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15:日常

マルアの宿:

ここは冒険者ギルドと契約している宿のひとつで、貴族街の冒険者ギルドが問題無いと判断した冒険者に紹介される宿。もし格付けというものが存在するならば、その中で上位の部類に入る宿屋。


ここに私とクロ専用の部屋がある。

色々な理由があり、宿の中でも一番いい部屋をあてがわれている。


学園に通うには少し距離があるので教師をしている間は学園内の寮を使うことにした。

「マルアさん、鍵はどうしましょう?」

私専用の部屋なので宿の管理する鍵のほかにいつでも使えるようにと私にも鍵を渡してくれている。

「そのまま持っといてくれていいよ、リンちゃん以外に貸す予定は無いからさ」

肉皿をガツガツ食べているクロを撫でながら女将のマルアさんが言ってくる。

「そうですか、じゃあ持っておきますね」

「はいよ、たまには帰って来ておくれよ、寂しいからさ」

「長くなっても一月くらいだけですよ。でも、お昼食べに来たりしますね」


じゃあ、と挨拶をしマルアさん達に見送られながら宿を出る。

「我専用隠しメニューの肉皿ともしばしのお別れか、名残惜しいのだ!」

「そうだね、まあ、早く戻れるように頑張ろうね」

「頑張れば早く戻れるのか?」

「んー、どうだろうね。色々ありそうだし」

生徒より年下で現役の冒険者が教師だもんね。

「リンよ、学園ごと吹き飛ばすというのはどうだろう?」

「いやぁ、なにそれ意味わかんないよ?」

「我の新技、戦略級魔術:獄炎(ごくえん)パラダイスで全てを灰にするのだ!」

「凄いネーミングだね!」

「うむ! イカすだろ?」

「イカすね!」

「ふふふ、燃やしつくすっぜ!」

「うん、燃やしたらダメだからね!」

「なんだ、と!」

燃やしてしまったら目的が果せない。



魔道具屋:

扉は硬く閉ざされている。


「まあ、やってないよね」

「規制中だからな!」

「帰省中ね」

「誤差だな!」

「そうだね!」


その時!!!


店の前に立ち尽くす少女に背後から隠密で気配を消し近づく影が...


ローブの下に鎧を着ているのにも係わらず一切の音を立てないその熟練したストーキング能力、暗殺者か?


