第13話『急襲』⑨
ウォーグがとんでもない力を手に入れてしまったのは間違いないようだ。事実、優が憧れたあのカイゼルの攻撃がまるで通用していない。パワー、耐久力、いずれも格段にパワーアップしているのは明らかだ。
「せめて我自ら引導を渡してくれよう」
ウォーグが動いた。右の拳が軽く振られたかと思うと、カイゼルの腹にめり込むように命中し、その身体は後方に転がるように吹っ飛ばされた。
「カイゼルさんっ!」
父に前を塞がれ駆け寄る事は出来ないが、優はあらん限りの声を出した。
「だ、大丈夫だ……」
カイゼルはかろうじて立ち上がる。ウォーグは腕を組み、余裕の表情でそれを見下ろしている。
「いいか、ここからの俺の戦いをよく見ておけっ」
カイゼルは優に向かって叫んだ。身体はふらつき、足下も覚束ないような状態であったが、それでも強い意志を感じさせる言葉だった。
「カイゼル……さん」
「馬鹿な奴だ。勝ち目のない戦いに我が身を捨てるとは……」
「父さんっ! それ以上の侮辱は許さないっ」
「優、お前こそ目を覚ませ。あんな状態でどうやってウォーグ様に勝てると言うのだ。ただの無謀でしかない」
「くっ……」
父の正論に優は言い返せない。確かに今のカイゼルに打開策はないように思えた。
ウォーグの方が先に動いた。距離を縮め、薙ぎ払うような右の拳が唸る。立っているのもやっとの筈の男に成す術はないと思われたが、
「何っ」
カイゼルの左腕はしっかりとウォーグの剛拳を受け止めていた。
「金の……光!」
優はまばゆい金色の輝きがカイゼルを包んでいるのを見た。今までの銀の光とは明らかに異質のものだ。
「よく見ておけっ! 迫川優っ!」
金色の光がウォーグを吹っ飛ばした。さらに追撃の飛び蹴りが炸裂し、相手を地に這わせた。逆に相手を見下ろし、雄々しく立つカイゼルの姿は、神々しいばかりに黄金の輝きを放っている。
「やっぱりカイゼルさんは凄い……」
優は半ば感動してこの光景を見ていた。あれだけやられながら、こんな力を出してくるなんて、自分の憧れた男を改めて誇りに思った。
「もう一度言う。よく見てろ、迫川優! 俺の次に戦うのはお前だ」
金色の仮面が振り返り、優の顔をしっかりと見据えていた。まるで遺言のような言葉……、もしかしたらカイゼルのこの途轍もない力は、命を燃やした最後の輝きなのかも知れない。
「少しばかり力が増したくらいで調子に乗るなっ!」
ウォーグはすぐさま起き上がり、優まで届きそうな風圧の蹴りを繰り出すが、カイゼルはさらに速く動いて飛び膝蹴りを顔面に食らわせた。のけぞるウォーグにさらに高速連打の追撃を加える。先程とは完全に形成が逆転した。カイゼルの黄金のエネルギーは、ウォーグの原子力パワーを完全に上回っている。
再度ウォーグを吹っ飛ばしたカイゼルは、瞬時にマインズの下へ移動し、これも回し蹴りで一蹴し、優の脇へ来た。
「優、よく聞け」
「は、はいっ」
「いいか、俺はこの戦いでたぶん死ぬ。後はお前がやるんだ!」
カイゼルは自分の腹部を指し示した。おそらくそこにアメージングストーンがあって、彼にこの力を与えているのだろう。
「お、俺が……でも、カイゼルさん、今、十分にウォーグを上回っているじゃ……」
「これは石が俺に与えてくれた最後のボーナスタイムみたいなもんだ。もう身体が持たんし、おそらくウォーグを倒すまでは続かない……。いいか、お前がアメージングストーンを使いこなすんだ、頼んだぞ」
「そんな……」
言葉が続かない優を置き去りにして、カイゼルは無言で再度ウォーグに突っ込んで行く。
「おのれ、消え去れぃっ!」
ウォーグは己れの腕にエネルギーを集中させている。またも爆発するようなオーラが赤黒く渦を巻く。ここに原子力の力が加わっているのだとすれば、とんでもないエネルギーの塊という事になる。これをカイゼルに向けて放って来た。
「ゴールデンッ……シャイニングバーストッ!」
これに対してカイゼルも両腕に金色のエネルギーを集中し、眩いばかりの黄金球を放った。互いが放った二つのエネルギーの塊が中間でぶつかる。
ぶつかり合ったエネルギーの影響か、目も眩まんばかりの輝きが一帯を包み込み、衝撃波が発生し、優もマインズも吹き飛ばされた。とんでもないパワーが空間全体を爆発させたような衝撃だった。視界がなかなか晴れない。
「カイゼルさんっ!」
立ち上がった優は、マスクの暗視スコープでカイゼルの姿を探した。カイゼルもウォーグもエネルギーを放った位置に確かにいる。優はスコープを頼りにカイゼルの下へ駆け寄った。
「くっ……」
カイゼルは仰向けになって身体を震わせていた。確かに本人が言っていた通り、瀕死の状態に見える。
「カイゼルさん」
「優……あとは頼む。お前ならきっとやれる。この力……黄金の勇気の力を使いこなすのはお前だ!」
カイゼルは震える腕で自分の腹部から煌めく塊を取り出した。
「カイゼルさんっ」
「俺のことはいい。早く石を受け取れ……」
カイゼルが取り出した輝石を優に渡そうとすると、
「ならん、マインズ、奪え! 石を」
爆風から立ち上がっていたウォーグがそれに気付いて叫ぶ。石を受け取らんとする優にマインズが襲い掛かる。
「これは……!」
石を手に取った瞬間、不思議とマインズの動きがゆっくりになったように見えた。
「マッハパンチ!」
その隙を突いて父の顔面にマッハパンチが炸裂した。
「これが……アメージングストーン!」
父を殴り飛ばし、石を手に取った優はそれをじっくりと眺めた。石は赤、青、黄、銀、金、様々な色を見せて輝きを放つ。
「カイゼルさん……。俺……やります」
カイゼルは既に倒れ伏してしまい、起き上がらない。優にこの石を託して逝ってしまったのだ。優は石を腹部に当てた。すると、石は吸い込まれるように体の中へ入って行った。一瞬、全身に電気ショックでも受けたかのような衝撃が走る。




