21:密やかに
自室のソファーに深く座り目を瞑る。
「我、大満足!」とたくさんのケーキを堪能してご満悦のクロ君は、私のひざの上でだらしなく仰向けに寝転がっている。そのお腹を撫でながら昼間記憶した光魔法の情報を整理していると...
コンッコンッ!
ノックの音に返事をすると「お食事をお持ちしました」と、メイドさんがワゴンを押しながら入ってくる。
慣れた手つきでテーブルに並べられていく食事。
ひざの上のクロをちらと確認し、そういえばクロはずっと隠密していたから初めて見るのか、洗濯物やお風呂はどうするか聞いてくる。
大浴場というのがあるらしいけど入るつもりは無い。
洗濯物は、私物は自分で洗うのでいいと断り、ベッドメイクとかその辺りはお願いする。
他に何か用はあるかと聞かれたので特に無いと答え、朝は自分で起きて朝食は食堂で済ませるので必要ないことを伝える。
御用があるときは呼び鈴を押してくれれば居れば自分が、いなければ代わりのメイドが御用を伺いに参りますといい部屋を出て行く。
ずいぶんそっけないと思ったが、「お帰りなさいませご主人様」とか言い、接客をこなすフレンドリーなメイドさんのほうが異常なのだと今更ながらに気付く。
「リン、どうなのだ?」
さっきまでは大満足とかいってたのに出された料理に興味津々な視線を向けている。
「微量だけど、いきなり睡眠薬が入ってますわクロさん」
「微量なのか、どういう意図だ?」
「さあ、わかんない。取り合えず気付かずに食べるかの確認とか、薬の効き目の確認とかじゃないのかな」
お嬢様言葉に乗ってこないので普通に話す。
ちょっとクロさん、恥かしいんですけど!
深夜...
トン、トン、と控え目なノックの後しばらくの沈黙。
カチャリ、カチャカチャ...外鍵と内鍵のチェーンが外される音がし、音も無く部屋へ侵入する黒い影。
ふよふよ~
夜目が利くのか障害物に当たることなく部屋の中を移動する影。
複数の場所を確認し、最後にテーブルの上の食事が食べられていることも確認する。
そして最後に向かう先は...
視線の下には、すぅ、すぅ、と静かな寝息を立てる少女。
その寝息を立てている幼さの残る美しい顔は闇の中でも白く輝いているかのような生命力に溢れ、静かなる侵入者の視線を釘付けにする。
そっと伸ばされる手は...
「んぅ...」
少女の寝返りとともに止まり。
再度、寝返りで露になったその無防備に晒された首筋へと伸びる。
触るためなのか、絞めるためなのか、その少女のか細い首へと伸ばされていた手が寸前で止まり影の視線が宙を仰ぎ見る。
視線を感じた!
しかし、見つめる先は漆黒の闇のみ、いや、そもそも闇の中に音も無く浮いていられる者など存在し得ない。
ふと、思い出したように周りを見回す。
何かを探しているような視線は、しばらくすると諦めたのか再度静かに眠る少女を見つめる。
一刻、それとも数瞬か、音も無く影が移動しカチャカチャ、カチャリ...
部屋に静寂が訪れる。
ふよふよ~
ふよふよ~
ふよふよ~
ポテッ! と漆黒の闇からネコが降って来る。
腕に抱きかかえると闇の中でも美しく光る翡翠色の瞳が私を見つめながら囁く。
「何もしてこなかったな」
「そうだねぇ、けどそれってクロが邪魔したからじゃないの?」
闇の中、念動力でずっと宙に浮いて侵入者の上にいたクロ。私の首に手がかかる瞬間、一瞬だけ発動していた隠密を解いて侵入者の気を引いていた。
「べ、別にあれは貴女を心配したからじゃなくてよ!」
腕の中から抜け出し私の顔に頭をぐりぐり押し付けてくるクロさん。
「あらあら、お優しいのねクロさんは」
その頭を優しく撫でる。
「そういえば動き回っていた場所は魔道具の設置場所か?」
「うん、けど全てじゃなかったからやっぱり他にも仕掛けた人がいるみたいね」
「そうか」
「そうなのだ」
「むぅ、それは我のセリフなのだ!」
「ふふふ」
部屋にロックの魔法を掛ける。
これでもうこの部屋に誰も進入する事ができなくなる。
「おやすみ、クロ」
「うむ、おやすみなのだ。リン」
手の中にクロの暖かさを感じながら眠りにつく。
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