6 プロポーズは屋上で
「先生、やっぱり結婚がしたいです!」
「ああそう」
ベッドの中ではあんなに優しかったのに、翌朝学校に行くと最愛の人はまたいつもの冷たさを取り戻していた。
しかし私はめげない。めげるわけがない。
「先生の温もりを実感してわかったんです。やっぱり私には先生しかいないんです。側にいるだけで心の底からホッとできて、その腕に抱かれるだけで胸がいっぱいになって、頬にかかる吐息を感じるだけで体が溶けそうになって……」
まだ説明の途中だったが、途端に先生が私の腕を掴んで職員室を飛び出した。
何となく周りの視線が気になったが、先生に腕を引かれたことが嬉しすぎてその真意を測る暇はなかった。
「アホか! 下手に誤解されたらどうする!」
そして先生が連れてきたのは学校の屋上だ。この場所は基本生徒は入れないので、今日も人気はない。
これは、これはまさに告白をするシチュエーション。
そう思って高鳴る胸を押さえていると、先生に聞いているのかと怒られた。
「もちろんです、だから今すぐ言って下さい! 結婚しようって!」
「聞いてねぇだろやっぱ!」
馴染みの衝撃がして、私の頭に先生の拳骨が降りてくる。その痛みすら愛おしい。むしろもっと殴って欲しい。
と思っていたのが口から出たようで、先生が若干ひいている。でもその顔すらやはり愛おしい。
「お前、本当に病院に行け。マジでやばいぞ」
「恋の病はお薬じゃ治せないんですよ」
かわいこぶって言ってみたが、先生は無視した。
「つーかお前、どうしてそこまで俺に固執する」
「だからそれは、私と先生が運命の相手だからです」
「でも俺は覚えてない」
そう言う先生は、いつもよりとても真面目な顔だった。
でも何故だが、ほんの少しだけ辛そうにも見えた。
「万が一、俺がお前の元彼だったとしてもだ。俺は最愛の女の記憶を綺麗さっぱり、跡形もなく、塵さえ残さず完璧に消し去るような男だぞ」
「それは確かに傷つきましたけど……」
「そんな奴よりもっといい男がいるだろう。趣味趣向は変態だが、お前は顔だって悪くないし俺への変質的なストーカー行為を除けば性格だって悪くない」
「褒めてないですよね」
いいから聞けと肩に手を置かれ、私は渋々先生を見上げる。
「高校生活だってもう半年しかない。俺なんかに構う暇があったら、ちゃんと高校生らしく、まっとうな恋をしろ」
タダでさえ普通じゃない毎日だったのだからと、先生は言った。
多分彼は、女子生徒に喧嘩を売られ続けた2年間のことを言っているのだろう。
たしかに傍目から見ればあれはとても酷いイジメだった。校長先生が本気で寝込むほど酷い有様だった。
もしかしたら先生は、その事をずっと気にしていたのかも知れない。
だから私と距離を置こうとしていたのかも知れない。
けれどそんなのは無意味だ。
だって私は先生と過ごした月日を後悔したことはない。いつだって、私は彼のために受ける苦難を後悔したことはない。
「そうやって、私を気づかってくれるところが好きです」
「何だよ突然」
「さっきのってつまり、『俺なんかでいいのか?』っていう変化球的な告白でしょ?」
違うという先生の肩に、今度は私が手を置いた。
「記憶が無くても良いんです。別に前のあなたになって欲しいとも思ってません。だって私は、今の先生も大好きだから」
大嫌いだと言いながら、私のことをちゃんと考えてくれる所とか。
五月蠅いと言いいながら、私の前世の話をちゃんと聞いてくれた所とか。
近づくなと言いながら、私が寂しいときは必ず側にいてくれる所とか。
手は出るけれど、殴るときも首を絞める時もちゃんと手加減している所とか。
数え始めたらきりがないくらい、私は今の先生が好きなのだ。
「だから私、先生と結婚したいです!」
見上げたその顔は、初めて見る種類の動揺に満ちていた。
思わず顔を背けても、その耳が赤くなっているのはわかっている。
勝った!これは絶対に勝った!
その喜びに、私は先生の頬に小さな口づけを落とす。
「358回目のプロポーズ、待ってます!」
とっておきの笑顔で言うと、返事の代わりに拳骨が落ちた。
でもいつもより、拳骨には愛が籠もっていた。と、思う。
それを言ったら気のせいだと先生は怒るかも知れないけれど、やっぱり彼は私の運命の人だと、その痛みから感じた。
だからきっと、いや絶対に、彼は私の旦那様になる。
そして今度こそ、私達の愛は永遠に結ばれるのだ。
358回目のプロポーズ【END】
お読み頂きありがとうございます。
短いお話でしたが、楽しんで頂けましたら幸いです。
またこちらのお話には続きがあったりしますので、もしご興味を抱かれた方がいらっしゃいましたら、そちらも覗いて頂けますと嬉しいです。
※続編の方は、「359回目のプロポーズ」で小説検索して頂くか、目次ページ上部にありますシリーズタイトル「プロポーズはお早めに」から飛んでいただけます。あわせてよろしくお願い致します。