理を指すネコ君の希望通りに料理を盛り付けていく。
ちょいちょい。
フードから出て首に巻き付いてくるネコ君。左側の上半身は足で左の料理を指し右の下半身は尻尾で右の料理を指す。
無言で次々と料理を指定してくるネコさんちょっとうざいです。
「ネコさん。もう盛り付けられません」
ちょいちょい。
新しいお皿を尻尾で指すネコさん。
てぃ!
上体を少し反らすと、ぽとん、とフードの中に落ちる。
もぞもぞもぞ、ぷにぷにぷに!
フードの中から四本の足でぷにぷに攻撃を始めるネコさん。
気持ち良いです。
人が少なく、外の景色が見える席に付く。
フルーツジュースをひとくち飲む。
口の中にふわっとジューシーな甘味とほのかな酸味が広がる。
がつがつがつがつ!
「はぁぁ...」
思わずあくびともため息とも、自分でも判断が付かないものが口から漏れる。
がつがつがつがつ!
(リンよ、食欲不振か?)
がつがつがつがつ!
がつがつしながら今日始めて喋るネコ君。念話だけど。
がつがつがつがつ!
ぎゅ!
なんとなく尻尾をつかむ。
がつがつがつがつ!
(放すのだ!)
がつがつがつがつ!
むぎゅむぎゅ!
がつがつがつがつ!
(はーなーせー!)
がつがつがつがつ!
がつがつがつがつ!
がつがつがつがつ!
尻尾をむぎゅむぎゅしてたら食事を完食したクロがフルーツジュースのグラスに顔を突っ込んでくる。
お行儀の悪いネコ君の首根っこを掴み持ち上げる。
「飲み皿に分けるからお行儀悪いことしないの!」
「にゃ!」
(ミルクも混ぜてまろやかにして欲しいのだ!)
(はいはい)
ぺろぺろぺろぺろ!
「はぁぁ...」
(なんか緊張しているみたい)
(転校生の気分か!?)
(先生なんだけどね)
(リンが緊張するなんて珍しいな)
(うーん、人を教えるなんてした事無いからかなぁ)
(数万の愚かな愚民共を導いてきた我の助言を聞くか?)
(結構です)
(遠慮するな、マスター先生と呼ばれた我の助言を聞けば全て解決だぞ?)
(今忙しいんでまた今度で)
(老子と呼んでいいのじゃぞ?)
(にゃんこー!)
(ろーし!)
「そろそろ行こうかなぁ」
(じゃあ、我は寝ようかな!)
ばふんっとフードに飛び込み中で寝る気満々で丸まるクロ君。
「ひどくない?」
(我がいると溢れ出る魅力で授業が進まんぞ?)
「むーん、一理あるかも」
(我は夢の中から応戦するのだ!)
(応援ね?)
出来る先生でも演じようかな。
あー、どっかにメガネとか売ってないかなぁ...
光魔法講義室:
ローランアカデミーは国に在籍する才能ある若者が集まる学園。
学園の歴史と規模から国外から学びに来る者も少なくない。
光魔法はその有用性から誰もが望むスキル。
光魔法に覚醒する可能性のあるこの講義には魔力を持つ学生のほとんどが必ず一度は参加している。
しかし最近の光魔法の講義は参加者が激減していた。
よくない噂と、それを証明するかのように講義を受けに来ているとは思えない者達が参加するようになっていたからだ。
武器系のスキルしか持たない魔力の少ない者はいくら努力しても魔法スキルを覚醒する事はないが、なぜかそういう者達が参加していた。
有体に言えばガラの悪い連中がたむろするようになっていたのだ。
そのよくない噂の元凶である先生の代わりに今日新しい先生が来る。
今日の講義は正式なものだが、学園から光魔法の生徒と登録されている者。光魔法の素質のある者と入学時に光魔法の講義を希望した者のみにしか知らせが届いていない。
光魔法に覚醒した生徒は実技の授業には出席するが講義には出席しないし、先任の教師に失望した者や先日までの講義自体が成り立たない状態を嫌った者も今回の参加を見送ったようだ。
講義室の半数を超えるかどうかという人数の生徒が思い思いの席に着き雑談をしている。
「ねえ、新しい先生ってどんな方なのかな?」
「昨日、カフェにいたらしいわよ」
「じゃあ、女性なのね」
「ええ、わたくし達と同い年らしいわ」
「え!? もしかして教会の方?」
若くして光魔法に熟練した方のほとんどは教会に所属している。
