第4話 好き
ミチオ、だっけ。あの人はダメかな。なんか、カズラ? とかっていう女に気があるみたい。目は一重だし、髪型はポニーテールとかだし、胸がぜんっぜんないし、あと、左頬に似合ってない変なタトゥーとかしてて、どこがいいのって感じだけど。
ミチオ、よさそうだったんだけどな。頭はよくなさそうだけど、ちょっと垂れ目で、やさしそうで、腰がきゅっと細くて、でも背はたぶん、175くらいあって、頭は悪そうだけど、話しやすそうで、悪くない。でも、女の趣味はよくないのかな? そうかも。
あとは……雲みたにもくもくした髪の、ぷよった男。これはパス。興味ない。
きのこカットのやせっぽち。これもパス。正直、きもい。
ムサシはどうかな。うーん。べつに悪くはないけど。顔はわりと、爽やか系? だけど、ちょっと偽善者っぽい感じがする。まあ、でも、悪くはないかな。
ケイタは、銀髪がどうなのって感じだけど、それを抜かせば見た目は一番いい。地味にかなり美形。背も高い。だけど、頭がおかしい。関わりたくない。
それから、眼鏡が三人。
坊主眼鏡は眼中にないかな。坊主がダメってわけじゃないけど、坊主にはいい坊主とダメな坊主がいて、あれはダメなほうの坊主だから。
あとは、背が高くて明るい色の髪が短いほうの眼鏡がヒノトで、ヒノトよりは身長が低くて髪は黒くてあっさり系の眼鏡がヒサヤ。なんか、ちょっとだけ、微妙にカブってる感じもある眼鏡が二人。
女はどうでもいい。まあ、三人しかいないし。カズラと、それから、下半身デブの女と、あとは、前髪で顔が隠れちゃってる系の顔色が悪いやばそうな女。ほんと、どうでもいい。
ムサシか、ヒノトか、ヒサヤか、あとは、カズラ次第で、ミチオかな。
ぼくはとりあえず、ぱたぱた走って前のほうにいるムサシに近づいていった。
ムサシは歩きながらきょろきょろしている。ひよむーに連れられて入ってきた街の様子が珍しいんだろう。ぼくも珍しくないわけじゃないけど、わりとどうでもいいっていえばどうでもいい。それより、やらなきゃいけないことがある。
ぼくはカオル。
身長は156で、体重は42とかそのくらい。ぼくの髪の毛は赤っぽい。ボブにしてある。
あとのことは、よくわからない。ぼくはどういう性格なのかとか、そういうのはなんとなくわかるけど、どこで生まれたとか、さっき目が覚めるまで何をしてたのかとか、そのあたりはさっぱりだ。
何これ、怖い。
めちゃくちゃ怖い。
だから、ぼくはまず、安心したい。こういうとき、ぼくはどうやら、誰かに守ってほしい、と考えるみたいだ。間違っていないと思う。だって、ぼくって、弱そう。たぶん、ていうか確実に、弱い。身体もちっちゃいし、細いし、軽いし、あと、走ったりとかも、得意じゃなさそう。遅そう。
ぼくは守ってもらいたい。きっと、誰かに守ってもらわないと生きていけない生物なんだと思う。
ぼくは今のところの候補の一人、ムサシにすりよった。
「ね」
「はいっ!?」
ムサシはぼくにまったく気づいていなかったみたいで、ひょっと離れた。
なんか傷つくな。そういうの。
傷つくと、ぼくは、すぐ顔に出ちゃう。ムサシもぼくが傷ついたことを理解したみたいで、
「あっ、ごめっ、ただちょっと、周りを見てたから」
「うん。わかってる」
「そ、そっか。それならいいんだけど……」
ムサシは歩きながら、ちらちらとぼくのほうを見る。
ぼくの胸を見ている。
やっぱり、気になるんだろうな。ぼく、細いのに、胸はおっきいから。
まあ、ブラジャーつけて、詰めてるんだけど。
ぼくは恥じらうふりをして、小声で訊いてみる。
「……どこ、見てるの?」
「へっ!?」
ムサシは慌ててそっぽを向いて、
「ど、どこって、ど、どこも、べつに、どこっていうあれはなくて、全体的にっていうか、そういう、感じの……」
「ふーん」
「とくに、他意はないっていうか、本当にそのへんは……なんか……あの……」
「からかっただけ」
「え」
