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大英雄が無職で何が悪い  作者: 十文字青
外伝「大英雄になれなくて何が悪い」
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第2話 月を見たかい




 いやーまいったな。

 まいったわ、マジで。

 ほんっと、まいったわ。

 まいったわー。


 眼鏡が三人もいる。


 いやまあ、十二人いるから? 十二人中三人って、眼鏡率としては高くないかしれないかもだけど?


 問題はさ。


 男なんだよ。眼鏡が三人とも、男。男眼鏡なんだよ。これ、どうよ?


 まあ、まあ、まあ、ね? 男眼鏡のうち一人はね? 坊主眼鏡だから、まあいいとしても、だよ?


 こいつはなー。俺の前を歩いてる、この男眼鏡はなー。微妙だなー。髪型は、俺はあれだし? 色明るめの短髪だし? 前の男眼鏡は黒髪だからいいとしても? 背は俺が183で、前の男は俺よっか低いからいいとしても? でもだよ?


 なんかなー。被るんだよなー。微妙になー。ほら、俺とか、ソフトな物腰を心がけちゃってる感じじゃん? 前の男眼鏡もなー。なんかそっち系? なんだよなー。これがなー。かすってる感じなんだよなー。微妙に被ってる感なきにしもあらずなんだよなー。


 あと、俺の眼鏡、伊達だしね?


 いっそ、眼鏡外しちゃう?


 いやー。それもなー。今さらなー。どうかと思うよなー。


 あれ? 眼鏡は?


 とか言われたらめんどくさいしなー。外すのはナイなー。ナイかー。ナイよなー。


 ……みたいなことを考えながら、俺は、つーか、俺たちは、一列になって洞窟みたいなところを歩いている。


 壁の高めのところに蝋燭があって、それがずらっと並んでいるので、そっちのほうに行ってみようみたいな感じになって、そうしている。


 もちろん、当然、自分がなんでここにいるのか、ここはどこなのか、自分の家族のことも、いたに違いない友だちのことも、それから自分自身のことも名前とか顔とか身長とかくらいしか覚えていないっていうのは、大問題だと思う。それはわかってる。


 だけどなー。どうしようもないし? まあ、あと、全員同じっぽいしね。いやーまあ、だけど、考えるとやばい感が増してくっけどね。やばいよなー。覚えてないとか。意味わからんし。どうしよって感じ。


 そこは考えないほうがいいのかな、とかも思うよね、実際。考えすぎると、うわーってなるしね? やばいよな、実際。


「ちょっと、前の人」

 なんとなく、声、かけてみたりしたら、前の男眼鏡がちらっと振り返って、

「はい? どうかした?」

「あ。いや。えっと、名前は?」

「ヒサヤ」

「あれ。そうなんだ」

「きみは?」

「俺? ヒノト」

「へえ……」


 ヒサヤっていうらしい男眼鏡の「へえ……」は、微妙な感じの「へえ……」だった。うん。俺も微妙な感じだけどね?


 俺が伊達眼鏡で、おまえは度が入ってるかもしれないけど眼鏡で、眼鏡が被ってんじゃんっていうね?


 さらに、俺がヒノトでおまえはヒサヤって、ヒが被ってんじゃんっていうね?


 あと、俺は正直、わりと頭いいほうだけど、ヒサヤも頭いいっぽい感じの雰囲気出してる感じで、そのへんもね?


 嫌いだな、こいつ。ヒサヤ。つーか、邪魔だな。なんでいるんだ? こいつ。いなくなれよ。消えろ。


 まあ、そこまでは思わんけど、なんかやだよね。おそらく、ヒサヤも似たようなこと思ってんじゃないかな的な感じはあるけどね。


「何か、あるな……」

 と先頭の……何だっけ、ムサシだっけ。ムサシだ、ムサシ。ムサシが言った。


 見ると、たしかに前のほうに何かある。鉄格子みたいな? 扉的な? そういうものが、蝋燭じゃなくて壁掛けランプの灯りに照らされている。


 俺たちはそこまで行った。


 銀髪の頭がおかしい変なやつ、ケイタ・カッコカリがムサシを押しのけて、鉄格子の扉を押した。

「むう……我が行く手を阻むか……? さては魔王の使いだな……?」


「引いてみれば?」

 とヒサヤが言った。それ、今、俺が言おうとしたのに。先を越された。くそ。やっぱこいつ、嫌いだ。


「フッ……この俺が、引くだと……?」

 ケイタは髪をかきあげてから、鉄格子の扉を引いた。

 あっさり開いた。


「ははっ」

 と、癖っ毛ですらっとしているチャラそうな男が笑った。


 ケイタは振り向いて癖毛チャラ男を睨みつけ、

「貴様。覚えていろよ。未来永劫、魔なる者ヴェルダーシュの呪いに苦しむことになるぞ。暗黒の淵に沈むがいい……」


「え?」

 癖毛チャラ男は自分を指さして、

「俺? 何? え? ベロがどうしたって?」


「ヴェルダーシュだ! ヴェルダーシュの名を間違えるとは……愚か者め。地獄の苦しみを味わえ」


「味わいたくねーなぁ、それ」


「もはや逃れることはできない……」

 そんなことを言いながら、ケイタは鉄格子の扉の向こうへと進んでいく。


「きもい、あの人……」

 と、女子の一人がひっそりと呟いた。うん。俺も同感。


 まあいいかって感じで俺たちはケイタのあとにつづいた。扉の先には階段で、上っていくと、また鉄格子があった。


「むっ……」

 ケイタが変なポーズをとった。

「貴様、何者だ……!? 魔王の手先か……!?」


 鉄格子の向こうに人が立っている。男だ。それはいいんだけど、いいのか? よくないか? とにかく、男の恰好が変だ。


 だって、鎧とか着てるし?

 兜とか被ってるし?

 あと、剣的なものとかまで持ってるし?


「お。ゲームっぽい」

 俺はそう呟いて、あれ……? と思った。


 ゲームって何だ?


 いや、ゲームは……遊び? みたいな? なんか、でも……違う。そういうことじゃなくて。ゲーム……ゲーム……あれれ……? なんかよくわかんねーな。わかんねーし、いいか。よくないけど、マジでわかんねーし。


 俺が「ゲーム」について考察している間に、魔王の手下……じゃなくて、鎧の男が鉄格子を開けてくれた。


 そこを通ると、けっこう広い石造りの部屋だった。


 きょろきょろしていたら、重い音が響きはじめた。壁の一部が沈みこんでいる。見ると、鎧の男が壁の黒っぽい何かの器具を引いていた。レバー? 隠し扉、とか?


 壁の一部が開いて、その向こうは「外」だった。


「出ろ」

 と、鎧の男が顎をしゃくって外を示した。日本語かよ、と思った。だって、鎧の男だし。なんか変だよな。でも、具体的に何がどう変かっていうと、うーん……あれ? つーか、ニホンゴ? て、何だ?


 ニホ……あれ?


 何だっけ。


 んん……?


 とにもかくにも、出ろって言われたし、俺たちは外に出た。


「フハハハッ……!」

 急にケイタが笑いだした。

「見るがいい! あれを……!」


 俺はケイタが指さしている……空を見上げた。

「え……」


 時間的には、夜明け前ってところか。白みはじめている空に、月が浮かんでいる。


 赤い。


 満月と半月の中間くらいの、真っ赤な月が。

明日も更新する予定です。

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