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大英雄が無職で何が悪い  作者: 十文字青
外伝「大英雄になれなくて何が悪い」
92/120

第3話 四つ葉の秘密




 ああ……もう、やだ。


 わけわかんないし。


 月が赤いとか。


 ここがどこだかわかないとか。


 自分のこと、名前くらいしか覚えてないっぽいとか。


 ほんっとに、意味わかんない。


 誰のせい? やっぱり、あたし? あたしが何かしたから? これ、何かの罰?


「呼っばれって飛っびでってー」


 どこかで変な声がした。女の子の声だった。あたしは周りを見まわす。あたしたちは十二人。男が八人。女の子が四人……だけど、じつは、ちょっと疑わしい子が一人いる。ぱっと見、女の子みたいだし、胸もあるんだけど、なんか、本当に女の子なの? みたいな子が一人だけ、いる。


 それはとりあえずいいとして、あたしたちは十二人いる。


 今の声は、その十二人じゃなかった……と思う。


 あたしたちの後ろには、塔がそびえ立っている。


 その子は、その塔の後ろから、ぴょっ、と出てきた。


「にょーにょにょにょーん。どもー。はっじめましてー。皆さんのひよむーですよーん。よーん。よーん。よーん。にゃははー」


 ひよむー? 名前……?


 ツインテールで、ちっちゃい。わりとかわいい子だ。


 ただ、見た目より年いってるんじゃないかな、という感じがした。どっちにしても、ロリっぽい系統は、そんなに好きじゃない。偽ロリはもっと好きじゃない。ロリはモノホンのロリでいて欲しい。


「むう……貴様は……」

 銀髪のいかれぽんちケイタが右手を顔の前にかざして、左手の人差し指をひよむーに向けた。

「さては、聖王の使いか……?」


「せーおー?」

 ひよむーは小首をかしげて、

「んー。ちがぁーいますかねえ? せーおーの使いではないかも?」


「では、世界を闇に閉ざさんと画策する暗黒の魔法使いジャナヴァールの手下か……!?」


「はははー……」

 ひよむーは困ったように笑いながら横を向いて、ちっ、と舌打ちをし、

「……はーずれだな、これ。まー、そういうこともあるかあ……」

 と、かなり小さな声で言った。あたしは聞こえたけど、聞こえなかった人もいたかもしれない。ていうか、聞こえなかった人のほうが多かったかも。少なくとも、ケイタは聞こえなかったようだ。

「どうやら、ジャナヴァールの手下のようだな……この俺に、いったい何の用だ!? 世界の半分をよこすから、野望成就に手を貸せとでも……?」

「そーいうんじゃないんですけどねー」

「ち、違うのか……!?」


「と、と、と、と、とりあえず!」

 と、きのこカットでやせっぽちの男が突然、口を挟んだ。

「そ、そ、そ、その……その、ツインテールっ娘の話を聞いてみるのはどうか……と、思わなくもないし、そうしたほうが建設的なんじゃないかと……」


「そのとぉーりっ!」

 ひよむーは眼鏡坊主をバビッと指さして、

「まぁーったくそのとぉーりですよー。みんなはこのグリムガルにやってきて、右も左もわっかんないわけですからねー。まずはひよむーに従っとくのがいいんじゃないかと、ひよむーとしては愚考してしまったりする次第ですよー?」


「あのー」

 と、ぷよぷよしていて、髪が雲みたいにもくもくしている男が手をあげた。


「はいっ、何でしょーっ!?」

 ひよむーに指名されると、ぷよぷよもくもく男はおなかをさすりながら、

「おなかすいた……」

「知るかーっ」

 ひよむーは地団駄を踏んだ。

「何なんですかあなたたちはもおー! こんなにあれですよ、ばらばらってゆーかだらだらってゆーか微妙すぎる感じはそうそうないです! いーんですか、そんなことで!? いーんです! ひよむーのお仕事は、あなたたちを義勇兵団事務所に連れていくことなので! あとのことなんざー知ったこっちゃないのでーす! というわけでー! いっきますよー! ついてこなかったら、どうなっても知りませんからねー。はいはい、しゅっぱつしゅっぱーつ」


 ひよむーが歩きだして、何人かがつられてそのあとを追いかけはじめた。


 あたしは、迷った。でも、見ると、塔のあたしたちが出てきたところはもう、閉まっている。塔の中には戻れない。戻ったってどうするのっていう感じでもある。ひよむーはたしか、ぐりむがる? とか言ってたけど、ここがどこだかは、依然としてわからない。当然、行きたいところはない。どこに行けばいいのかもわからない。