「ムサシって、おもしろい」
ぼくがくすっと笑ってみせると、ムサシは顔を真っ赤にした。
「そ、そう……?」
「うん。なんか、反応が」
ぼくはムサシとの距離を詰める。ぼくの肩がムサシの腕にふれる。ムサシはもう、よけたりしない。
ぼくは、ほぅ……と細い息を吐く。
ムサシはそんなに好みてってわけじゃないけど、やっぱりこうやって誰かとくっついていると、安心できる。
ぼくは一人でいるのが嫌い。怖いから。いつも誰かにそばにいてほしい。女はいやだけど。
女はいやらしくて、嫌い。存在がいやらしい。気持ち悪い。
それなのに、ぼくは胸に詰め物をして、女みたいな恰好をしている。なんでだろう。そのへんはよくわからない。だけど、ぼくはこうしたいから、こうしている。それだけは間違いないと思う。
ぼくは、こういう自分が好き。ぼくを守ってくれる男の子が、好き。ぼくを守ってくれる男の子には、ぼくはおそらく、いろんなことをしてあげられる。
「ここって……オルタナ、だっけ?」
ぼくは隣のムサシに訊く。ムサシの肩に頭を持たせかけて、見上げる恰好になる。そうすると、ぼくはとてもかわいく見える。ムサシはどきっとする。
「えっ。あ、ああ……うん。さっき、言ってたね。ひよむーが。ここは、オルタナっていう街だって」
「人、いるね」
「い、いる。歩いてる、な……」
「あの人たちの服、変じゃない?」
「うん。変……だな。なんか、俺たちと違う」
どう言えばいいんだろう。ぼくたち十二人は、もちろんそれぞれ、別々の服を着ている。だけど、共通点がある。
鎧の人は、なんかだいぶ違った。鎧だし。
街の入口……門? のところにも、鎧を着た人がいた。
ひよむーは、ぼくたち寄りだ。
すれ違う、オルタナの街を歩いている人たちは、どっちかというと、鎧の人たち寄り、みたいな感じがする。男の人も、女もいるけど、どっちにしても、もさっとしている。ださいっていうか。古いっていうか。そんな感じ。
「どこに行くんだろうね」
ぼくはムサシの服の裾をつかむ。ムサシはそれに気づいて、でも、ぼくに何か言ったり、さりげなく離れようとしたりはしない。ぼくを受け容れつつある。
「さあ……どこだろ」
「怖いね」
「大丈夫だよ」
ムサシは笑った。ていうか、笑おうとしたけど、中途半端な、少し引きつった笑顔にしかならかった。だけど、ぼくは、いいな、と思った。ムサシは、ぼくのために強がってくれた。そういうの、ぼくは好き。
「なんとかなるよ。わからないけど……なんとかなる……んじゃないかな。一人じゃないわけだし」
「そうだね」
ぼくは笑ってみせる。精一杯、笑ってみせている、みたいな感じ。ものすごく、ぼくがかわいく見える顔。
「ムサシがいるもんね」
「あ、はは……」
ムサシは照れくさそうに笑った。かわいい。男の子って、こうだから、好き。
「さてさてー」
先頭のひよむーが、一軒の建物の前で足を止めた。
「つきましたつきましたー。ついちゃいましたですよー」
石造の、二階建て。
白地に赤い三日月の旗を掲げていて、看板が出ている。
「オレタナ刀竟車義男兵口レソトムーノ……?」
ムサシが看板に書かれている文字を読んだ。
ひよむーが振り向いて、指を左右に振りながら、
「ノン、ノン、ノーン。そぉーじゃないでーす。あれはですねー、一部欠けちゃってますけど、オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン、なのでーす」
「フッ……」
ケイタが手を顔の前にかざして、変な笑い方をした。
「なるほど……ここが最果ての迷宮とも呼ばれる星王宮の入口というわけだな」
うん。
違うと思う。
僕は二次創作の経験がほぼなく(昔、ガ●ダムとドラ●もんをあわせたパロディー小説を一度、書いたくらい)、ノベライズの仕事をしたこともないので、自分以外の誰かが考えたキャラクターを動かすというのはなかなか新鮮で、楽しいです。明日も更新する予定です。




