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第1話 スライムしか生めない

第1話 スライムしか生めない


 スライムって本当かわいいよなぁ。


 丸くて、ぷるぷるしていて。

 でもゲームではいつも最初の経験値にされる。


 本当はもっとやれるはずだ。


 人間みたいな骨も筋肉もないのに、動く。

 目も口もないのに、生きている。

 柔らかい体ひとつで、世界に触れている。


 可能性の塊だ。けれど、弱い。


『意識覚醒を確認』


 文字が浮かんだ。

 音声ではない。頭の中に、直接刻まれるような表示。


『種別:ダンジョンコア』

『等級:F-』

『保有魔力:3』


 ダンジョンコア……。


 その単語を理解した瞬間、前世の記憶がぶつ切りになって戻ってきた。

 日本で働く、ただの会社員。それが俺だった。


 仕事帰り。コンビニ袋。

 赤信号。スマホの通知。

 強い光。

 衝撃。


 はは。俺、死んだのか。


 異世界転生。前世で何度も読んだ言葉が浮かぶ。

 勇者、賢者、魔王、貴族。最強スキルに神様特典。

 剣と魔法の世界。冒険、チート無双、スローライフ。


 期待した異世界ライフ……ではない。


『初期設定を確認します』


『初期区画:核室』

『初期魔物:なし』

『初期罠:なし』

『生成可能魔物:スライムのみ』

『固有迷宮規則:死に戻り/封印中』


 待て待て待て。


 初期魔物なし。初期罠なし。

 そして、『生成可能魔物:スライムのみ』。


 のみ。


 俺が生める魔物は、スライムだけ。

 しかも、今はそのスライムすらいない。


 意識を向けると、壁と空間の境目くらいはぼんやり分かる。

 天井、石壁、床。中央に台座が一つ。

 目で見ているわけではない。あるのは、小さな核室だけ。


 手を動かそうとしても、動かす手がなかった。

 本当に俺は、ダンジョンコアに転生してしまった。


 保有魔力三。等級F-。

 Fですらない、マイナス付き。最弱にもほどがある。


 死に戻りという言葉だけは、いかにも便利そうだ。

 だが、封印中。誰が、どう戻るのかも分からない。


『魔物生成:実行可能』

『生成可能魔物:スライムのみ』

『必要魔力:3』

『実行しますか?』


 保有魔力三。必要魔力三。

 全魔力を使えば、一匹だけ生める。


 核室へ、もう一度意識を向けた。

 床も、壁も、動かない。

 俺も動けない。


 ここに、スライムが一匹。

 ぷるぷる動いてくれたら。


 ……会いたいな。


 実行。


『魔力3を消費します』

『現在保有魔力:0』


 核室の床に、薄い光が落ちた。

 水滴が跳ねる。湿った石の上で、光が丸く膨らむ。


 ぷるん。


 生まれた。

 透き通る翡翠色の、小さなスライム。


 目はない。口もない。鳴き声もない。

 中心には、若葉の輪のような核紋が浮かんでいる。


 その小さな体が、ゆっくりこちらを向いた。

 目なんてないのに、俺を見ている気がした。


 かわいい。


『生成結果:スライム』

『個体色:透翡翠』

『核紋:若葉環』

『魔力伝導率:B』

『総合評価:F』


 総合評価F。弱い。分かっていた。

 それでも、こんなにかわいいスライムを、いきなりF扱いするな。可愛さを加点しろ。


 だが、魔力伝導率B。

 総合評価Fの中で、そこだけが妙に高い。

 この小さな体は、魔力を通せるらしい。何を、どこまで。

 ……まだ分からない。


 考え込んでいた俺の元に、スライムが近づいてきた。


 ぺたり。


 台座に寄り添うように止まる。人懐っこい猫みたいだ。

 可愛さがたまらん。


 撫でようとして、また手がないことを思い出した。


『周辺情報を取得します』


『周辺領:グランゼル辺境伯領』

『管轄:王国勇者局/迷宮資源管理課』

『登録勇者数:110721』


 は? ナニその数字。


 十一万七百二十一。

 勇者が多すぎるだろ。


『注意事項』

『未登録ダンジョンは、発見次第、討伐・封鎖・接収の対象となります』

『勇者活動中に発生した損害は、任務上の必要行為として処理される場合があります』


 討伐。


 台座の足元で、翡翠色の体が揺れた。

 柔らかい。鎧も、牙もない。

 ゲームなら、最初に倒されるやつだ。


 ここでは、勇者がそれをやりに来る。


 俺が悪いかどうかじゃない。未登録のダンジョンだから処理される。

 この体を潰して、俺を砕いて。それも任務上の必要行為か。


 ……笑えない。


 スライムは台座に寄り添ったままだ。

 俺は手も伸ばせない。魔力も、もうない。


 こんな穴に、生んでしまった。


 小さな体が、ぷるりと揺れる。

 若葉の輪が、こちらを向いている。


 俺は、その一匹に意識を向けた。


 名前をつけよう。

 スライムという枠だけで終わらないように。


 ライム。


『個体名:ライム』

『登録しますか?』


 登録。


『個体名登録を確認』

『対象:ライム』


 ライムが、ぷるりと揺れた。

 名前に反応したのかもしれない。ただ震えただけかもしれない。

 どちらでもいい。


 頼りないコアですまん。


 でも、これから一緒に生き残るぞ。


 ライムは、もう一度小さく揺れた。


『初回魔物生成を確認』

『個体名登録を確認』

『初回観察条件を達成』


『報酬:魔力+2』

『現在保有魔力:2』


 魔力が戻った。

 少ないが、ゼロではない。


『新規項目を解放します』


『スライム観察記録』

『簡易生成ガチャ』

『ダンジョンカスタム』

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