戦闘実技の実習時には負傷者やひどい時には死者が出ることもあるので、学園内にも教会の建物が存在し司祭の方が在籍している。
「冒険者らしいわよ」
「わぁ、私達と同い年で冒険者なの? 凄いわね」
ざゎ、
ざゎ、
ざわ、
室内がざわつき、皆の視線がある一点に集中している。
最初の印象は白。
それは纏っているローブの色。
そして黒。
それは美しく伸びた癖のない黒髪。
同性でも見惚れてしまう美しい顔が室内を見渡す。
一瞬、ほんの一瞬目が合った気がした瞬間、ぞくりと寒気がする。
その目に全てを見透かされた気がした。
とことことこ...と移動し教壇に立つ少女。
そして、ただ静かに教壇に佇む。ざわついていた室内が徐々に静まり返る。
こほん、とわざとらしい咳払いの後、少女が話し出す。
「どーも、お早うございます。今日からしばらく光魔法の教師をすることになりました冒険者のリンといいます。よろしくです」
静まり返る室内。
「えーと、じゃあ、そっちから順番に自己紹介お願いします」
気にした様子も無く進めていく。
「え! わたし?」
「そうそう、お願いします」
「え、え、あの、わたしの名前は――――」
よくわからないうちに自己紹介が進んでいく。
場の空気が掌握されているというか、なんというのか、質問を挟ませない絶妙なタイミングでお願いという名の指示が飛ぶ。
「んー、じゃあ光魔法スキルがあるのはマウラさんだけなんですね、後は光魔法のヒール単体を取得している人が二人と...ところで講義って何教えればいいんですかね?」
教師が生徒に何を教えればいいのか聞いてくる。
「え、あの」
「はい、マウラさんどうぞ」
「光魔法の発動の原理や神との関係性、それに実際の魔法発動の実演とか」
「あー、光魔法の基礎に書いてありましたね。んー、あれは...」
さすが若くして冒険者をやっているだけあり、一瞬で関連書籍の名前と内容が出てくる。しかも口振りからするとそのようなことなど意味が無いような印象さえ受ける。
室内がどよめく、その様な事は事前情報として学習しておかなくては駄目という事なのだろうか、読めばわかることなど教える気が無いという事なのだろうか?
実力重視の冒険者といっても年下であろう見た目の少女。どれほどの者かと侮っていた者達の目の色が変わる。実力だけでなくそれを裏打ちする完全な知識を持っていることがさも当然のような口振り。
スラスラと書籍の名前とページ数までを指摘しながら話す口振りは親類の中に本の著者でもいるのではないかと思えるような、それにしたとしても何百、何千と読み込まなければ覚えられるものではない。
天才!!!
目の前にいる者はまさしくその言葉がふさわしいのではないか!?
「ちなみに、ここの講義で光魔法に覚醒した人っているんですか?」
「います! 最近ではマリー様が」
「ん、マリー・フラワーネットさん? いきなり光魔法の熟練者になったっていう人だっけ?」
「でも、マリーさんは初期の講義を一回受けただけよ」
生徒が口々に話す言葉を黙って聴いている少女。
「あれ、もしかして実演を見てるだけ? そもそも実演ってどうやってるの?」
「先生に目の前でヒールを発動していただいて...」
「何に対して発動するの?」
「何にというか、目の前で...」
「もしかして空撃ち?」
「はい...」
「触媒と魔力発動の関係とか、その辺りの...あー、うん、じゃあマウラさんとヒール出来る二名ちょっと来てください」
「はい!」
「はい!」
「はい!」
ちょっと自習と言い残し、三人を引き連れ講義室を出て行く少女。
いや違う! これから私たちを導いてくれるお方、リン先生。
ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ
ざわわ、ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ、
室内が先程よりもざわつき出す。
--------------------------------------------------------------------