「どしたの」

 と、いかにもチャラそうな、癖毛の男に肩甲骨のあたりを、ぽんっ、と叩かれて、思わずあたしは、

「ぃぁっ」

 と叫んで飛びのいてしまった。


「え……何?」

 癖毛チャラ男はびっくりしているみたいだけど、びっくりしたのはあたしのほうだし。

「な、なん、なん、な、なん、な……何? な、何なの?」

「え。何って。なんか止まってるから。行かねぇーのかなって、思って。ただそれだけなんだけど」

「そ、それだけっ。それだけなのにっ、な、なんでさわるのっ?」

「いや、さわたって……ちょっとあれでしょ? ぽーんってしただけじゃない?」

「いらなくない!? ぽーんって! いらないでしょ!? さわる必要なくない!?」

「まあ、ないけど……」

「さわらないで!?」

「わ、わかったって。ごめん」

 癖毛チャラ男は両手を合わせて、ウインクをしてみせた。

「ごめんって。謝るからさ。ね? 悪かったよ。そんなに怒ると思ってなかったし。べつに意識してさわったわけでもないし。注意するからさ。ごめん。許して。ね?」


 正直、キレすぎかも、と自分でもちょっと思った。でも、びっくりしたから。

「……いいけど」

「ごめん」

 癖毛チャラ男はガバッと頭を下げた。

「悪かった! もうしません! 許してください! 反省してます!」

「い、いいって言ってるでしょ!? や、やめて!? そ、そこまで……」

「いや、ほんと」

 癖毛チャラ男は頭を上げたけど、神妙な顔つきをしている。

「悪かったよ。えって、名前は?」

「……カズラ、だけど」

「カズラね。あ。呼び捨て、いい? なんかつける? カズラさん?」

「……いいけど。何でも」

「うっそ。マジで? いや、でも、カズラさんでいくわ。いやじゃない?」

「いやじゃ、ないけど……」

「あー。よかったー。あっ、俺、ミチオ。ミッチーでもいいけど、ミチオでもいいし」

「……じゃあ、ミチオで」

「うん。オッケー。あ。そうだ。で、行かないの?」

「え?」

「ほら」


 あたしたちは丘の上にいる。塔はこの丘の上に立っていて、下りていくと、壁に囲まれた……街? みたいなものがある。


 ミチオはそっちのほうを指さした。

「みんな、行っちゃってるからさ。このままだと、置いてかれちゃいそうだし。俺らも、行かない?」


 本当だ。


 あたしとミチオをのぞいた十人全員が、ひよむーにつづいて丘を下りていく。


「い、行く」

「だよね。行くしかないよね、一応。さっ、行こ、カズラさん」

 ミチオはそう言うと、あたしの手首をつかもうとして、

「うわっ。ごめん! またさわっちゃいそうになった!」

 と、寸前のところで手を引っこめた。

「ごめんごめん。さわらなかったから、許して。いやー。カズラさん、かわいいからさあ」

「か、かわいいっ!?」

「うん。それで、ついね。でもほんと、さわったりしねぇーから。安心して」

「……か、かわいくないけど!?」

「いや、かわいいよ。ていうかさ。そういうのって、何? 主観? の問題だからさ。カズラさんがかわいいと思うのと、俺がかわいいと思うのって違うかもだけど、俺がかわいいと思えばそれは俺にとってかわいいわけだから……えーと、何? よくわかんなくなってきた。とにかく、俺はあれだよ、カズラさんのこと、かわいいと思うよ。あと、これ」

 と、ミチオは自分の左頬をさわってみせた。


 あたしも、自分の左頬に指先をあてた。


 そこに何があるか、あたしは知っている。


 ミチオはにこっと笑った。

「似合ってるよ。タトゥー。何だろ。その柄。花? かわいくて、かっこいい」


「……ありがと」

 あたしは下を向いて、左頬を強くこすった。顔がゆがむほど、強く。


 あたしは、知っている。


 この部分に、四つ葉のクローバーのタトゥーが入ってることを。


 あたしは、知ってる。


 でも、このタトゥーがあたしには似合っていないことを。


 だけど、あたしは知らない。


 いつ、どこで、どうして、あたしがこのタトゥーを入れたのか。


 あたしには、タトゥーなんて似合わない。それでも、ミチオに「似合ってる」って言われて、少しだけ、嬉しかった。


 もし、あたしが「普通」だったら、ちょっといいなって思って、惹かれていたかもしれない。


 でも、あたしは男の子が苦手で、女の子が好きだ。


 そのことを、あたしは知っている。

 この「大英雄になれなくて何が悪い」を書こうと思いたったのは、一つにはもちろん、『大英雄が無職で何が悪い』が書籍化されるので、その記念……まあ平たく言うと、販促のために何かやろう、という話があって、じゃあ、というわけで書くことにしたわけですが、だったら普通は、『大英雄が~』のキャラクターが出てくる短編、SSなんかでいい、というか、担当編集者氏としては、そうして欲しかったようです。


 でも正直、そういうの、僕はあまり、というか、まったくやりたくなかった。専門店などの特典としてSSを書くことはよくやるのですが(ちなみに他の方はどうか知りませんが、僕の場合はどれだけ書いても原稿料は出ません。ただ働きです)、これ、意外と難しくて、本編に関わりすぎてもいけない。それを読まないと、本編のここがわからない、といったことがあると困りますからね。手に入れられる人は、限られているわけだし。でも、本編にまったく関わりがなくてもよくない。それだと、読んでもらう意味がないですから。結局、なんとなく、本編のキャラクターがいい感じに見えるシーンみたいなものを書いたりするのですが、この「小説家になろう」という場でまで、それと似たようなことをするのか、と考えたら、いやだな、と思ったのです。そんなの、つまらないな、と。


 私事で恐縮ですが、現在いくつか新作の準備をしていて、そちらはものすごく神経を使う作業なもので、そういうのじゃない、気を遣わずに、好き勝手にのびのびと書けるものを書きたかった、というのもあります。この外伝は間違いなく販促なのですが、そもそも、『大英雄が~』本編だって、「小説家になろう」で公開して、なんとか読んでもらえそうなもの、という枠は、自分で設けたのですが、それ以外のことは何も考えずに、書きたいように書いた。じゃあ、販促の外伝も、好きなように、書きたいように書いたっていいじゃないか。そういうものが、この場には合っているんじゃないか。


 ……というような次第で、外伝「大英雄になれなくて何が悪い」は、こんな感じのお話になっています。


 明日も、更新する予定です。

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