腕を伸ばせば届く距離まで近づいた影が、ソロソロと少女へ手を伸ばす。


「くすの鉄山靠(てつざんこう)ゴフゥ!!!」

言葉を発したとたん体をくの字に曲げて吹き飛ぶ影。


くの字の窪んだ部分には間違った技の名前を叫びながら頭から体当たりをするネコがいた。


くるくるくる、すたっ! 華麗に着地したネコが一言。

「千年早いのだぁぁぁぁ!」

「クソネコ、俺何もしてねーだろうがぁぁぁぁ!」

瞬時に復活した藤原君がクロに食って掛かる。

「何気ない振りを装いボディタッチをする。それすなわちセクハラ!」

「はっ! セクハラなのか」

「リン、今日から小僧のことをセクハラワラと呼ぶのだ!」

「こんにちはセクハラワラ君」

「ガフゥ!」

吐血し倒れ伏す藤原君。



「…………もういい?」

「はい、いいです」

「うむ! 満足なのだ!」

藤原君の頭をてしてし叩いていたクロと口の周りが血だらけの藤原君がこちらへ来る。



「で、なんだっけ?」

「さあ?」

「ざけんなクソネコ! 俺が楠木に声を掛けようとしただけだ」

「隠密発動して背後から?」

「うむ、アウトな行動だな」

「ちげーよ、ちょっと驚かそうとしただけだって。俺の極まった隠密スキルを披露しようと茶目っ気を出しただけだって、実際楠木は気づかなかっただろ?」

「ん? 気付いてたよ」

「え、マジで? いつから?」

「魔道具屋の脇から遠回りして後ろの建物まで移動してったでしょ?」

「えー! まさか最初っから気付いてたって落ちかよ。マジでショックだわ」

「我もストーカー臭ですぐ気付いたのだ!」

「嘘付けクソネコ」

「だいたい極まったなどと言ったが、我とリンも隠密スキルは5だぞ?」

「マジで!」

「マジで」

「うん」


カーサのことを説明する。

「そういえば里帰りがどうのっていってたな。ていうか里ってどこにあんの?」

「さあ聞いてないけど、多分聞いても答えられないんじゃないかな」

「あー、そうか、だな」

そういえば、藤原君はカーサのことどこまで知っているんだろう?


エルフというのはわかっているのかな?


藤原君を見る。聞くという事はエルフと知らなかった場合ここで初めて知ることになる。

「ん? おいおい、そんなに見つめられると照れるぜ」

なんかほんとに顔を赤らめる藤原君。

「んー、なんでもない」

「お、おぅ」

「取り合えずシネヤワレー!」

「邪魔すんなクソネコテメーがシネやー!」

恒例のクロと藤原君のじゃれあいが始まる。


「いつ戻るかはわからないんだな」

「うん、なるべく早く戻るって言ってたけど、何か色々あるみたいでね」

「そっか、迷宮探索とかはどうする?」

「んーと、テレスさんも今起きてる迷宮異常の対策に借り出されてるし」

「じゃ、じゃあさ、よかったら二人だけで」

「私もね、ギルドの依頼でローランアカデミーの教師をすることになったんだ」

「へ?」

「ざまぁ!」

「だから暫くパーティーでの迷宮探索は無しでもいいかな?」

「あー …………了解」

ガックリとうなだれる藤原君。

「ごめんね」

「いや、別に楠木が謝らなくてもいいよ。何か目的があるんだろ?」

「うん、ギルドからは迷宮異常について対策があるか学園にある大図書館で調べてくれって」

「教師ってのはついでなんだな」

「うん」

「……で、まだ裏があったりするのか?」

藤原君は鋭いね。


「私達ってさ、この世界の事知らなすぎだよね」

知らなかったから仕様が無いというのは言い訳だと思う。

「だな、魔人になれるとかとんでもが普通にあったりするな」

「私はさ、色々と考えてしまうから、カーサがこのまま戻ってこないかもしれないとか」

「戻ってこないのか?」

クロが聞いてくる。

「可能性の話だろ」

藤原君が答える。


でも、可能性があるならば潰しておきたい。


「でも、本当はヒントがあったかもしれない。そのヒントを私が知らなかったから気付かなかっただけかもしれない」

魔眼という普通では見えないものまで見えるのに、見えているのに知らなかったでは話にならない。

「楠木は、なんかすげーよな、俺はそこまで考えてないわ」

「我も凄いのだ!」

クロの頭を撫でる。


「だから大図書館ってことなんだな」

「うん」

「じゃあ、俺はもっと強くなろうかな」

「十分強いじゃん」


微妙な顔をする藤原君。

「せめてネコを倒せるくらいの強さを手に入れたいわな」

「無駄だがガンバレ?」

「応援するね?」


なんで二人とも疑問形なの? と悲しそうな顔をする藤原君。

「ガンバ!」

「シネ!」

おぃぃぃぃ! クソネコなんだそれわぁぁぁぁ!


シネシネー! といいつつ追いかけっこが始まる。


うぉぉぉ、クソネコ今殺す!


知ってるか小僧、リンは学園物の定番出会い頭の衝突イベントを既にこなしているんだぞ?


な、なんだってぇぇぇぇぇ! マジか楠木、イケメンだったのか?


男の娘なのだ!


うぉぉぉぉ! マニアァァァック! だがひと安心!


なんだかんだでいつものドタバタで幕を閉じる。

「じゃあね」

「おぅ、またな」

「シネ!」

「あ゛?」

「あ゛?」

はいはい、学園に戻るよ。

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